「農家の酒プロジェクト2017」とは、北海道旭川産の酒造好適米を使い、旭川の酒蔵で、"純・旭川産の日本酒"を造ろうという試み。市民の方々が田植えや稲刈りなどの農作業、酒造りの見学、ラベル貼りなどの作業を通して、田んぼで育てられた米が酒となって市場に出るまでの流れをリアルに体験できるのが特徴です。
2017年の酒米は上々!
2017年5月に行われた田植え体験で参加者が植えた苗は無事にすくすくと成長し、秋には見事な稲穂が実りました。改めて、自然のエネルギーには驚かされますね。
予定では、10月に稲刈り体験が実施されることになっていましたが、悪天候のため、残念ながら中止になってしまいました。代わりに主催者が稲を刈り取り、精米。11月には、今回の酒を醸造する高砂酒造へ酒米が納入されたという知らせが入りました。その後も、洗米や酒母造り、そして醪の仕込みが始まったことが随時伝えられ、無事に酒造りが進められている様子に安心です。
磨かれた酒米に、興味津々の参加者たち
12月23日、1回目の蔵見学「仕込み見学会」が実施されました。この日の見どころは、"本格的な発酵が始まって、ぶくぶくと泡が立ち始めた醪"です。
最初に、杜氏の森本さんから、酒ができるまでの大まかな工程や「なぜ醪には泡が立つのか?」など、発酵の仕組みを初心者にもわかりやすい表現で説明していただきました。スタッフからは「この12月は例年に比べて少し暖かいですが、作業は順調に進んでいます。美味しい酒を楽しみに待っていてください」といううれしい報告もありました。
参加者からは「米の出来はどうでしたか?」といった質問も。田植えを体験した身としては、大いに興味のあるところです。「今年も良質の米を入荷することができました。このプロジェクトでつくる米は年々良くなっているようですね」と、褒め言葉をいただき、参加者もうれしそうな様子。米の心白に関する説明もあり、酒米について、よりいっそう理解を深めることができたようです。
そして、一行は蔵の中へ。
麹室をはじめとした、各工程で使われる設備の説明を受けながら、実際に使用した精米済みの米を手に取って見ることができました。
「精米歩合〇〇%」という言葉はよく見聞きしていても、その現物を実際に見ることはほとんどありません。ちなみに、今回造る酒は精米歩合55%。精米していない玄米のサンプルと比べながら「小さ~い!」「こんな形になるのか!」と、参加者は興味津々でした。
生命を感じる醪の発酵に感動
続いて、一般の蔵見学では見られないエリアでの貴重な体験が始まります。スタッフからは「仕込み中のタンクから出る炭酸ガスによって、具合が悪くなってしまう方もいるので、そのときはすぐに知らせてください」との注意がありました。参加者は、少しドキドキしなから階段を上がっていきます。
タンク上部にあるプレートには「品種/請川F彗星」と書かれていました。これは、請川ファームで春に田植えをした「彗星」という酒米のことを示しています。自分たちがつくった米が仕込みに使われていることを、改めて実感しました。
タンク上部から中をのぞき込んでみましょう。留添えから5日目。白い泡が広がって、今も発酵が進んでいる様子でした。
実際に目の当たりにすると、感慨深いものがありますね。参加者のみなさんもしきりに感心している様子。「"生きている"って感じがするね」という感想も聞こえてきました。
杜氏の森本さんに仕込みの状況を聞いてみました。「去年は全体的に固くて溶けにくい米だったけど、今年は例年並み、あるいは、やや溶けやすいですね」とのこと。その性質から察するに、味ノリの良い酒が期待できそうですね。
仕込みには2種類のきょうかい酵母を使っているのだとか。「同じ醪の中に、異なる酵母が一定の割合で生きているんですよ」と、森本さん。「味については、搾ってみるまでわからない」と言いながらも、「吟醸酒には1801酵母を使い、華やかな香りとすっきりした味わいを目指しています」と話してくれました。
こちらのタンクひとつで、一升瓶2,000〜3,000本の酒ができるとのこと。見込み数には随分と幅があるんですね。その理由は、粕の残り具合によって差が生まれるから。米がよく溶けると、搾ることができる酒の量は増え、逆に粕が多く残ると、酒の量は少なくなる。これを蔵では「粕歩合」と呼ぶそうです。
フレッシュ感あふれる新酒に、喜びの声
2回目の蔵見学は、上槽日に合わせた1月13日。「搾り見学会」が実施されました。
参加者らは自動圧搾機・ヤブタの近くに集まって、高砂酒造の谷口さんから圧搾の仕組みに関する説明を聞きます。この場所も通常の蔵見学では立ち入れない場所。プロジェクトの参加者ならではの特典です。
見学が終わると、待ちに待った試飲。華やかな香りが漂うなか、参加者はそれぞれ「うまい!」「おいしい!」と感嘆の声を上げます。
自分で植えた苗が米になり、ようやく酒になった瞬間に立ち会えて、喜びもひとしお。炭酸ガスを含んだ生酒の口当たりに「ぷちぷちする!」と、うれしそうな声も聞こえました。
谷口さんは「今年の酒は、これまでのなかでもっとも良い出来かもしれません。何よりも、参加者のみなさんに楽しんでいただき、蔵としてのやりがいを感じました」と、ホッとした様子。また、プロジェクト全体についても「地元の蔵が地元の米を使うという、北海道の酒造業界が待ち望んでいた環境がようやく整ってきました。北海道の新しい酒造りをお客様から間近で理解してもらえる点では、とても貴重なプロジェクトだと思います」と話してくれました。
次のミッションは、瓶詰めされた酒のラベル貼りなど、出荷に向けてのお手伝い。その後、関係者が集まってのお披露目会と、プロジェクトはまだまだ続いていきます。
◎「農家の酒プロジェクト2017」概要
- 主催:株式会社うけがわファームDEN-EN(北海道旭川市東旭川町)
- 共催:高砂酒造株式会社
- 米の作付面積:6,000坪
- 酒の生産量:8,000リットル(1,800ml:3,200本, 720ml:3,600本)
(取材・文/KOTA)
(撮影/高砂酒造株式会社・KOTA)