今年6月、人形町に新たな日本酒立ち飲みスポットがオープンしました。

その名も「3bis(トワビス)」。

一見、フレンチやワインバーかと見紛うネーミングですが、れっきとした日本酒バー。しかもスタンディングスタイル、つまり立ち飲みなのです。

「3bis」とはフランス語で、直訳すると「隣の3坪」。 日本酒のお店がなぜフランス語かというと、実はこちら、斜向かいのフレンチビストロ「イレール 人形町」の姉妹店で、オーナーシェフ・島田哲也さんが手がける日本酒バーなんです。

つまり、イレールから見て"隣の3坪の店"という意味なのです。

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島田シェフは、パリの三ツ星レストランで修行された一流シェフでありながら、型にはまらない斬新な手法で日本フレンチ界に新風を巻き起した方。

そんな島田シェフが、わずか3坪の空間に可能性を見出した日本酒バー「3bis」とは、一体どんなお店なのでしょうか。

人形町駅から徒歩3分。木のぬくもり溢れるアットホームな空間

地下鉄日比谷線・浅草線の人形町駅から徒歩3分。江戸の風情を残す老舗がならぶ甘酒横丁から1本脇に入った通りに「3bis」があります。

看板は無く、ガラス扉に小さく「3bis」のロゴがあるのみ。ペンダントライトにぼんやりと照らされる木を基調とした店内は、芳しい香りで包まれています。

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わずか3坪の店内は、5~6人で一杯になるカウンターと、テーブルが2卓、椅子が2脚あるのみ。この広さながら、詰め合えば最大15人程度入れるというのだから驚きです。

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老若男女問わず、様々な方が美酒を求めて「3bis」に集まります。一人飲みの方が多く、おひとり様同士すぐに打ち解けてしまうそうです。

3bisには日本酒に詳しい3人の女将がおり、日本酒の仕入れは島田シェフと3人の女将が相談してセレクトしています。

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日本酒の品揃えは、純米酒を中心に常時30種類以上。

定番は「新政」「醸し人九平次」「作」「鏡山」「神亀」「七本槍」「手取川」など。そのほか、季節商品や話題の1本、各地で買い付けてきた限定品など、日々品揃えが変わるため、毎日来ても飽きないと常連さんに評判だそうです。

1杯400円からと、毎日通える立ち飲み価格が嬉しいですね。

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冷酒グラスは、木村硝子と木本硝子の2種類から選べます。薄いガラスは口当たりが良く、お酒の味と香りの膨らみを満喫することができます。

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「3bis」の2階には、着席式の利き酒スペースがあります。今後はさまざまなテーマでイベントも開催予定だそうです。

個性派ぞろいの女将三人衆!「3bis」の3(トワ)女将

「3bis」を盛り上げる3人の女将に、イチオシ日本酒を教えてもらいました!

女将No.1 磯田まゆかさん

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今年4月まで水天宮で期間限定日本酒バー「ハルマデ」の女将をされていた磯田まゆかさん。現在、再びご自身のお店を始めるべく準備をしながら、「3bis」でも週3日ほど女将としてお店に立っています。

溢れんばかりの日本酒愛と豊富な知識で、オススメの一本をセレクトしてくれます。「ハルマデ」の常連さんも、「3bis」で再びまゆか女将に会えると大喜び。

そんなまゆかさんのオススメは、「うまからまんさく」(日の丸醸造/秋田県)。
「淡麗辛口」に対して、「旨みのある辛口」という新しいジャンルを作り出した、全国に根強いファンを有する日本酒。「食事の邪魔をしない」から一歩踏み込んだ、「食事の味を引き立てる」一本です。

女将No.2 スンミさん

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「イレール」で働きながら「3bis」の女将も務めるスンミさんは、ワインのソムリエ資格保持者。繊細な味覚を持つソムリエならではの視点で、日本酒と料理のマリアージュを提案してくれます。

スンミさんのオススメは、「風の森」(油長酒造/奈良県)。
フレッシュさを感じるプチプチとしたガス感と、果実のようなジューシーな甘みが白ワインを思わせる1本です。

女将No.3 平井遥さん

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3人目の女将は……実は筆者、平井です。

得意分野はズバリ燗酒。福島県・末廣酒造公認の「お燗名人」である私は、それぞれのお酒がもっとも美味しく感じられる温度でお客様に燗酒を提供しています。

オススメは「神亀 辛口」(新亀酒造/埼玉県)。
全量純米蔵のパイオニアである神亀酒造のお酒は、温めてこそ味が開く日本酒の代表格です。ガツンと熱燗でいきましょう。

イレールからの出前もできる!フレンチ風の絶品おつまみ

「3bis」のおつまみは、島田シェフと、奥様で料理研究家の島田まきさんが監修。フレンチの技法が散りばめられたセンス溢れる創作おつまみは、日本酒との意外なマリアージュを引き出します。

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常連さんに人気の「野菜のコンソメ煮」(400円)。
旬の野菜をコンソメでこっくり炊き上げた、体に優しいおつまみ。フレッシュ感溢れる生酒から落ち着きのある純米酒まで、オールマイティーに日本酒の味わいに溶け込んでくれます。

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「ごぼうの赤ワインきんぴら」(480円)は、驚きの1品。
赤ワインの酸味や渋み、スパイス、胡麻油の香りが複雑な風味を醸し出し、奥行きのある味わいが絶品です。

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電話1本で「イレール」からおつまみの出前も可能。鮎のコンフィやフレンチ風海老しんじょうなど、季節によってその内容は異なります。

筆者オススメの組み合わせは、「燻製鶏モモ肉の炙り焼き(600円) × 神亀 純米辛口 (550円)」

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鶏モモ肉を塩で揉み込み燻製にして、仕上げに皮をパリパリに炙ったこだわりの逸品。外はサクっと、中はプリプリ。じゅわっと肉汁も溢れます。甘辛いハニーマスタードを付けてお召し上がれ。

肉料理には55度〜60度くらいの「新亀」の熱燗が好相性です。

なぜ、フレンチシェフが日本酒バーを?

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パリの三ツ星レストラン「アルページュ」など名だたる店で修行を積み、恵比寿などでフレンチレストランを展開されていた島田哲也シェフ。その後、より気軽にフレンチを楽しんで欲しいという思いから、ビストロスタイルへ大きく方向転換。2013年に「イレール 人形町」をオープンさせました。

"より気楽に、肩の力を抜いて、大いに飲んで食べて"
そんなスタイルを追求する島田シェフがスタンドバーをオープンさせたのは、自然なことのように思えますが……なぜ"日本酒のお店"だったのでしょうか?

そのきっかけは15年前。スタッフが地元で買ってきてくれたという「雨後の月」(相原酒造/広島県)に衝撃を受けたそうです。そこで日本酒にハマリかけたものの、職業柄、贈り物としてもらう日本酒は最高級品の大吟醸ばかり。美味しいけれど、食中酒として飲むには向かず、盆や正月などの特別な日にしか飲まなくなってしまったそうです。

島田シェフの日本酒熱を再燃させたのは、「新政」(新政酒造/秋田県)との出会いでした。酸のある日本酒にワインの要素を感じ、食中酒として普段から日本酒を楽しむようになったそうです。

その後、「新政」をきっかけに、「醸し人九平次」や「仙禽」「山本」など、ワインのようなテイストの日本酒と多く出会い、いよいよ日本酒の魅力にのめりこんでいきました。そんなとき、ちょうど近くの物件に空きができたため、日本酒バーのオープンに踏み切ったそうです。

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「3bis」を始めて一番驚いたのは、「イレール」のワイン好きなお客様の中に実は日本酒好きがたくさんいて、とりわけ女性が多かったことだそう。「イレール」でフランス料理とワインを嗜んでから、「3bis」の日本酒で〆るという楽しみ方をされているお客様も少なくないようです。

「いろいろな種類を飲み比べできたり、合わせる料理を限定しない気軽さが、ワインにはない日本酒の魅力ですね」と、島田シェフ。

今後は交友関係のあるフランス人をどんどん巻き込んでいきたいそう。日本酒の国際化に一役買ってくれそうな島田シェフに、大いに期待したいですね。

(文/平井遥)

◎「bar 3bis

  • 住所:東京都中央区日本橋人形町2-8-7
  • 営業時間:月~金 17:00~23:30(Lo:23:00)
    土日祝 15:00~21:00(Lo:20:00)
  • 定休日:不定休