生産地限定、銘柄限定、女性向け……近年の日本酒熱の上昇も手伝い、全国各地で多くの日本酒イベントが開かれるようになりました。イベントは日本酒の新しい魅力を発見できる貴重な場ではありますが、大小さまざまなイベントがひっきりなしに開催されるさまは、少々乱立気味に感じられるのも事実です。

「紀土」を製造する平和酒造の4代目当主・山本典正さんは、自身が主催・共催者となってさまざまな日本酒イベントを手掛けています。連載第3回目の今回は、蔵元として、主催者として、どのような思いで日本酒イベントに取り組んでいるのか? そして、玉石混交ともいえる最近の日本酒イベントの現状について、どのように感じているのか? 率直な考えをお聞きしました。

若い蔵元と飲み手が出会う「若手の夜明け」

現在、山本さんが主催者として開いている日本酒イベントは主に3つ。まず1つ目は、前回の連載でもご紹介した「若手の夜明け」です。20〜30代の若い蔵元が参加者と直接顔を合わせ、自慢の酒を振る舞います。去る10月9日には東京・渋谷で第4回目が開催され、蔵元と同世代の若い方を中心に多くの参加者が足を運びました。

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「"若い方にもっと日本酒を飲んでほしい"というのが『若手の夜明け』のコンセプト。お客様にもそれをよく理解していただけているようです。『最近、日本酒に興味を持ち始めた』という方がいらっしゃったり、普段から日本酒をよく飲まれる方が、日本酒を好きになり始めた方を連れてきてくださったりします」

蔵元との会話が楽しめるのも「若手の夜明け」の魅力。日本酒を初めて飲む人やまだ飲み慣れていない人たちにとって、その向こうにいる造り手の存在を意識する機会は決して多くありません。地酒に込められたクラフトマンシップを伝えるためには、「普段飲んでいるお酒は、こんな顔の、こんな人柄の人が造っているんだ」ということを知ってもらうことであり、「若手の夜明け」はそのための場づくりであると山本さんは語ります。

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「参加者の方から『純米酒って何なんですか?』『このお酒とあのお酒はどう違うんですか?』とか初心者的な質問を受けることが多いのもこのイベントの特徴ですね。皆さん『蔵元に初心者的な質問をするのは失礼なのでは?』と誤解される方も多いのですが、僕たちとしてはむしろ嬉しいのです。『マニアックなことを質問しなければいけない』なんてことは決してありません。素直に『詳しくないので教えて』と言っていただいて構いませんよ」

日本酒のあるライフスタイルを提案する「AOYAMA SAKE FLEA」

続いて「AOYAMA SAKE FLEA(アオヤマサケフリー。以下、『SAKE FLEA』)」。こちらは東京・青山の国連連合大学前広場で毎週末開催されている「Farmer’s Market」内の日本酒マーケットです。過去4回の開催はいずれも好評で、来たる11月12日(土)、13日(日)には第5回目が開催されます。屋外のマルシェで、オリジナルのお猪口と気軽なチケット制でお酒を楽しむ「SAKE FLEA」は、「若手の夜明け」と比べてよりオープンな印象を受けます。

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「『SAKE FLEA』は、"情報発信"を意識したイベントです。Farmer’s Marketは全国の農家や生産者の方々が出店するマルシェなので、そこにいらっしゃる方はそもそも"食"への関心が高い方だと思います。表参道や青山周辺というと、年齢を問わずきちんとした大人の感性を持っている方が集まる場所だと思うので、そういう感度の高い方に情報提供をすることで、彼ら自身から日本酒を発信していってほしいという狙いがあります」

さらに、「SAKE FLEA」はこだわりのフードの提供をしており、"日本酒のあるライフスタイルの提案"という役目も担っていると言います。良いお酒、良い食事、良い音楽の中で心地良い時間を過ごせれば、自宅でも同じことをしてみようという気持ちになるはず。「日本酒のあるライフスタイルのモデルを、非日常的な空間で体験してもらいたい」というコンセプトは、過去4回の開催を通してイベントが育ってきた中で確立されました。ライフスタイル提案型のイベント自体は珍しくありませんが、山本さんの徹底的なこだわりにより、"上質な体験ができる"というのが「SAKE FLEA」の強みです。

日本酒×DJミュージック ― イベントを通して固定概念を壊したい

「以前、『日本酒に合う音楽ってなんだと思いますか?』と質問されたことがあります。普通に考えれば、演歌、和楽器を使った伝統音楽、ジャズといったところでしょうか。たしかにそれらの音楽なら違和感なくマッチすると思いますが、それではおもしろくない。ロックやダンスミュージック、DJの流すクラブミュージックなど、一見日本酒とは結びつかない音楽とコラボさせた方が、イベントとしてのおもしろさは出るはず。少なくとも僕はそういうイベントをやっていきたいと思っています」

そう語る山本さんが主催する3つ目の日本酒イベントが「音×酒=夜会(オンシュヤカイ。以下、『夜会』)」。地元の和歌山で、DJが流す音楽に身を委ねながら、「紀土」をはじめとする平和酒造のお酒を楽しむ、新しい"大人の夜遊び"イベントです。

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「地元で開催していることもあり、『夜会』は非常に実験的なイベント。お客様の満足度は高かったと思います。音と酒があると、人と人ってすごく共鳴し合うんですよね。そういう場づくりができたのは、主催者としてもやって良かったと思っています」

「夜会」を通して伝えたいのは"日本酒の適応力は意外と高い"ということ。「お洒落な空間で飲むのはワインでなければいけない」「賑やかな場で飲むならビールでなければいけない」といった固定概念を壊すことが目的だといいます。一方で「日本酒への固定概念を、どこまでなら壊してもよくて、どこまで壊したらダメなのか。そのバランスをイベントの主催者としては大事にしています」といい、独創的な取り組みの中でも日本酒への敬意を忘れていないことが伝わってきます。

質の良い酒づくりをして発信しなければ、イベントを開く意味がない

特色の異なる3つの日本酒イベントを主催する山本さんは、最近の日本酒イベントの多さに驚きながらも、各地にそうした流れがあることを好意的に捉えています。一方で、「あくまで大切なのは主役である酒の味であって、クオリティーの高さはきちんと守るべき」と強調し、最近散見される商業優先な一部のイベントに警鐘を鳴らします。

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「最近日本酒イベントが増えてきた中で危惧しているのは、決してクオリティーが高いとは言えないお酒がイベントによって市場に流通していくことです。日本酒ブームと言われていますが、業界はこの40年間で右肩下がりを続け、市場もどんどん縮小しています。要するに、まだまだ一般的には日本酒って受け入れられていないのです。その中で、僕たち生産者が考えなければいけないのは『日本酒が消費者にとって遠い存在であり、おいしくないと思われているという状況をどうするか』なのです。

たしかに今、日本酒イベントをやれば人は集まりますが、本質的に発信すべきものは単なる"日本酒"ではなくて、"おいしい・良い日本酒"でなければいけない。売るためだけにお酒を造って、人を呼ぶためだけのイベントを開くというのは、僕はすごくズレていると思います。日本酒の市場がこれだけ落ち込んでいるときに、まだそんなことをしているのか、と。良いお酒を造ったうえで広めていかないと、いくら情報発信しても意味がありません。お客様がイベントでおいしい日本酒に出会い、数年後にそのお酒が人気銘柄に成長していたら、『あのとき飲んだあのお酒だ!』と感動するはず。日本酒イベントはそういう出会いのある場であってほしいと思っています」

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最近特に感銘を受けたのは、元サッカー日本代表の中田英寿さんがプロデュースし、2016年2月に行われた「CRAFT SAKE WEEK@六本木ヒルズ屋台村」だといいます。10日間におよぶ開催期間中、各日異なるテーマで合計100の酒蔵が登場し、延べ7万人の来場者が訪れ話題になったイベントです。もちろん、平和酒造も「紀土」を引っ提げて出店しました。これまで10年近くイベントを手掛けてきた山本さんですが、このときは中田さんのプロデュース力に舌を巻いたと言います。

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「100の酒蔵をああいう魅力的なパッケージで組むということは、我々には真似できません。中田さんだからできたことだと思います。まさに"良いもの・良いお酒だけを並べる"イベントの上級版というイメージですね。素晴らしいなと思ったのと同時に、正直悔しかったです。今までいろんなイベントに取り組んできたのに、一気に抜かれてしまったと思いました。でも、そういうすごいイベントが見られたからこそ、『僕のイベントは何をしたいのか』ということがハッキリしました。僕も負けていられないですね。まさかここにきて、元サッカー日本代表がライバルになるとは思いませんでしたが(笑)」

愛好家たちが日本酒の良い伝道師になってくれる

自身のイベントに生かすために、日本酒だけではなくビールやワイン、ウイスキーなどのイベントにも積極的に参加しているという山本さん。今後は、イベントの質を上げていきながら、訪日外国人向けの日本酒イベントやセミナーも開催できたら、と考えているそう。しかし目下の課題は「日本酒を、消費者にとってもっと身近なものに落とし込むこと」。これには"日本酒愛好家"の存在も大きいといいます。

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「日本酒ファンの方も、以前と比べてかなり成熟してきたなぁと思います。10年前はかなりコアな、どちらかというと"マニア"と呼ばれる方が多かったのですが、最近は、より前向きに日本酒を楽しんでくれる"愛好家"が増えてきていると感じます。愛好家の間でも『日本酒を若い人に飲んでもらわなければいけない』『新しいシーンで日本酒を取り上げてほしい』という思いが高まっていて、そういう方がイベントに足を運んで、良い伝道師になってくれているのが嬉しいです。イベントは参加者と一緒につくりあげるものだと思うんです。だからこそ、彼らの存在はとてもありがたいですね。これからも、日本酒の知識が0の人は1に、愛好家にとっては1が10になるようなイベントをやっていきたいです。イベントの成否は、終わった後のお客様の表情にすべて現れます。いかに楽しそうにお酒を飲んでくれて、満足して帰ってもらえるか。主催者としては、常にそこを意識してやっていかなければと思っています」

山本さんが手掛ける日本酒イベントは毎回成功を収め、開催するたびに新たなファンが増え続けています。お酒の質の高さや空間づくりの秀逸さも支持されている大きな理由ですが、根底にある「日本酒の価値観を変えたい」「日本酒のおいしさを伝えたい」「参加者に楽しんでもらいたい」という純粋な気持ちが伝わってくるからこそ、人々はイベントに足を運び、「また来たい」と思うのでしょう。業界を牽引する平和酒造・山本典正も“一人の日本酒ファン”であり、同時に“日本酒の優れた伝道師”の一人なのです。

(取材・文/芳賀直美)

sponsored by 平和酒造株式会社

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