日本酒の消費量は1970年代半ばをピークに右肩下がり。また、人口の減少や健康志向の高まりによって、さらなる消費量の低下が予想されています。

しかし、パック酒を中心とした普通酒に比べて、高品質かつ高価格である特定名称酒については売上が増加しています。日本酒は日常的に飲むものではなく、高品質のものを嗜む方向へと変化しているのです。

日本酒業界は、ひとつの転換期を迎えているといえるでしょう。

<グラフ1> 国税庁「酒のしおり」をもとにSAKETIMES編集部が作成

目まぐるしい変化に直面するなかで、日本酒産業がさらに発展するためには、何が必要なのでしょうか。

2018年7月にプレミアム日本酒ブランド「SAKE100」をリリースし、新たな市場の開拓に挑戦する株式会社Clearの代表・生駒龍史に日本酒産業の課題について話を聞きます。

アルコール消費量の減少は「社会が健全になった結果」

─ アルコール全体の消費量が落ちていることについて、どう考えていますか。

その事実を否定的に捉えたことは一度もありません。むしろ、ポジティブに考えています。アルコール飲料をはじめとする食の多様化はもちろん、動画サービスやSNS、漫画、アニメなど、消費者の楽しみの幅が広がった結果として、相対的に飲酒という選択肢が減っているのが現実です。ただ、さまざまな人間が生活する社会でエンタメの選択肢が増えるのは、社会としては健全なことですよね。

だからこそ、これからは"受動的な飲酒"ではなく、造り手の想いやお酒のコンセプトに共感した"能動的な飲酒"が増えていくと考えています。

─ 選択肢が多様化するなかで、日本酒産業が発展していくためには何をすべきなのでしょうか

日本酒ならではの価値を提供することが必要です。現代社会に生きる人たちは、エンタメの選択肢が増えたぶん、それらを見極める目が肥えています。日本酒にしかない際立ったメリットをアピールしていかなければなりません。味わいの多様性、造り手の思い、合わせる料理や酒器など、さまざまな観点から価値を提供できるのが日本酒の魅力だと思います。

しかし、それらを実現するためにはさまざまな課題を乗り越えなければなりません。そのなかでも、私が考える"真の課題"は「酒蔵がリスクを負いにくいこと」です。長い歴史をもつ酒蔵は「引き継ぐこと」をアイデンティティにもっていることが多く、「あそこは変わったよね」と言われてしまうことを恐れています。

エンタメの選択肢が多様化し、実際に消費量が減少している現状ですが、酒蔵が価値観の変化に対応するためにリスクを負って新しい挑戦をするのは、物理的にも心理的にも難しい。これが日本酒業界の大きな課題だと考えています。

─ 解決方法はあるのでしょうか。

最近では、リスクをとってチャレンジする酒蔵も少しずつ増えてきていると思います。ただ全体としては、社会の変化に対応しきれない酒蔵がまだまだ多い。これは歴史と伝統を背負っている以上、仕方ないことなので、悪いとは思いません。

そこで、私たちのようなベンチャー企業の出番です。私は、ベンチャーであることとリスクを背負うことが同義であると考えています。当たるか外れるかわからないことに対して、お金、人材、時間、そして思いをすべて注ぎ込んで勝負するのがベンチャー。ここに、私たちの存在意義があります。

日本酒の高価格市場を切り拓く「SAKE100」

日本酒に特化したベンチャー企業・Clearが手がける新規事業「SAKE100(サケハンドレッド)」のティザーサイトイメージ

─ 今年7月にリリースしたプレミアム日本酒ブランド「SAKE100」も、日本酒の高価格市場を創出するためにリスクをとって挑戦している事例ですよね。

SAKE100」は、"100年誇れる1本を。"をテーマにした日本酒のブランドです。高価格市場を開拓していくためには、商品の原価以上の価値を提供することが重要。「SAKE100」の日本酒は、日本酒のもつ多様な価値を最上級の品質で表現している、間違いのない体験ができる商品です。

「SAKE100」(サケハンドレッド)の第1弾商品『百光 -byakko-』のキービジュアル。クラウドファンディング「Makuake」プロジェクトページ。

「SAKE100」の第1弾商品『百光 -byakko-

─ 高価格市場に挑戦しているのは、どうしてでしょうか。

「この先の未来に必要だから」です。1回で数万円かかる会員制レストランが流行っていることからもわかるように、いま世の中には、より良い体験を求めようとする潮流があります。こうしたニーズにきっちりと答えていくことこそ、日本酒が世界中でより親しまれるために必要だと思います。

もちろん、日本酒の価格そのものを底上げして、安いお酒をなくしたいわけではありません。あくまでも、アップサイドを引き上げる挑戦をしています。日本酒の魅力は多様性。価格についても、安いものから高いものまでがあって然るべきだと考えています。

─ なぜ、高価格市場が発展してこなかったのでしょう。

「一億総中流」という言葉があったように、高品質なものを手に取りやすい価格で生産し提供することで経済が発展してきた歴史があるため、ハイクラスな市場が育たなかったんです。

また、業界内の流通チャネルが限定されていたことも挙げられます。日本酒業界では、酒蔵・酒販店・飲食店の流通三層が一丸となってお酒を売っていたため、お酒の価格は飲食店で売れる値段に収まるように決定されていました。

高価格の商品を売るには、流通三層の枠組みから外れなければならなかったので、酒蔵には大きなリスクがありました。このリスクをとるプレーヤーがいなかったため、ニーズがあるにも関わらず高価格市場が発展してきませんでした。「SAKE100」はそこに挑戦しています。

いま必要なのは、リスクを背負って挑戦するプレイヤー

株式会社Clearの代表を務める生駒龍史さんの写真

「消費量の落ち込みは、決してネガティブなことではない」そう語る生駒が語るのは、リスクを背負って新しい挑戦をすることの必要性でした。

プレミアム日本酒ブランド「SAKE100」は、社会のニーズに応えるべく生まれた事業。転換期を迎えた日本酒業界に大きな影響を与えるであろう、大きなリスクを負ったこのチャレンジに今後も注目しましょう。

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