京都を代表する観光名所「平安神宮」のある京都市の岡崎エリア。ほかにも南禅寺や永観堂などの寺社仏閣が集まり、自然も多く落ち着いた雰囲気のある岡崎は、高級住宅地としても人気で、最も京都らしいエリアのひとつです。
この岡崎エリアに位置する和食店が「kakyo」です。日本の名店やフランスで修行を積み、和食・洋食を自在に操るオーナーシェフの中上(ちゅうじょう)さんが提供するのは、フレンチのテイストが加わった四季折々の懐石料理。
さらに、唎酒師でもあり、シニアソムリエの資格も持つ中上さんが自ら選ぶドリンクと組み合わせるペアリングコースがこのお店のおすすめです。
この記事では、中上さんが料理人として歩んできた道と、そこから生み出されたコースペアリングのこだわりをうかがいました。
「料理とドリンクの相性を第一に考える」
「kakyo」はフレンチテイストを取り入れた和食店です。素材や技法はフレンチを取り入れつつも、たとえば、和風だしにワイン、米酢の代わりにワインビネガーを使うなど、新しい和食の楽しみ方を提供しています。
イチオシは、料理に合わせて日本酒やワインを組み合わせるペアリング付きのおまかせコース。オリジナルのノンアルコールカクテルも用意されているので、お酒が飲めない方でもペアリングを楽しめます。
シェフの中上さんは、和食の名店「吉兆」や京懐石フレンチの有名店「西洋膳所 おくむら」を経てフランスに渡り、ボルドーのミシュラン星付きレストラン「Le Pavillion des Boulevards」で修行を積みました。日本に帰国後は、京懐石風フレンチの名店「祇園 匠 奥村」で働いたのち独立します。
華やかなキャリアを通して和食とフレンチの融合を学ぶなかで、フランスで目にしたのが「誰もが当たり前のこととして料理とワインの相性を考えている文化」でした。その様子に感銘を受けて、現在の和食とお酒のペアリング重視のスタイルになったといいます。
五感で味わうペアリングコース
「kakyo」のおまかせペアリングコースの1品目は、「前菜盛り合わせ」です。
美しく盛り付けられたのは、剣先イカと伏見とうがらし、車海老と芋茎(ずいき)のゴマソースがけ、蒸し鮑とマスカットの土佐酢ジュレがけです。
さっぱり美味しく、そして滋味あふれる前菜に合わせるお酒は、京都伏見・増田徳兵衛商店の「稼ぎ頭」。アルコール度数が低く、酸味と甘味のバランスがよいこのお酒は1杯目に向いています。
また、同じく京都・木下酒造の「玉川 にごり酒」もおすすめです。好みを相談しつつシェフに選んでもらえるのもペアリングコースの魅力です。
2品目は、京都名物の鱧を使った「鱧と早松茸(さまつたけ)のお吸いもの」です。
ごま豆腐が入っていて、和の味わいのように思えますが、隠し味にバターを落とすことでコクが深まっています。
お吸いものに合わせて選んでもらったのが京都・藤岡酒造の「蒼空 純米吟醸」。とても飲みやすく、洋食にも合わせやすいお酒です。
3品目は、「甘鰈のサラダ仕立て」。三杯酢ベースのすだちドレッシングに黒酢のソースでいただくアマガレイです。
この料理とのおすすめは、日本酒ではなく白ワインで、ドレッシングの柑橘系の酸味と野菜の味わいとの相性から、「サンセール (ソーヴィニヨンブラン)」を選んでもらいました。
日本酒であれば、同じくドレッシングとの相性を考えて、スッキリ辛口の山形・酒田酒造の「上喜元 be after」。こちらもとても飲みやすく、美味しいお酒です。
4品目は、「kakyo」の人気メニューの「淡路の穴子とうにの飯蒸し」です。
お酒で蒸したもち米の食感を活かした料理で、滋賀県産の「羽二重餅米(はぶたえもちごめ)」を使っています。穴子とウニという強い味同士の食材が一体となり、さらに、もち米との相性も抜群で一瞬で口中に味わいが広がりました。
合わせるお酒は、滋賀・喜多酒造の「喜楽長 純米吟醸」。食材とお酒の産地を揃えるのもペアリングの楽しみ方のひとつですね。
5品目は、「太刀魚の塩焼き」です。
土台に置いた京野菜・賀茂なすと一緒に、西京味噌とゆずのソースでいただきます。素材、焼き加減、ソースの味、バランス全てがマッチした一品です。
ソースも西京味噌と強めの味わいなので、合わせるお酒は力強い滋賀・畑酒造の「大治郎 純米生原酒」です。
6品目は、いくらと毛ガニがのった「赤万願寺とうがらしのピューレ」をいただきました。
素材そのものの味を楽しむ和食では、魚卵とワインの相性は難しく、この料理には日本酒を合わせます。
お酒は幅広い料理に合わせられる秋田・新政酒造の「生成(エクリュ) 2019 生酛木純米」。味の強い魚の後に、口の中をスッキリさせてくれます。
7品目は、「黒毛和牛のロースト」。赤ワインソースとじゃがいものピューレがかかっています。
完全なフレンチに見えますが、赤ワインソースに醤油が、ピューレには出汁が使われていて、和洋折衷といった味わいです。
合わせるお酒は、赤ワインのブルゴーニュ(ピノ・ノワール)の「Savigny les beaune 2009」。ベストの飲みごろで出すことを意識している「kakyo」の赤ワインは、ブルゴーニュであれば5~10年前後のヴィンテージを料理に合わせて提供します。
日本酒であれば、石川・農口尚彦研究所の「農口尚彦研究所 本醸造」。力強い味わいの牛肉のローストにも、日本酒は合わせることができ、日本酒の懐の深さをあらためて感じます。
最後の食事は、丹波黒大豆の枝豆「夏ずきんの炊き込みご飯」。目の前で炊き上げてくれる「kakyo」のご飯物は季節を感じられる毎回の楽しみです。
合わせたのは、お酒ではなく京都・宇治から取り寄せている職人が焙じた、香りのよい「ほうじ茶」でした。
最後のデザートは、もものジェラートと抹茶のババロア、季節の果物。飲み物は、淹れたてのエチオピアモカコーヒーか、宇治の特選の玉露を選んで、コースが締めとなりました。
料理とお酒のストーリーの相乗効果
ストーリーがあるコース料理に、さらにお酒のストーリーが加わることで大きな相乗効果が生まれるように感じられました。「好きなものを飲むのが一番」と語る中上さんは、好みやコンディションに合わせて銘柄の提案もしてくれます。
フレンチテイストの和食とドリンクの組み合わせを通して、中上さんのこだわりが体験できたひとときでした。京都を訪れる際には、「kakyo」で新たな日本酒ペアリングを体験してみてください。
(取材・文:星知紀/編集:SAKETIMES)
◎店舗情報
- 店舗名:「kakyo」
- 住所:京都市東山区三条神宮道東入4丁目中之町203 Schilf 神宮道1F
- TEL:075-771-3322
- 営業時間:ランチ12時~15時(L.O.13時30分)
ディナー18時~22時30分(L.O.20時00分) - 定休日:不定休
- 参考価格:ランチコース(9品)7,500円+ドリンク3,600円~6,000円