熱狂的なファンも多い、酒造好適米の「雄町」で醸した日本酒だけを集めた「第11回雄町サミット」。そこで実施された審査会結果と受賞した酒蔵の喜びの声を紹介します。
今回のサミットには全国の134蔵から215点の雄町酒が出品。吟醸酒部門(137点)、精米60%以下の純米酒部門(48点)、精米60%超の純米酒部門(30点)に分かれて予審と結審を実施し、45点が優等賞となりました。
受賞酒一覧
※酒造会社名の後ろの「%」は精米歩合、「回」は通算受賞回数です。
吟醸酒の部(受賞数31点:出品数137点)
- 「赤磐雄町生」(利守酒造/岡山県) 38%、9回
- 「超特撰 喜平 純米大吟 雄町の雫」(平喜酒造/岡山県) 40%、5回
- 「極聖 純米大吟醸 高島雄町」(宮下酒造/岡山県) 38%、14回
- 「櫻室町 純米大吟醸 ゴールド 雄町米の里」(室町酒造/岡山県) 40%、8回
- 「南部美人 純米大吟醸 雄町」(南部美人/岩手県) 50%、初
- 「阿部勘 雄町 純米吟醸」(阿部勘酒造/宮城県) 55%、初
- 「伯楽星 純米吟醸 雄町」(新澤醸造店/宮城県) 50%、初
- 「純米大吟醸生詰原酒 まんさくの花 雄町酒」(日の丸醸造/秋田県) 45%、3回
- 「霞城寿 大吟醸 雄町」(寿虎屋酒造/山形県) 48%、2回
- 「初孫 巧実 純米大吟醸酒」(東北銘醸/山形県) 非公表、4回
- 「フモトヰ 純吟雄町」(麓井酒造/山形県) 50%、2回
- 「会津娘 純米吟醸酒」(高橋庄作酒造店/福島県) 50%、4回
- 「御慶事 純米吟醸 雄町」(青木酒造/茨城県) 50%、3回
- 「大観 雄町 純米吟醸」(森島酒造/茨城県) 50%、3回
- 「結ゆい 純米大吟醸」(結城酒造/茨城県) 38%、9回
- 「純米吟醸 なごやか」(武勇/茨城県) 58%、3回
- 「望bo:純米大吟醸 雄町」(外池酒造店/栃木県) 50%、2回
- 「七水 純米吟醸 55 雄町」(虎屋本店/栃木県) 55%、5回
- 「龍神 純米大吟醸 雄町」(龍神酒造/群馬県) 50%、3回
- 「町田酒造55 純米吟醸 雄町」(町田酒造店/群馬県) 55%、初
- 「旦 山廃純大備前雄町」(笹一酒造/山梨県) 45%、3回
- 「富士錦 純米大吟醸 雄町」(富士錦酒造/静岡県) 40%、4回
- 「正雪 純米大吟醸 備前雄町」(神沢川酒造場/静岡県) 45%、7回
- 「開運 純米吟醸 雄町」(土井酒造場/静岡県) 50%、3回
- 「蓬莱 赤磐7 家宝伝承酒」(渡辺酒造店/岐阜県) 50%、4回
- 「雄町 純米吟醸 雑賀」(九重雑賀/和歌山県) 55%、3回
- 「純米大吟醸 雨後の月」(相原酒造/広島県) 40%、7回
- 「川鶴 純米吟醸 雄町」(川鶴酒造/香川県) 58%、2回
- 「石鎚 純米吟醸 雄町50」(石鎚酒造/愛媛県) 50%、初
- 「鍋島 純米吟醸 雄町」(富久千代酒造/佐賀県) 50%、6回
- 「天狗舞 純米大吟醸」(車多酒造/石川県) 35%、初
精米60%以下の純米酒の部(受賞数8点:出品数48点)
- 「日輪田 山廃純米雄町」(萩野酒造/宮城県) 60%、初
- 「花ノ文 特別純米原酒 雄町」(中勇酒造店/宮城県) 60%、初
- 「橘屋 特別純米 雄町」(川敬商店/宮城県) 60%、8回
- 「鶴齢 特別純米 瀬戸産雄町」(青木酒造/新潟県) 55%、初
- 「明鏡止水 純米雄町」(大澤酒造/長野県) 60%、3回
- 「喜平 静岡蔵 純米酒 限定謹醸 雄町」(静岡平喜酒造/静岡県) 60%、4回
- 「澤屋まつもと 守破離 雄町」(松本酒造/京都府) 55%、2回
- 「紀土―KID-特別純米酒 雄町」(平和酒造/和歌山県) 50%(麹)&60%(掛)、2回
精米60%超の純米酒の部(受賞数6点:出品数30点)
- 「燦然 特別純米 雄町山廃」(菊池酒造/岡山県) 65%、7回
- 「gozenshu the silence Clean Reverb」(辻本店/岡山県) 65%、6回
- 「純米 まんさくの花 雄町70」(日の丸醸造/秋田県) 70%、3回
- 「七田 七割五分磨き 雄町 ひやおろし」(天山酒造/佐賀県) 75%、5回
- 「七水 純米酒70 雄町」(虎屋本店/栃木県) 70%、5回
- 「忠臣蔵 生酛純米 雄町」(奥藤商事/兵庫県) 65%、初
喜びの声を直撃インタビュー
全出品酒に占める優等賞の比率は20.9%で、全国新酒鑑評会の金賞比率(27.7%)よりも低く、優等賞の獲得がいかに難しいことかがわかります。毎年、激戦が繰り広げられていますが、雄町の酒造りを得意とする酒蔵の中には連続記録を重ねている酒蔵も少なくありません。
そのトップを行くのが7年連続受賞、通算受賞回数14回を誇る宮下酒造(岡山県)です。製造部長の岡崎達郎さんに話を伺いました。
「岡山県産の雄町といっても、主力産地である赤磐地区と高島地区では気候も微妙に異なります。私たちの蔵が使っている高島雄町は赤磐地区よりも海に近く、出来上がる米の質が違うので、おのずと醸造の仕方もそれぞれです。うちは長年、高島雄町を使って腕を磨いてきているので、それが評価されて有難いと思っています。
ただし、雄町の本場の酒蔵なので、吟醸酒と純米酒の両方で優等賞を目指すべきだと思っていましたが、今回は吟醸酒部門のみ優等賞でした。純米酒部門は参加酒蔵の酒質の多様化が急ピッチで進んでいて、昔ながらの酒質では認めてもらえなくなっています。今回も出品された純米酒を利いてみると、うちもさらに工夫を重ねて審査員の心を動かすぐらいの酒にしないと厳しいなあと感じています」
宮下酒造を追いかけ、6年連続受賞を果たしたのが結城酒造(茨城県)です。初出品から一度も途切れることなく優等賞を獲得しているのは結城酒造のみ。蔵元杜氏の浦里美智子さんのお話です。
「昨年の雄町サミットでは吟醸酒と純米酒の両部門で優等賞を、さらに全国新酒鑑評会も雄町を出品して金賞をいただくことができました。今季(2018BY)は醪の段階でいろいろと苦労させられたものの、できあがったお酒の評価は例年にも増して高かったのですが、全国新酒鑑評会は入賞止まりでした。
審査の時期と飲み頃のタイミングが微妙にズレたようで、その反省を生かして、雄町サミットには別の仕込みのお酒を出品したところ、無事に吟醸酒部門で優等賞をいただけました。来年は90%精米の純米酒で優等賞が取れるようがんばります」
2蔵に続く4年連続の酒蔵は以下の7蔵でした。
- 東北銘醸(山形県)=吟醸酒部門で4回連続
- 川敬商店(宮城県)=純米酒部門で4回連続
- 虎屋本店(栃木県)=純米酒と吟醸酒部門のいずれかで4回連続
- 静岡平喜酒造(静岡県)=純米酒部門で4回連続
- 利守酒造(岡山県)=吟醸酒部門で4回連続
- 室町酒造(岡山県)=吟醸酒部門で4回連続
- 相原酒造(広島県)=吟醸酒部門で4回連続
静岡平喜酒造の杜氏、戸塚堅二郎さんのお話です。
「うちは明治初頭から静岡で酒造りをしてきましたが、1967年に岡山にあるグループの酒蔵、平喜酒造に醸造を集約して静岡での造りを止めていました。それが地産池消の一環として2012BYから静岡での酒造りを45年ぶりに復活させています。
岡山の蔵から経験豊かな杜氏である久谷裕良さんを迎えて酒造りを再開させましたが、6年経過して軌道に乗ったことから杜氏は岡山に戻り、蔵元後継者の私が2018BYから杜氏になりました。
雄町サミットは雄町の米を知り尽くしている前任杜氏のおかげで3年連続して優等賞を取っていたので、連続記録を途絶えさせてはまずいので必死でした。特徴ある甘さと酸味との調和が取れた仕上がりになり、それが評価されて胸をなでおろしています」
利守酒造(岡山県)の利守忠義社長は、次のように話しています。
「1980年代に絶滅寸前だった雄町を復活させたのがうちの蔵です。雄町の普及の旗振り役として力を尽くしてきたのですから、優等賞を取るのが当然だという気概で酒を造っています。
雄町栽培の本場である岡山の酒蔵の受賞数が多い(今回は6蔵)との声もありますが、県内には40軒以上の酒蔵があるのだから、もっと受賞蔵が増えてもおかしくないと思っています」
3年連続の蔵は以下の2蔵でした。
- 龍神酒造(群馬県)=吟醸酒部門で3回連続
- 青木酒造(茨城県)=吟醸酒部門で3回連続
青木酒造の青木知佐さんのお話です。
「今年は雄町で造ったお酒の出来が素晴らしく良かったようで、SAKE COMPETITIONの純米吟醸酒部門で7位に入り、JAL空飛ぶSAKE賞までいただきました。その仕込みと同じお酒を雄町サミットにも出しました。発表がある前に出品酒を利いて、素晴らしいお酒が多かったので不安になりましたが、無事に優等賞をいただけて喜んでいます」
このほか、今回、多くの審査員が注目していたのは、雄町は「山廃&生酛酒母」「低精白」「熟成」などに向いているのではないかという点でした。
特に、熟成酒のジャンルで優等賞を獲得した車多酒造(石川県)の「天狗舞 純米大吟醸」は、出品酒の大半が2018BY(醸造年度)のお酒であるのに対して、2013BYと5年間も貯蔵して熟成させたお酒でした。奥藤商事(兵庫県)の「忠臣蔵 生酛純米 雄町」は、生酛酒母でかつ2016BYのお酒です。
これらは、山廃や生酛で造って氷温で長期熟成をかけると大化けするかもしれないとの想像をかきたてる結果で、雄町という酒米のポテンシャルを感じさせてくれました。
出品されたお酒はすべて市販されているお酒なので、興味がある優等酒を購入して飲み比べるのも楽しいですね。
(取材・文/空太郎)