まだまだ肌寒い日が続きますね。晩酌には温かい料理を、という方は多いと思います。定番はおでんや汁物、鍋物ですが、他に何かないかしらと思案するとき、自分はしばしば、敬愛する池波正太郎先生の作品から献立のアイディアを頂戴しています。

小鍋で楽しむ浅蜊と白菜

小鍋だては池波先生お気に入り。

『魚介や野菜などを、この小鍋で煮ながら食べる[小鍋だて]では、様々な変化をつけることができるので、毎夜のごとくつづいても飽きることがない』(小説の散歩みち/朝日文庫)

とおっしゃるだけあって様々な食材を楽しんでいたようです。そのひとつに、

『中へ入れるものの種類は二品か、せいぜい三品がよい。たとえば小鍋に酒3、水7の割合で煮立て、浅蜊のムキミと白菜を入れて、さっと火が通ったところを引き出し、ポン酢で食べる』(前出)

というのがあります。素材感を楽しむ実にシンプルな小鍋。江戸っ子の粋が感じられます。

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※今回は都合により貝付き浅蜊を使用

「北秋田」でまずは白菜を味わう

今回の小鍋だては白菜のあっさりした風味が主体となりそう。しかし、ポン酢で食べるわけですから、甘酸っぱい味に合う酒、定石では薫酒でしょうか。自分なら白菜の風味を包み込むような、旨味ある吟醸酒をと考えます。しかし、白菜はさっと煮ただけなら風味は鮮烈かも知れない。ならばそれに迎合するような、もっとすっきりとキレのある本醸造という選択も。

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あるんですね、まるで私の思ったことを見越したような酒。「北秋田」大吟醸(北鹿/秋田県)。

さて、これを冷やしてまず一口。イメージしていた淡麗テイストをいきなり打ち消す強めのアタック。グッときてしかもグッと引いていきます。いささか圧倒されながらも、あつあつの白菜とともに味わってみますと、北秋田が隠し持っていたかのような柔らかな旨みがさらりと広がり印象は一変。なんというポテンシャル。
酒が潤滑油のごとく喉を潤し、箸が進みます。これは困った。酒がすいすいと進みすぎる。

風味豊かな浅蜊には「大七」

おいおい、この鍋は俺も主役だよと浅蜊が言います。そう、この鍋はダブル主演作。
貝類には独特の風味というかクセがあるので、それ相応の酒があって然り。すっきり系と比べるなら、もう少し酸味が増していてもいいだろうし、貝の風味を包み込むような深みのある味わいをもったものも良さそう。そう想定して選んでみたのが「大七 純米 生酛」(大七酒造/福島県)。

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まずは冷やで味見です。しっかりとしたコクと旨み、これでこそ生酛。酸味の交わり方も良いと思いました。湯煎で少し温度を上げてみますと、酒を美味しくする成分がまとまって、より旨みがふくらみます。

この燗上がりは生酛ならでは。浅蜊の旨みはもちろん、白菜のみずみずしさも受け入れる懐の深さがあります。生酛が食中酒に良いとされるその理由を改めて実感しました。

今回は小鍋だて1品で2本のお酒を試しましたが、結果的に「どちらも相性良し」でした。お店でお酒を楽しむときは料理との相性を考えて次はコレ、その次はアレというように複数を飲み比べたりしますよね。家庭でもタイプの違うお酒を用意すると楽しいですよ!

(KOTA(コタ))

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