埼玉県の3名酒のひとつ「琵琶のさゝ浪」
「天喜」を醸す麻原酒造株式会社は、秩父と川越の間に位置する毛呂山町にあります。
初代・麻原善次郎氏は滋賀県の琵琶湖の湖畔に生まれ、わずか9歳にして、東京・青梅の酒蔵で奉公を始めました。そして、29歳となった明治15年(1882年)、現在の埼玉県奥武蔵地方にあたる、自然と水に恵まれた毛呂山で開業しました。
主要銘柄である「琵琶のさゝ浪」は「神亀」「亀甲花菱」とともに、"埼玉の3名酒"として高く評価されています。その銘柄名は、善次郎氏が詠んだ詩『近江やに名高き松の一本木、先から先へと開くさゝ浪』が由来になっているのだそう。"心を込めて造った酒が『さゝ浪』のように世の中へ伝わってほしい"という思いが表現されています。
リキュールやワイン、ビールも造るハイブリッド酒蔵
約20年前から清酒以外の生産も始め、現在は毛呂山特産の梅や柚子を使った各種リキュール、果実酒、ワイン、さらにクラフトビールなど、多種多様な酒を醸すハイブリッドな酒蔵としても知られています。本社のある毛呂山町から近い越生に、ワインとビールを製造する工場と、同蔵すべての商品を取り扱う直売店「越生ブリュワリー」を構えています。
また、「琵琶のさゝ浪」にとどまらず、「武蔵野」「大天寿」などのさまざまなブランドで、地元・埼玉や全国、そして海外にも進出しています。
「天喜(てんき)」は、きれいで食事に合わせやすく、かつコストパフォーマンスの良い純米大吟醸酒を目指して、2016年に誕生した新ブランド。天気が晴れでも雨でも、気持ちがどんな状態でも喜んでもらいたいという思いを込めて「天喜」と命名しました。
紹介するのは、50%精米の八反錦と協会1601号酵母を使用した一本です。1601号酵母は「少酸性酵母」とも呼ばれ、酸度を低く抑えることができ、また、吟醸香のもとになるカプロン酸エチルを多く生産するのが特徴。優しい酸のあるきれいな香りに仕上がると言われています。高いコスパを追求しているだけあって、一升瓶で約3,000円と、うれしい価格です。
こってりとしたおつまみに合う食中酒
香りは穏やかなベリー香。ひとくち飲むと、優しい甘さが口の中を支配します。華やかな花の蜜を思わせる香りが感じられ、八反錦らしい細身で上品な酸とバランス良く絡み合います。凝縮感のある味わいですが、透明感もあり、軽快で呑み飽きしません。純米大吟醸酒ですが、食事にも合わせやすそうです。天ぷらなどの揚げ物、タレの焼鳥、魚の煮付け、中トロの刺身など、油が多くこってりとした食事のお供になるでしょう。