秋田県の北部・八峰町に山本合名会社という人気上昇中の銘酒蔵があります。
「白瀑」「山本」という2つのブランドで、フレッシュでユニークなお酒を次々と市場に投入して話題となっています。
その原動力となっているのが陣頭指揮を取る蔵元杜氏の山本友文氏です。
日本醸造協会主催のセミナーで講演された、山本氏の酒造りに対する思いをご紹介します。

本醸造・大吟醸の造りを廃止!蔵の個性を考えた大きな決断

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ジリ貧だった酒蔵に戻り、「どうせつぶれるなら自分が杜氏として好きなものを造ってからにしよう」と山本氏が決心したのが8年前。最初に考えたのは「蔵の個性とは何か」でした。

当時、蔵では普通酒から特定名称酒の頂点の大吟醸までフルラインでお酒を造っていました。
「しかし、これでは大手のミニチュアに過ぎない。何の個性もない」と思い、ただちに醸造アルコールを添加する本醸造酒と大吟醸酒の廃止に踏み切ります。
また、すでに市場には香り華やかなお酒が多く出回っていたこともあって、「香りが抜群のカプロン酸エチルをたくさん造る酵母は使わない。やや抑え目のシックな香りがでる酢酸イソアミルを多く造る酵母を中心に据えよう」と決めたのです。

また、経営がギリギリの状態だったため、“搾ったお酒はなるべく早く売ってお金を回収せざるを得ない”という状況を逆手に取って、その搾りたての味わいを蔵の特徴にしてアピールすることにしたのです。

すべて秋田産で挑戦した全国新酒鑑評会

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これが「フレッシュで香り抑え目の、食事に合わせてじっくり楽しめるお酒」と反響を呼びました。

自信をつけた山本氏は、地酒蔵としての個性をさらに磨いていきます。
そのターゲットは毎年春に開かれる全国新酒鑑評会に出品するお酒。

多くの酒蔵は、市販しているお酒に地元産のお米を使っていても、鑑評会に出品するお酒には地元以外のお米を使っています。
たとえば、お米は兵庫県産の山田錦を調達し、酵母も最も金賞を取りやすい香りが出るといわれる協会酵母(1801号など)を使うことが多いのです。

ところが山本氏は「それでは本当の地酒蔵とはいえないのではないか。いくら秋田の米でも美酒を造れますよと言っても、出品酒に山田錦を使ってしまえば元も子もない。鑑評会で金賞を必ずしも取れなくてもいいから、すべて秋田産で勝負しよう」と決意したのです。

そして、平成24BY(醸造年度)では秋田酒こまち40%精米の醸造アルコールを添加しない純米大吟醸を出品することに。さらに、酵母も秋田県が開発した「こまちR5」を採用。これで見事、金賞を獲得したのです。

自信を持った山本氏は「次はもっとハードルを高くしよう」と20年前に秋田県が開発したAK-1というクラシック酵母を使いはじめます。

酒造りを指導する秋田県の先生たちは「AK-1で出品するなんて無茶。辞めた方がいい」と反対するものの「もし取れたら、秋田の他の酒蔵は仰天するだろうなあ」とかえってやる気が出て実行し、平成26BYで金賞を獲得しました。
山本氏は「地元の米、水、酵母にはこだわっていますが、出品酒だからといって特別なことはしません。市販で多くの人に飲んでもらっているお酒と同じ造り、同じ情熱で醸しています」と胸を張っています。

麹室にルンバ!プラスになる機械は積極的に導入

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山本氏は、酒造りにプラスとなる機械や道具は積極的に導入しています。

麹の破精込み具合を見るために、比較的低倍率(2,30倍程度)で観察対象をそのままの状態で観察できる実体顕微鏡を購入。
さらに「古い建物なので、衛生にはより配慮したい」とオゾン水生成機を購入。これで手を洗い、口をゆすいで作業にかかります。

なかでも一番興味深かったのは麹室の床の掃除にお掃除ロボットのルンバを使っていること!
「床に落ちた米粒やゴミをほうきで集めていましたが、微細なホコリが舞い上がってよくないとルンバを入れました。たいへん効果を上げています」と山本氏。さらに、今季からは床拭きロボットのブラーバも導入しています。

山本合名会社の今季(27BY)の醸造量は1350石(1石は一升瓶換算で100本)と、改革に乗り出した8年前に比べて3倍以上に増えています。この間上げた利益の多くは設備投資に回っています。
「ちょっとでも品質の悪いものを出したら、せっかくいい流れで来ているものが、逆回転して一気に転げ落ちるのではないかという危機感は強いです。今後ももっといいお酒ができるよう日々まい進していきます」と山本氏は締めくくりました。

(文/空太郎)

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