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高倉健の映画に見られる日本酒特集【前篇】

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映画の中に出てくるお酒は、どうしてあんなにもおいしそうで、ときに台詞以上に饒舌に、こちらの心を揺さぶってくるのでしょうか。重厚なグラスに入った、とろっと光るウイスキー。細いグラスに入った清廉な白ワイン。

そして、形のいい徳利やお猪口に入った日本酒。映画の中のお酒は、観客が味わえないからこそ、俳優さん・女優さんの演技によってその魅力を増して映されます。映画の中に出てくるお酒に焦点を当て「お酒と日本酒」という記事を書いてみたいと考え、年末からいくつか映画を調べていく中で、1人の俳優さんとその作品に出会いました。

昨年末に逝去された日本を代表する名俳優・高倉健さんです。本当は、出演者の違ういくつかの作品を並べて紹介していこうと考えていたのですが、高倉健さん主演の映画を観たとき、「これは、この俳優さんの作品だけで、記事にしたい」と強く思い、この見出しになりました。

前置きが長くなってしまいましたが、俳優・高倉健さんと、彼の飲むお酒に魅了された私・SAKETIMESライター梅山が、このたび前後篇に渡って、「名優とお酒」についてご紹介していきます。前篇の終わりに後篇に関係するクイズも出題するので、お楽しみに!!

お酒を飲むのは、会話があるとき―出会いに寄り添うお酒を観る「あなたへ」

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最初にご紹介するのは、2012年に公開された「あなたへ」です。冨山の刑務所で指導教官として勤務している倉島英二(高倉健)は、妻の洋子(田中裕子)を癌で亡くし、葬儀の準備をしていました。

ある日、英二のもとに2通のはがきが届きます。はがきは、亡き妻が生前に出していたもので、1通には「ありがとう」、もう1通には「あなたへ 私の遺骨は故郷の海に散骨してください」と書かれており、自分のとり行っていることとは別の意志である妻の言葉に戸惑いながらも、英二(高倉健)はワンボックスカーで冨山から妻の故郷・長崎の平戸まで向かいます。

「あなたへ」は、平戸までの道中のさまざまな人たちとの出会いと、亡き妻とのあたたかな思い出を静かに追っていく形になっています。

車で平戸を目指し、ワンボックスカーで寝泊まりをするため、この映画の中で英二(高倉健)は、1人ではほとんどお酒を飲みません。移動の妨げになってしまうから、彼がお酒を飲むときというは、移動の途中やその先で、誰かと出会い、話をするときなのです。

日本酒を酌み交わすシーンは主に3回あります。1度目と2度目は、田宮(草彅剛)と南原(佐藤浩一)という男たちと出会ったときです。3人で話をする際、彼らの前には徳利と御猪口が並んでいます。

田宮(草彅剛)が、自身の抱えるある問題について悲しげに話すと、英二(高倉健)は、相槌の代わりのように御猪口に日本酒を注ぎます。彼らの顔しか映されていないので、日本酒の姿は見えず、御猪口と徳利がぶつかる音だけが響いています。何か言葉を紡ぐより、お酒を1杯、相手に注ぐというつながりのあたたかさが感じられます。

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3度目に日本酒が登場するのは、英二(高倉健)が、食堂の女性店主多恵子(余貴美子)と、深夜に飲む際です。暗い店内で、ぽつんとついた灯りの下、1本の日本酒とコップ、肴が置かれ、それぞれが「夫婦」について考える。

ゆっくり、ぽつりぽつりと、自分の妻の遺言とその意味に困惑していることを話す英二(高倉健)の無骨さと真面目さ、そして、それを聞いている多恵子(余貴美子)の優しさがにじんでいます。大切な人達を思う2人の気持ちが、1口日本酒を口に運ぶたび、こちら側に強く伝わってくるのです。

日本酒とは関係なくなってしまいますが、何かを「飲む」という点で、道中で杉野(ビートたけし)とコーヒーを飲むシーンで交わされる会話も、その後の展開に大きく影響してくるため、注目していただきたいところ。

この映画において「飲む」シーンは、主人公が誰かと話をするときであり、特に日本酒は、注がれる音や、口に運ぶ際に見えるだけと登場こそ控えめなものの、優しく会話をする人たちに寄り添っているように見えます。1つひとつの出会いの場にある日本酒の魅力と、その出会いの重なった先で、英二(高倉健)が見つけたものとは。その優しいラストシーンまで、余すことなく観ていただきたい映画です。

「居酒屋兆治」怒り、楽しさ、祝い、弔い―人生のあらゆる場面のお酒を味わう高倉健の姿

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次にご紹介するのは「居酒屋兆治」。こちらは函館の小さなもつ焼き屋とその周辺が舞台なので、先ほどの「あなたへ」とは打って変わって、お酒が登場しないシーンの方が少ないのでは!?と思うほど、登場人物みんながよく飲みます。

サラリーマンを辞め、もつ焼き屋を始めた藤野伝吉(高倉健)の店の名前にして、店での藤野の呼び名が「兆治」です。お店にやってくるのは地元の仲間から昔の上司までさまざまであり、ときには酔っ払い同士の喧嘩が起きることもあります。

兆治は仲裁に入って殴られても、警察を呼ぶこともせず黙ってその場をいさめ、お店について罵られても、決して噛みついたりはせず、どんなお客さんにも平等にお酒を渡します。だからこそ、お店に立っていないときに彼が飲むお酒には、たくさんの感情がこめられています。

日本酒が出てくる場面で注目していただきたいのは3つ。

1つは、兆治が師である相場(大滝秀治)をたずねて行くシーンです。縁側で、昼間の日が差し込む中、2人がゆっくり向かい合って口に運ぶ御猪口のお酒がとにかくおいしそうなのです。相場と相場夫人の着物姿も、情緒があり、旧く美しい日本のお酒の味わい方の名残が感じられます。

2つ目は、兆治の親友岩下(田中邦衛)が、いさかいを起こし兆治がそれを迎えに行き、自省する岩下と共に酒を飲むシーン。お猪口にわざわざ入れることもせず、2人はコップで日本酒を飲みます。

兆治も、岩下も立ったまま、言葉少なに飲む様子だけが描写されるのですが、長い付き合いだからこそ言わずともわかることを、お酒と一緒に飲み込んでいるようにも見えます。

この岩下とお酒を飲むシーンは作中で何度かあるのですが、そのたびに変わる2人の表情と、そこからお酒の味まで伝わってきそうなセリフやたたずまいにも、ぜひ注目していただきたいです。

お酒と名優と、もう1つの魅力 ライターからのクイズ!

先の文にて「居酒屋兆治」の日本酒が出てくる場面の魅力を2つ挙げましたが、もうひとつの登場場面は、ずばりラストシーンです。兆治が1人、店でコップに日本酒を注ぎ、1人で飲む。

そして、静かに立ち上がってゆっくりと店の灯りを消し、後にするというただそれだけの最後なのですが、今までの物語の出来事が、高倉健演じる兆治の背中と、日本酒とに積み重なっていきます。そして、ここで飲まれる「白雪」という日本酒は、実は高倉健主演の他の有名作品にも登場しています。

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ここで、ライターから読んでくださっている皆様にクイズです!この「居酒屋兆治」のラストシーンについて、もう1つ、見過ごすことのできない、魅力的な演出要素があります。その魅力は、もう1つの「有名作品」にもつながっていく、映画を構成する大事な要素の1つです。

さて、その演出要素とはなんでしょうか? そして、もう1つの「有名作品」とは?

答えは数日後にUpされる後編にて発表、そして、「有名作品」についての魅力も、たっぷりとお届けいたします。後編がアップされる前に、ぜひぜひ皆様、facebookなどで推理を披露してみてくださいね。

それでは、後編をお楽しみに!!

 

◎映画「あなたへ」2012年公開

監督…降旗康男 企画…市古聖智/林淳一郎 製作…市川南平/城隆司

出演…高倉健/田中裕子/佐藤浩市/ 草なぎ剛 /余貴美子/綾瀬はるか/三浦貴大/大滝秀治/長塚京三/原田美枝子/浅野忠信 /ビートたけし

 

◎映画「居酒屋兆治」1983年公開

監督…降旗康男 /脚本…大野靖子/ 原作…山口瞳/製作…田中壽一

藤野伝吉(兆治) 高倉健 /藤野茂子 加藤登紀子 /神谷さよ 大原麗子 /岩下義治 田中邦衛/相場先生 大滝秀治/井上 美里英二

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鈴木紗雪

大学で日本文学を専攻。「お酒が飲みたくなる3冊」という日本酒と文学作品を絡めた記事をはじめ、映画、落語、音楽などの文化的な要素と日本酒とを扱った記事をご紹介しています。お菓子づくりも好きで、日本酒や酒粕を使ったスイーツのレシピも公開しています。