沖縄のお酒といえば泡盛。そんなイメージを持っている人は少なくないでしょう。
実際、沖縄ではどこの居酒屋に行っても、並んでいるのは泡盛のボトル。日本酒の取り扱いは、飲食店でもスーパーでもかなり少ないのが現状です。
そんな沖縄にも、日本酒を造る酒蔵が1軒だけあるのをご存知でしょうか。「黎明」を醸す、泰石(たいこく)酒造株式会社です。
清酒造りに向かないと言われる、温暖な気候下での挑戦
泰石酒造は1967年から清酒造りをはじめ、今年で50年目。蔵があるのは沖縄県うるま市です。清酒造りには低温の環境が好ましいとされているなか、沖縄特有の温暖な気候は、決して日本酒の醸造に向いているとは言えません。
しかし、先代の創業者である安田繁史氏は岩手大学で農芸化学を学び、「環境さえ整えれば、沖縄でも美味しい清酒が造れる」という考えのもと、四季醸造の設備を導入。暑い沖縄でも酒造りができるような環境を整え、醸造をスタートさせました。
四季醸造を始める際に技術提供をしたのは、長崎の黎明酒造(※)。「なんと読むのですか?」と聞かれてしまいそうな「黎明」という銘柄名の由来はここからきているのだとか。
今回は泰石酒造の造る「黎明」から、純米吟醸酒と本醸造酒をご紹介します。
(※)黎明酒造は1980年に丁子屋(ちょうじや)酒造と合併し、現在は「株式会社杵の川」に社名を変更しました
ゴーヤのピクルスを思わせるような「黎明 純米吟醸」
お酒は透き通っていて、照りがありますね。お猪口に注ぐと、わずかに甘い香りがしました。
ワイングラスなど、丸みのある酒器に注いでみます。香りの中にある果物のような甘さが、先程よりもずっとはっきりと感じられました。1メートル向こうに完熟したバナナがあると想像してください。それくらいの、控えめながらも確かな甘い香りです。
今回は常温でいただきましょう。まろやかな甘みが、きび砂糖を彷彿とさせます。酸味はわずかに感じられる程度。苦味がやや強いものの、嫌な感じはまったくありません。甘酢漬けにして食べやすくなった、ゴーヤのピクルスを思わせる香味ですね。
口当たりはまったりとしつつも、後味はやや辛口。ラベルの表記には、日本酒度±0とありました。全体的に淡い味わいです。
泰石酒造のホームページには「冷やした清酒グラスに注いでキュッと一杯!」と書かれていたので、冷やして飲んでみましょう。
すると、常温のときよりも甘みが際立ちました。夏は冷酒で楽しむのもいいですね。
◎「黎明 純米吟醸」
- 原料:米(レイホウ)、米麹
- 精米歩合:麹米55%、掛米60%
- アルコール分:15度
- 日本酒度:±0
- 酸度:1.3
厚みのある、キリッと辛口のお酒「黎明 本醸造」
「黎明」は地元・沖縄のスーパーでもほとんど見かけないため、大型の酒屋に足を運びました。そこで発見したのが、本醸造酒の180mlサイズ。あまり馴染みのない形の小瓶に、蓋はプラスチック製で、飲み切りタイプの商品です。
「黎明 純米吟醸」にはフルーティな香りと甘さがあったのに対し、こちらの「黎明 本醸造」はキリッとした辛口のお酒に仕上がっていました。お酒の色味は、やや黄味がかかっています。
香りはほんのりとした熟成香。べっこう飴のような、重厚感のある甘い香りです。
味わいは"昔ながらの日本酒"を思わせ、辛口でインパクトがありますね。口に含んだ瞬間と喉ごしで、甘みと旨味をしっかりと感じることができます。
晩酌のお酒として、酒肴とともに飲みたいお酒でした。
◎「黎明 本醸造」
- 原料:米・米麹・醸造アルコール
- アルコール分:15.5度
- 日本酒度:+7.1
- 酸度:1.6
- アミノ酸度:1.8
「黎明」は泰石酒造のオンラインストアでも購入可能です。沖縄本島にある一部の酒屋さんや、全国各地のセレクトショップにも扱いがあるようです。興味のある方は、ぜひ一度お試しください。
(文/嘉手川瑞姫)