ワインソムリエの活躍するシーンは容易に想像できても、日本酒を提供する唎酒師や焼酎を提供する焼酎唎酒師がどのように活躍しているのか、あまりイメージが湧かない人も多いのではないでしょうか?
今回、4年ぶりに唎酒師の技術や知識、サービスを競う「第五回世界唎酒師コンクール」が開催されました。国内外から349名の唎酒師・焼酎唎酒師がエントリーし、予選会、準決勝を経て決勝の舞台へ登ったファイナリストは11名。
唎酒師の頂点に輝くのは誰か、接客サービスをどのようにして競うのか、2月26日(火)に開催されたコンクール決勝戦を観覧してきました。
「世界唎酒師コンクール」とは
2000年にスタートした世界唎酒師コンクール。その後、不定期に開催され、今回は第5回目となります。唎酒師・焼酎唎酒師などの資格を認定する日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)、SSIインターナショナル、飲食に関する資格を扱うNPO法人FBO(料飲専門家団体連合会)が主催しています。
国内7都市9会場・海外5地域で予選会が行われ、準々決勝を経て24名へ、さらに準決勝の結果11人まで絞られ、決勝で競い合います。出場者のバックグラウンドは、現役で活躍するホテルやレストランなどの料飲関係者から酒蔵の小売部門、卸、酒販店で働く人までさまざまでした。
コンクールは今回から、小売サービス部門と料飲サービス部門に分けられました。各部門で優勝者を決定するとともに、全体で総合優勝を1名表彰する形式です。
お酒や料飲サービスに関わる教育機関や団体、蔵元などの代表者が審査にあたり、一般社団法人日本ホテル・レストランサービス技能協会の森本昌憲会長が審査委員長を務めました。
ストーリーや味わいを伝える力が試される小売サービス部門
決勝戦は、ロールプレイング形式で接客サービスが審査されます。近年、訪日外国人が増えたことから、第二言語による会話力も問われました。小売部門のファイナリストは4名。韓国出身の方もいました。ひとりずつ登壇して公開審査がはじまります。
先に実施された、第二言語による会話力の審査では、お客さんからの質問がアナウンスされ、2分以内に答えます。質問は、日本酒がどのような酒か、特徴と魅力を問うものでした。母国語と違う言語であれば、英語でもフランス語でも問題ありません。
魚介類の生臭さを消すといった料理との相性や飲用温度帯の幅広さなど、さまざまな特徴が語られました。2分間をギリギリまで使って話す人もいれば、手短に説明する人もおり、それぞれの個性が出ます。海外で高まりつつある日本酒需要に対応していくためにも、語学力の重要性は増すばかりです。
続いて、15分間の接客ロールプレイング。和酒専門小売店に来店したお客さんに対して、要望に合わせた日本酒と焼酎を勧める内容です。
お客さんは、日本酒や焼酎は好きだけれど、飲用経験が浅く商品のことや楽しみ方がわからない。家に友人3人を招き、もてなすための日本酒・焼酎を教えてほしい、という設定でした。
その日作る料理は、トマトと赤味噌とバターを使った和風ビーフシチュー。その料理に合わせて、競技者は用意された日本酒18本、焼酎18本の中から最適な1本を選び、提案します。
ロールプレイで準備された日本酒でなぜそれを選んだか、おすすめの飲用温度帯やグラスなど細かい質問が続きます。選んだお酒の解説や蔵のバックストーリー、料理とどう合うかなどの幅広い知識が必要とされます。
お支払いをすませ梱包、お見送りまでが審査されます。どのお酒を選ぶか、なぜ選んだかという説明力だけでなく、接客は立ち居振る舞いなどもチェックされます。カウンター越しに対応する人、お客さんの隣に移動して説明する人、明るく楽しく場を盛り上げる人など、同じようなシチュエーションでも競技者によって個性豊かな接客サービスが見られました。
また、競技者が選んだお酒が、適切かどうかを確認するために、審査員の席にも選んだお酒が運ばれます。審査員は用意された料理を食べながら、正しい提案かどうかを審査していました。
現場力が重視される料飲サービス部門
料飲サービス部門では、7名のファイナリストが競います。
小売部門のロールプレイングと違い、お客さんがテーブルについた状態でサービスします。場面は、食事に来た結婚10年目のご夫婦に、料理に合わせたお酒を選ぶという設定。メイン料理は同じく和風ビーフシチューですが、付け合せに6種類のソースで食べるブリの刺し身がプラスされます。
グラスを選んだり、温度帯をあわせたり、実際にお酒を提供しなければいけない分、説明力よりも現場での対応力が問われます。
ご夫婦のどちらから先にお酒を提供するか、お客さまのテーブルでお酒を注ぐのか、注いだものをお盆で運ぶのか、提供するまでの時間など、小売とは違う気遣いやマナーが必要になります。
競技者は、器による味わいの違いを感じてもらったり、割り方や温度帯の工夫をしたりして、各々が創意工夫を凝らしながら実演していました。
「U25スピーチコンテスト」も同時開催
ファイナリストのすべての競技が終わり、審査結果を待つ間、25歳以下の若者による「U25スピーチコンテスト」が行なわれました。テーマは「"日本の酒" 酒の未来のためにできること」。レポート審査で優秀な成績をおさめた若者が、壇上で日本の酒に対する熱い思いを語ります。
若者の日本酒離れが言われるなか、若者自身の考えが聞けるのも貴重です。大学生、蔵元、飲食店など、さまざまな立場からどう変えていくのか、興味深い意見が多かったです。
総合優勝は、台湾から参加のCHANG HUNG LIANGさん
いよいよ結果発表。
小売サービス部門で見事優勝したのは、沼田広志さん。日本酒類販売株式会社の国際事業本部で輸出営業に携わっています。自然なコミュニケーションでお客さんに接し、商品の説明力はもちろんのこと、店の出口までお酒を持っていって見送るなど、心温まるサービスが印象的でした。沼田さんは、前回、前々回とファイナリストとして出場した経験があり、終始落ち着いた雰囲気でした。
料飲サービス部門の優勝者は、台湾出身のCHANG HUNG LIANG(チャン・ホン・リャン)さん。「祥雲龍吟」というお店でソムリエのリーダーを務めます。語学力に優れているのはもちろん、キリッとした身のこなし、提供や説明のタイミングなども素晴らしく完璧なサービスでした。
総合優勝もCHANG HUNG LIANGさんが獲得。海外の方の優勝は初めてとのこと。「いろいろ協力してくださった方々に心から感謝しています。これからも世界中の人に、日本酒を楽しんでもらえるように、紹介していきたいと思います」と抱負を語っていました。
また、twelvのディレクター、ブーラフ・ドミトリーさん、ふしきの店主の宮下祐輔さん、ANAフーズ株式会社マネージャーの足立有美さんらが審査員特別賞に。
U25スピーチコンテストでは、青森県の尾崎酒造に勤める、大塚洋平さんが最優秀賞に輝きました。会場には、関係者をはじめ、観覧に応援にきていたから方々からの温かい拍手や歓声があふれました。
サービス業で働く人にとって、唎酒師という資格は取って終わりではなく、酒で人をもてなし喜ばせる技術を磨き続けることが重要です。ファイナリストの方々の接客を見るだけでも、たくさんのヒントがありました。
日本だけでなく世界中でも日本酒が楽しまれるようになるためにも、今後ますます唎酒師の活躍が期待されます。受賞された方々、おめでとうございました!
(取材・文/橋村望)