この夏、名古屋で熱い日本酒イベントが開催されました。 それが、日本酒と美味しい料理の食べ合わせイベント「食べて飲もまい〜うますぎるがや〜」(以下「たべのも」)です。

今回は、飲食店と酒蔵が考えた渾身の食べ合わせが楽しめる、1日限りで開催されたイベントの様子をお伝えします。

全国から集まる酒蔵×飲食店がコラボ

イベント名にある「飲もまい」は「飲んじゃおう」、「うますぎるがや」は「美味しすぎるよ」という意味の名古屋弁です。 思わず名古屋弁が出るくらい美味しい日本酒イベント、通称「たべのも」は今年で3回目を迎えました。

名古屋・「味肴菜 みち藤」の店長・林田さん(写真左端)は、出汁が香る飛騨牛&九条ネギ入りの肉吸いを、株式会社杜の蔵が醸す「独楽蔵」の熱燗に合わせて

「味肴菜 みち藤」は「独楽蔵」を醸す株式会社杜の蔵(福岡)とコラボ

「たべのも」は、独特の食文化で有名な名古屋らしいグルメイベントでもあります。その大きな特徴は2つ。

①日本酒と美味しい料理の食べ合わせが楽しめる

「たべのも」では、たくさんの日本酒を味わえるだけでなく、美味しい料理との食べ合わせも楽しめるのです。イベントに参加する飲食店は、いずれも日本酒好きな店主さんがいるお店ばかり。腕によりをかけた料理で、日本酒との素敵な食べ合わせを提供してくれます。

②名古屋以外の飲食店まで参加するスケールの大きさ

名古屋の飲食店が主催するイベントでありながら、福岡や大阪、静岡からも日本酒ファン御用達の名店が参加します。ほかのイベントではなかなか見ないようなお店が並ぶため、普段は行けない有名店をハシゴすることも可能です。

大阪から参戦の「日本酒とお食事 はちどり」は「白隠正宗」を醸す高島酒造さんとコラボ

大阪から参加した「日本酒とお食事 はちどり」は「白隠正宗」を醸す高島酒造(静岡)とコラボ

今回の「たべのも」は、名古屋市内から6つ、県内外から6つの飲食店が参加し、それぞれが県内外の酒蔵とタッグを組みます。

(「参加飲食店」&「代表銘柄」参加蔵元の順に記載)

渾身の"食べ合わせ"を楽しむ

今回の会場は、名古屋駅から徒歩10分ほどの距離にあるエルダンジュ名古屋。12組の飲食店と酒蔵が2つの会場に分かれて参加者を迎えてくれました。イベントは2部制になっており、各回ともに、開場と同時に満員になるほどの大盛況です。

「たべのも」会場風景

酒蔵は地元に限らず、福岡や兵庫、鳥取からも参加しています。鳥取県に蔵を構える久米桜酒造の杜氏・三輪さんは、「たべのも」について次のように話してくれました。

「各地でさまざまな日本酒イベントに参加しますが、食べ合わせがメインのイベントは珍しいと思います。うちのお酒は今どきの華やかなタイプではなく、熱燗やぬる燗でゆっくりと味わうのが美味しいお酒。県外への出荷量も限られていますが、イベントに呼んでいただけて嬉しいです。

今回は『お燗とVINめし くいぜ』さんが、お料理に合わせて日本酒のブレンドを考えてくれました。普段はあまりやらないことですが、面白いですよね」

「たべのも」限定で提供された久米桜のブレンド酒「夏の日」。ゆるいタッチのラベルは三輪杜氏のお手製

「たべのも」限定で提供された「久米桜」のブレンド酒「夏の日」。ゆるいタッチのラベルは三輪杜氏のお手製。

飲食店と酒蔵の相乗効果を楽しめるのが「たべのも」の醍醐味。それではさっそく、ブースを覗いてみましょう。

「お燗とVINめし くいぜ」&「久米桜」久米桜酒造(鳥取)

名古屋・お燗とVINめし くいぜの店長・小澤さん(写真左から2人目)と、鳥取・久米桜酒造の杜氏を務める三輪さん(写真右から2人目)

名古屋「お燗とVINめし くいぜ」の店長・小澤さん(左から2人目)と、久米桜酒造の杜氏を務める三輪さん(右から2人目)

まずは「お燗とVINめし くいぜ」と久米桜酒造のコラボをご紹介。


こちらは「お燗とVINめし くいぜ」が提供した「ジビエのパテドカンパーニュ」です。

「お料理もお酒もそれぞれ美味しいんですが、今回は一緒に味わうことでお互いの完成度が高まっています。スパイスが効いたジビエのパテに少し隙が残してあって、そこにお酒が染みていくことで良くまとまるんです。うちのお酒の新しい魅力が感じられると思います」と三輪杜氏。

パテの程よい油脂感やクセ、しっかりと感じられるスパイスの風味にブレンド酒「夏の日」が絶妙に合います。

「醸造科 oryzae(オリゼー)」&「竹泉」田治米合名会社(兵庫)

東京「醸造科 oryzae(オリゼー)」の店長・渡辺さん(写真左)

醸造科 oryzae(オリゼー)」の店長・渡辺さんは、「竹泉」で有名な兵庫・田治米合名会社とタッグを組んで参加。渡辺さんのインド人のような風貌に、思わず目を奪われる人が続出していました。

カルダモンカレー

渾身の食べ合わせは、スパイスがしっかり効いた「カルダモンチキンカレー」と「竹泉 山廃仕込み 火入れ 2016BY」です。熟成された山廃仕込みの「竹泉」は酸味だけでなく、しっかりとした旨味もあるお酒で、発酵食品とも相性がいいとのこと。

竹泉 山廃仕込み 火入れ 2016BY

こちらをぬる燗でいただくと、ふわっと漂う甘い香り、熟成で丸みを帯びた穏やかな味わいが広がります。

スパイシーなカレーとの食べ合わせでは、お酒の甘みと酸味が相まって、カレーのまろやかさと旨味をより感じました。旨味の強いチーズや、乳酸のような味わいがあるザワークラウトにも合うそうです

「和み酒 鬼灯(ほおずき)」&「長珍」長珍酒造(愛知)

こちらは名古屋から出店の「和み酒 鬼灯(ほおずき)」と、長珍酒造のタッグ。

「和み酒 鬼灯」の店長・鬼頭さん(左端)、長珍酒造の社長・桑山さん(右端)と奥様(中央)。

「和み酒 鬼灯」の店長・鬼頭さん(左端)、長珍酒造の社長・桑山さん(右端)と奥様(中央)

「長珍酒造のお酒には、人が自然と集まってくるんですよ」と、ニコニコしながら熱弁を振るう鬼頭さん。「長珍」のパンチの効いた味わいに合わせるのは、愛知・岡崎の八丁味噌を使った「卵黄の味噌漬けとろーりチーズ風」です。

八丁味噌を使用した「卵黄の味噌漬けとろーりチーズ風」

八丁味噌を使用した「卵黄の味噌漬けとろーりチーズ風」

味噌に漬け込まれて味が濃縮した卵黄に、八丁味噌の風味が香ります。振りかけられたパルメザンチーズが更に濃厚さをプラス。添えられたバゲットを卵黄につけても美味しい一品です。

長珍

合わせるのは、「長珍 特別純米ピンクラベル」のぬる燗。ピンクラベルは通年販売ながら、限られたお店にしか卸していないそう。

一口含むと「長珍」らしい酸を感じ、バランスのとれた味わいです。味噌とパルメザンチーズのコクに負けない強さがありながら、余韻はすっきり。「長珍」の純米酒を熱燗にして合わせるのもおすすめだそう。違うお酒で味わいの変化を楽しむのも面白いですね。

「肴糀醸 やしろ」&「木曽路」湯川酒造店(長野)

続いては、今回初参加の「肴糀醸 やしろ」を紹介します。コラボするのは「木曽路」「十六代九郎右衛門」で知られる長野・湯川酒造店です。

長野・湯川酒造店の湯川さん(左端)と、「肴糀醸 やしろ」の店長・武藤さん(右端)

湯川酒造店の杜氏・湯川さん(左端)と、「肴糀醸 やしろ」の店長・武藤さん(右端)

「肴糀醸 やしろ」は、滑らかな岩のりクリームチーズが評判のお店です。今回は、岩のりクリームチーズを添えた「愛知・碧南産丸干しいわしのほうろく菜種油焼き」を提供しました。

会場に漂う、上質な「ほうろく菜種油」でじっくり揚げ焼きされた鰯の良い香り。これだけでお酒のおつまみになりそうです。

「肴糀醸 やしろ」の店長・武藤さんに、この食べ合わせのポイントを伺いました。

「湯川酒造店さんが提供する「木曽路 三割麹純米酒」は、麹が普通よりも多く、旨味が強いお酒です。なので、同じく旨味がしっかりした料理と相性が良いと思っています。

今回は、干して味を凝縮させた鰯を『ほうろく菜種油』で揚げ焼きにすることで旨味を出しました。酸味のある岩のりクリームチーズを鰯に乗せて食べても美味しいので、味の変化も試してほしいですね」

湯川酒造店の「木曽路」

「木曽路 三割麹純米酒」をいただくと、お米の旨味が特徴的な味わいです。岩のりクリームチーズを乗せた鰯と合わせると、さらに濃厚な旨味と酸味が感じられました。

湯川酒造店の「木曽路 三割麹純米酒」は、長野の酒米・ひとごこちを100%使用しています。通常よりも麹の量を増やしていることで、酸味と米麹由来の深いコク、軽快な余韻が楽しめました。

好みの日本酒や食べ合わせに出会うきっかけとして

イベントを主催する名古屋たべのも実行委員会を立ち上げた、「米家(まいほーむ)」の店長・米重さんにイベントへの思いを伺いました。

名古屋「米家(まいほーむ)」の店長・米重さん(写真中央)

「今回で3回目を迎える『たべのも』ですが、徐々に名古屋での認知度も上がり、県外からのお客様も増えてきました。日本酒や食べ合わせに目を向けて楽しみにしてくれるお客様が多く、本当にうれしいです。

飲食店にとっても日本酒と料理の食べ合わせを研究できる貴重な機会で、更なるチャレンジの場でもあると思っています。今回の食べ合わせに行き着くまでは、毎晩お店を閉めてから試行錯誤しました。おかげで、渾身の料理に仕上げることができました」

米家ブースで提供された「明石焼き」

そんな米家が提供するのは「米家的明石焼き」。タコは叩き梅を入れて柔らかく煮込まれています。出汁にも同じ梅と赤紫蘇を効かせ、さっぱりとした爽やかさが楽しめる一品です。

タッグを組むのは、「磐城壽」で知られる山形・鈴木酒造店。「磐城壽 アカガネ」のぬる燗を「米家的明石焼き」と合わせます。生酛のどっしりした味わいと、梅の酸味が合わさって爽やかに。重厚感のあるお酒なので、辛子をつけた豚の角煮なども合うとのこと。

磐城壽のラベル写真

米重さんは「たべのも」の意義について次のように話します。

「今では、さまざまなイベントが各地で開催されています。お客様も目移りしてしまうと思いますが、イベントの特徴を知ることで、さらに楽しみ方が広がるかもしれません。

『たべのも』では、日本酒好きな方から初心者の方まで、名前のとおり『日本酒との食べ合わせを楽しんでいただく』ことを常に考えています。これまで気付かなかった、好みの日本酒や食べ合わせに出会えるきっかけになれたらうれしいですね」

米重さんが主催を務める名古屋たべのも実行委員会は、10月1日(火)の「日本酒の日」に全国14都市で開催される「日本酒ゴーアラウンド」の名古屋事務局も担っており、「たべのも」に出店した多くの飲食店・酒蔵が出店する予定とのこと。

日本酒ゴーアラウンド名古屋」、そして来年の「たべのも」が今から楽しみですね。ぜひイベントに参加して、日本酒と料理の美味しい食べ合わせを楽しんでみてはいかがでしょうか。

(文/spool)

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