2019年7月、"世界でもっとも大きな影響力をもつ"と名高い世界的ワインコンテスト「IWC (International Wine Challenge)」のSAKE部門において、最高賞「チャンピオン・サケ」の称号を得た「勝山 純米吟醸 献」。さらに、同日発表された、フランスで開かれる唯一の日本酒コンクール「Kura Master」でも「勝山 純米大吟醸 伝」が最高賞「プレジデント賞」を獲得しました。
宮城県に蔵を構える仙台伊澤家 勝山酒造による史上初の2冠。大きな注目を浴びています。
そんな、世界基準で高く評価された「勝山」は、どんなお酒なのでしょうか。勝山酒造の代表取締役社長・伊澤平蔵さんに話を伺い、その美味しさの秘密に迫ります。
宮城県の日本酒を牽引するリーダー蔵
仙台・伊達藩御用達の蔵として、およそ350年以上も前、江戸時代の元禄年間に酒造りをスタートした勝山酒造。「みやぎ・純米酒の県」宣言を推し進めるなど、県全体を牽引してきたリーダー的な存在でもあります。
2005年には、仙台市内に構えていた蔵を泉ヶ岳のふもとへ移転しました。当時の様子を、伊澤さんは次のように話します。
「50年ほど前から、仙台市内の都市化が進むにつれて道路の拡張工事が増え、地下水脈の確保に不安を感じていました。そこで、より水質の良い泉ヶ岳の近くに土地を探したんです。タンクローリーで水を運ぶ手間がかかっていたこともあり、いずれは移転しようと考えていました」
この移転を機に、さらなる酒質の向上を目指し、さまざまな改革を行ったといいます。
仕込みは1週間に1本。丁寧に、丁寧に。
仙台市内から車を走らせること約30分。山に囲まれた自然豊かな地に、家紋である五三の桐をデフォルメした力強い「勝山」のロゴが見えてきました。
敷地内には、蔵人の休憩室や宿舎などを兼ねたギャラリーと蔵が並んでいます。蔵の中は動線が広く確保された、オープンな空間です。
「あちこちに窓をつけて、お互いの気配がわかるようにしています。自分の作業だけに向き合う空間にならないよう、蔵人同士が自然にチームワークを築けるように配慮しました」と伊澤さん。
酒造りに携わるのは、杜氏を含めて4人。移転したタイミングで3季醸造に切り替え、季節雇用の杜氏制を廃止し、杜氏と蔵人を社員として登用しています。
さらに大きな変革は、仕込みのスケジュールです。これまでは毎日1本のタンクを仕込んでいましたが、なんと1週間に1本の体制に。生産量を300石に抑え、1本1本をより丁寧に仕込んでいます。
「蔵を移転したタイミングで、『どうしたら良いお酒ができるか。美味しいお酒とは何か』を考えたんです。みんな心を込めているし、現在の造り方はある程度完成されている。だとしたら、新製法や新技術ではなく、細かいところまで手を抜かず、やるべきことを愚直にやれるかどうかが大事だと思いました。しかし、1日1本の仕込みでは充分に手がかけられないため、1週間に1本としたんです」(伊澤さん)
米は全量を限定吸水にして前日から浸漬を行い、蒸米はドーム型に膨れた布の張り具合を見ながら蒸気の圧や量を細かく調整するなど、時間をかけたきめ細かな作業を心掛けているとのこと。また、触る・見るなどの人間の感覚と合わせて、データをしっかり取ることも欠かさないそうです。
搾りに関しても、圧搾機で自動的に搾るヤブタ式ではなく、小分けにした袋でゆっくりと搾る槽搾りを採用し、手間暇をかけて行っています。ただし、麹の温度調整のための積替えは自動積替え機を導入するなど、手作業とのメリハリをつけているとのこと。
火入れは「早瓶火入れ」を採用。醪を搾って滓下げ後、すぐに瓶に詰めて火入れをする方法です。
製造工程はシンプルで、アルコール添加や濾過、ブレンドなどの作業はありません。他の蔵にはないような特別な機械を使用していることもなく、各工程においてベストを尽くした造りで「勝山」は生まれています。
「勝山」らしさを守りつつ、進化する
造りはいたってシンプルな「勝山」。それでは、どのようなコンセプトを掲げて造っているのでしょうか。
「『勝山』のポリシーは、透明感のある旨味があること。個性的なお酒ほど、味わいの円グラフはギザギザしていることが多いですが、『勝山』は丸い円になるような味わいを目指しています。『勝山 純米吟醸 献』や『勝山 純米大吟醸 伝』も、まさにバランスの良さが評価されたのだと思います」
「勝山 純米吟醸 献」は、市販酒のナンバーワンを決めるコンテスト「SAKE COMPETITION」の純米吟醸部門において、2015年と2016年の2年連続で1位を獲得。勝山酒造の看板商品でもあります。
「もっとも力を入れている商品が『勝山 純米吟醸 献』です。毎年、データを分析・解析して得た結果をフィードバックし、小さな変化を繰り返しています。つまり、常に進化しているお酒なんです。小さな改善を積み重ねて、より良いお酒を目指しています」
そんな進化を続けながらも、守るべき"勝山らしさ"は「食中酒として、料理と合わせて美味しい酒であること」だそう。「ワインのような感覚で、料理と会話を楽しみながら飲んでもらいたい。豊かな食生活のそばにあるお酒であってほしいですね」と伊澤さんは語ります。
シンプルなお出汁のお椀、素材を生かした淡白な料理と合わせやすい「勝山 特別純米 縁(えん)」。そして、カマンベールチーズや野菜のテリーヌ、あっさりした甘味のデザートとも相性が良い「勝山 純米吟醸 鴒(れい)」など、勝山酒造のラインナップは料理とのペアリングも考えて造られているのです。
「私も料理をしますが、祖父や父も料理が好きで、昔から自分の料理に合うお酒を杜氏にお願いしていたんです。祖父の代に調理師製菓専門学校を設立し、父の代にはレストランを経営していたことで、プロの料理人との意見交換や、ペアリングの実証などによい環境が整っていました。『勝山 純米吟醸 献』は、吟醸の良さを生かしながら料理と合わせることを考えて、祖父の時代からつないできたお酒なんです」(伊澤さん)
日本酒をグローバルに伝えていくために
今回の受賞を経て、お祝いの言葉とともに国内外から商品の発注依頼が急増。「想像以上の反響だった」と伊澤さんは微笑みながら振り返ります。
「一時はアクセスが集中して、サーバーがダウンしてしまったくらいです。箱や資材が不足したり、出荷作業が間に合わなかったり......忙しい時期でもないのに、残業をすることもありました。国内はもちろん、海外のディストリビューターからの問い合わせも多く、香港やアメリカを中心に、台湾、シンガポール、ドイツからも発注がありました」
「勝山」をグローバルに伝えていくために出品した「IWC」や「Kura Master」などの海外コンテスト。世界で認められる酒の傾向を模索していくなかで、多くの気づきがあったそう。
「誰が飲んでも『旨味があって美味しい』と、シンプルに言ってもらえる酒質とはどういうものなのか。海外コンテストの受賞を目指すなかで、これをさらに掘り下げていく必要があるという結論に至りました。酒質のさらなる向上を図るきっかけになったと思います」
また、日本酒を海外に広めていくための課題について、伊澤さんは次のように話します。
「日本酒が和食の店で飲むお酒にとどまらず、日常の食卓に入っていけるかどうかが課題です。醤油を世界に広めようとしたとき、最初は『魚臭い』『変な匂い』などの理由から受け入れられませんでした。しかし、バーベキューに醤油を使うなど、新しい使い方を提案したことで広まった歴史があります。
現地の食生活に寄り添ったアプローチで、日本酒をより身近なものにしていく。『勝山』と洋食のハーモニーも、機会あるごとに提案していきたいですね。海外の方の生活が日本酒によって楽しく豊かになることで、普段の生活のなかにも組み込んでもらえるのではないかと考えています」
グローバルな展開を視野に入れ、見事「IWC」と「Kura Master」の2冠を達成。「勝山」は、日本酒が海外に広まっていく、その最前線に立っている存在なのです。
「IWC2019 受賞プレミアム日本酒試飲会」が開催!
そんな「勝山」を味わうことができるイベント「IWC2019 受賞プレミアム日本酒試飲会」が、YUITO日本橋室町野村ビルにて、10月19日(土)に開催されます。「IWC 2019」にて「チャンピオン・サケ」を受賞した「勝山 純米吟醸 献」を含む、トロフィー受賞酒をすべて試飲することができるSAKETIMESも注目のイベントです。
「世界で好まれるスタイルの日本酒、世界基準で美味しい日本酒が集まります。世界で評価された酒質を知るという意味でも、とても勉強になるイベントだと思います」と話す伊澤さん。世界のソムリエたちが評価した日本酒の数々を、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。
(文/橋村 望)
この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます
- 2019年No.1の栄誉はどの銘柄に?─ IWC SAKE部門の最高峰「チャンピオン・サケ」にノミネートされた蔵元たちの心境
- 【速報】IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2019「SAKE部門」のトロフィー受賞酒が発表されました!
- 【速報】IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2019「SAKE部門」のメダル受賞酒が発表されました!
- 【速報】「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ) 2018」SAKE部門のチャンピオン・サケが発表されました!
- 「南部美人 特別純米」が受賞!IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2017の「チャンピオン・サケ」が発表されました