2018年に建国70周年を迎えたイスラエルは、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地。多くの民族が集まるため、現地の料理は独創的です。近年、ロンドンやパリ、ニューヨークなどを中心に、イスラエル料理の国際的な評価が高まってきています。
そんなイスラエル料理と日本酒のペアリングを堪能する食事会が、10月下旬にイスラエル大使館(東京都千代田区)で開催されました。
今回、イスラエル料理に合わせるのは新潟県の「八海山」。現在26ヶ国に輸出されている八海山は、27番目の輸出国としてイスラエルを見据えるのと同時に、全世界に広がるユダヤコミュニティでの普及を目指しています。それを達成すべく、2018年4月に、純米酒の8銘柄でコーシャ認証(ユダヤ教の植物戒律に適合する認証)を取得しました。
繊細な日本料理、力強いイスラエル料理
文化・科学技術担当官のアリエ・ロゼンさんは、食事会に先立っての会見で「今回の目的はイスラエルの台所を知ってもらうこと。本日はイスラエルから素晴らしい女性シェフ2人を招聘しました。ともに食事をすることは、異なる文化をシェアするベストな方法だと思います。食を通した交流を楽しんでください」と述べました。
イスラエルには、過去10年にわたって80以上の国々から移民がやって来ているそうで、「イスラエルの台所は多様な文化と料理によって定義されている」と、アリエさんは語ります。
イスラエルの料理コンテスト番組で優勝した経験のあるノフ・アタムナ・イスマイールさんは、海洋微生物学の博士号も取得している料理家。4年前まで大学に勤務していました。
「私の情熱は常に台所にありました。食を通して人々を笑顔にしたかったんです。自分の心に従って、料理コンテスト番組に出場し、その優勝をきっかけに料理家になりました」と、これまでの経歴を説明します。
「言葉が伝わらなくても、料理の魅力はテイストで伝わる。文化を繋ぐ架け橋になるものだと思っています」
イスラエル料理界でもっとも知名度の高いひとりであるヒラ・アルパートさんは、ポーランドからの移民が多いキブツ(イスラエル特有のコミュニティ形態)で生まれ育ちました。東欧料理、近隣の地中海料理、父方のアメリカ料理、母方のモロッコ料理など、さまざまな料理から影響を受けています。
アルパートさんは「イスラエルの料理は多様な食文化の影響を受けてきました。渾然一体となった文化を味わうことができるんです」と、イスラエル料理の魅力を語りました。
2人は食事会の前に日本の各地を旅し、日本食の文化を学びました。八海醸造を訪問した際には、麹の働きに驚いたのだそう。
イスマイールさんは「日本人の美的感覚に驚きました。こんなに美しい盛り付けは見たことがありません。日本食には、静かに耳を澄ませて初めて聴こえるような繊細さがあります」と話します。
さらに「日本料理よりもイスラエル料理のほうが力強い印象。しかし、この繊細さと力強さが良いコンビネーションを生み出すと思います。今回の経験をイスラエルに持ち帰って、いろいろと試してみたい」と、多くの刺激を受けた様子でした。
アルパートさんは「食材を活かすことのできるシェフが多いと感じました。イスラエルの食文化は歴史が浅いので、日本食のような洗練された文化にはまだ到達していないと思います」と、話しました。
それでも「若いゆえに、10年後はさらにビビッドな文化に成長するのではないかと思っています」とイスラエル料理の今後に大きく期待しているようです。
日本人シェフが感じたイスラエル料理の可能性
ミシュラン三ツ星レストラン「ジャン・ジョルジュ」の本店で、日本人初のスー・シェフを務めた経歴をもつ米澤文雄さん。現在は青山の「THE BURN」でエグゼクティブ・シェフを務めています。今回の食事会では、八海醸造と料理人の間に立ち、日本の食文化を伝える役割を担いました。そんな米澤さんは、八海醸造の甘酒に注目しているそうです。
「甘酒は、これから世界的に有名な調味料になっていくと感じています。八海醸造を見学した際、発酵の奥深さに驚かされました」とのこと。
イスラエル料理についての感想を聞かれると「東京はいろいろな国の料理が食べられる場所なので、イスラエル料理の可能性もあると思う。おもしろい店ができたら、日本でもすごく流行りそう」と答えました。
イスラエル料理と八海山
今回の食事会で用意されたのは、コーシャ認証を取得した8銘柄のうち5銘柄です。
八海醸造で海外マーケティングを担当している笹川伸介さんによると「こんな料理を合わせてくださいというお願いは一切していません。それぞれのシェフが、フィーリングとインスピレーションで料理を作ってくれました」とのこと。
提供されたペアリングをいくつか紹介します。
「イチジクのサラダとハメイリチーズ」×「純米大吟醸 八海山 浩和蔵仕込み」
淡麗ながらも旨味のある、八海山の最高品質を追求した一本に合わせるのは、クセのない甘味のイチジクにチーズのアクセントを加えたサラダ。お互いの味わいがより引き立つペアリングでした。
「タヒニオイルとザータルの魚介のタルタル」×「八海山 純米吟醸」
八海山の定番とも言える純米吟醸酒には、刺身とのペアリングに近いイメージで魚介料理を合わせていました。魚介を使ったイスラエル料理と日本酒はとても好相性です。
「トマトとなすのフィッシュケバブ」×「八海山 特別純米(輸出限定)」
輸出限定で造られた特別純米酒はとても芳醇で、個性的な各国の料理にも合わせられる酒質になっています。スパイシーで食べ応えのあるケバブに対しても、打ち消されることなく調和していました。
イスラエルで日本酒が普及するためには?
アリエさんに、イスラエルの酒文化について伺いました。
「イスラム教ではアルコールを禁止していますが、他の宗教に属する人々はアルコールを嗜んでいます。なかでもユダヤ教には独自の規定があり、コーシャ認証がないとユダヤコミュニティの飲食店に置いてもらえないため、認証の取得はとても重要なことです」とのこと。
食事会でいただいたイスラエル料理は、日本食と比べて味付けが濃いものの、米澤さんが「食べたら元気になる」と太鼓判を押すようにエネルギッシュな味わいでした。
淡麗でスッキリした味わいの八海山と各メニューとのペアリングは好評だったようで、幅広い料理に合う日本酒の魅力をあらためて確認した時間でした。
(文/乃木章)