新潟県最大の繁華街である、新潟市の古町。
古町は新潟駅から徒歩30分程度の場所にあります。歩いて行くには少し距離があるものの、駅前から多くのバスが出ているため、アクセスは良好といえるでしょう。
古町には1番町から13番町までを東西に貫く、長い商店街があります。今回紹介するのは、9番町にある「ひのと」。時折、芸妓さんが路地を歩く姿を見ることのできる、趣のあるエリアに店を構えています。
鬼瓦がお出迎え!カウンター席のみの落ち着いた店内
お店に着くとまず目に飛び込んでくるのは、いかつい顔をした鬼瓦。岐阜県で作られたものだそうで、厄除けの意味をもつとともに、お店のマスコットでもあるそうです。
店先には「ひのと」と書かれた表札もありました。控えめですが、素敵な外観。大きな窓から店内の様子が見えるようになっているので、初めての方でも安心ですね。
店内は照明が抑えめになっており、大人な雰囲気。カウンター9席のみで、店主の傳竜一さんがひとりで営業しています。
傳さんは、東京や大阪、京都、兵庫、群馬などの全国各地で数々の有名店を経て、2014年11月に地元・新潟で「ひのと」をオープンさせました。「ひのと」は漢字で書くと「丁」。この字には"料理人"という意味があるそうです。
和にこだわった魅力的な料理
手書きのメニューはどれも興味をそそるものばかり。半量にできるメニューもあるので、ひとりで行ってもいろいろな料理が楽しめますね。
お酒のメニューには、新潟県外の日本酒がたくさんありました。できるだけさまざまなタイプのお酒を置くようにしているのだとか。
日本酒は半合でも注文できるようになっています。日本酒の他にも、日本産にこだわったビールやワインも充実していますね。「ひのと」は、食材やお酒だけでなく、食器も日本産にこだわる、"日本ファースト"なお店なんです。
お椀の出汁は「ひのと」の基本
「ひのと」では、最初に温かいお椀が出てきます。これは、お店の基本である出汁を感じてもらうためなのだとか。温かい汁物は消化にも良いので、うれしいですね。
この日のお椀は鮎そうめん。訪れたのは7月だったので、七夕によく食べられるそうめんと、星に見立てたオクラが入ったお椀でした。季節感を大切にしていることが伝わってきます。軽く炙った鮎の香ばしさと、出汁の温かさにホッとしますね。
お酒はまず、新潟の日本酒からいただきましょう。
こちらのお酒は高千代酒造(南魚沼市)の「Takachiyo OMACHI」。県内では珍しい、雄町を100%使用した日本酒です。日本酒の瓶を目の前にしばらく置いてくれるので、ラベルをゆっくりと眺めながら楽しむことができます。
「だし巻き卵」はふわふわで、口に入れると出汁がじゅわっと広がります。濃すぎず薄すぎず、ちょうど良い味わい。こちらの「だし巻き卵」は、フライパンを包むほどの強い火力で一気に仕上げていました。
ころんとかわいい見た目の「燻製とまとポテサラ」。しっとりとしたポテトサラダの中に入っているのは、乾燥させてパリパリにした生ハムや、オリーブオイルで炒めた玉ねぎ。さらに、赤ワインや醤油、粒マスタードを使ったソースや唐墨パウダーが、普通のポテトサラダとはひと味違う雰囲気を演出しています。
傳さんはお客さんに聞かれると、分量から作り方までレシピを教えてくれるのです。使っている食材の袋や包装まで見せてくれることも!
「誰でも作れますよ」と優しく話す傳さんですが、同じレシピで作っても家ではまったく再現できませんでした。なぜなのでしょう...。
「天穏 無濾過純米酒」(板倉酒造/島根)
燗酒は、うぐいす徳利で提供されます。お酒を注ぐと良い鳴き声が聴こえるので、楽しくなってついつい日本酒が進んでしまいますね。
続いては新潟の夏の味「くじら汁」。入っている具は家庭によって異なりますが、茄子とみょうがは鉄板でしょう。一口飲めば「あぁ」と声が漏れてしまうほど、しみじみとした味わいです。
こちらは「とまと胡麻豆腐あげだし」。本くず粉を使っているので、驚くほどもっちりとしています。初めて食べたときの衝撃は忘れられません。トマトの酸味が感じられて、ついついリピートしたくなる逸品です。
季節に合わせた日本酒の数々
季節を意識した日本酒もたくさん用意しています。日本独特の四季を日本酒で感じる喜びを噛みしめながら呑むのも、良いものですね。今の季節は、ひやおろしなど、秋の日本酒が揃っているようですよ。
お造り盛り合わせ。この日はメジマグロ、キジハタ、ハモ、シンコ、タコの頭(帽子)の5種類でした。
左側に添えてあるのは、なんとサクランボ酢味噌。新潟の聖籠町で採れたサクランボで作っているのだとか。
こちらは「雪虎」。焼き色を付けた厚揚げを"虎"に、大根おろしを"雪"に、ネギを"竹"に見立てた料理で、江戸時代からあるメニューだそう。江戸の人はオシャレですね。
「焼きやさい盛りウニバーニャ」。旬の野菜はもちろん、ニンニクやオリーブオイル、ウニで作った"ウニバーニャソース"が絶品。それだけで立派なおつまみになります。夏らしい、うちわをモチーフにした器も素敵ですね。
お酒や料理だけでなく、器による演出にも「ひのと」の楽しさがあります。
「佐渡牛塩すき焼き」。佐渡牛は佐渡島産の黒毛和牛で、生産数が少ないため「幻の牛」とも呼ばれています。そんな貴重なお肉がたっぷり!塩味なので重たくありません。ぺろりと食べてしまいました。
「余った汁がもったいない...」と呟くと、「うどんでも入れましょうか?」と優しいお声かけが。野菜を追加して焼うどんにしていただきました。うどんが美味しい汁を吸って良いおつまみになり、シメのつもりだったにもかかわらず、日本酒に手が伸びてしまいます。
「ちりめん山椒ごはん」。ちりめんじゃこも山椒も贅沢に入っています。こちらはおにぎりにしていただきました。
専門店にも負けない、こだわりの甘味
季節に合わせて提供される甘味は、どれも凝っていて、まるで甘味専門店のよう。しかも、すべて独学とのこと。驚きですね。
この日いただいたのは「梅干しアイス最中」(写真右上)と「水信玄餅」(写真右下)。「梅干しアイス最中」には梅の果肉が入っており、甘さが控えめでさっぱりとしていました。最中に挟んで提供されるので、パリパリの状態を楽しむことができます。
「水信玄餅」は綺麗な透明のゼリーを、黒蜜ときなこでつるっといただきます。どちらも呑んだ後にちょうど良い甘さでした。写真左は、1~2月頃に登場するという「苺大福」と「鯛焼き」。求肥で包みたてのもちもちとした大福と焼きたてアツアツの鯛焼きは、中の果物や餡を変えて、いろいろなバリエーションが登場します。
甘党の方は「ひのと」で甘味を食べずに帰るのはもったいないですよ。
お客さんを一番に考える、店主の優しさ
珍しい食材や新しい発想の料理を提供する「ひのと」。傳さんから「これがおすすめ」とメニューを推すことはありません。
「みなさんそれぞれ、好みも気分も違いますから。食べたいもの、呑みたいものを好きに選んでほしいです」と、傳さん。何よりも食べやすさを一番に考えているそうで、「シャレていても、食べにくい料理は"美味しい"とは言えない」と話していました。
カウンターからは、傳さんが手際良く無駄のない動きで料理を作る姿を眺めることができ、それもまた楽しい時間です。調理の工程がすべて見えるというのは、安心感にもつながりますね。
日本酒のラインアップは県外のお酒が多いものの、お手洗いの入口にかかっている暖簾が新潟で作られている麻織物「越後上布」だったり、コースターが新潟の伝統工芸織物「亀田紬」で作られていたりと、いたるところで新潟を感じることができますよ。
職人気質で寡黙そうに見える傳さんですが、とても気さくで、料理や空間の演出からもうかがえるように、とても優しい方なんです。新潟にお越しの際は「ひのと」で美味しい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
(文/茜)
◎店舗情報
- 店舗名:「ひのと」
- 住所:新潟県新潟市中央区古町通9番町1468
- アクセス:新潟駅から2.3km バス停「本町」下車徒歩8分
- 営業時間:火~日 17:00~24:00(早めに閉める場合もあります)
- 定休日:月
- 席数:カウンターのみ9席
- 電話番号:025-226-5022