バスツアー中の食事と聞くと、高速道路のサービスエリアやドライブインレストランなどが想起されるかもしれません。しかし、そんな従来のイメージを覆す新しいバス旅が登場しました。

それは、日本初の厨房を備えたレストランバス。産地へ直接うかがい、採りたての食材をその場で調理。できたてホヤホヤの料理を食べることができる、新しい試みです。

このレストランバスは全国に2台しかありません。新潟で運行する2号車には、酒蔵見学を含む日本酒推しのツアー「福島潟・米文化堪能コース」(WILLER TRAVEL)が用意されています。なんて素敵な企画!ということで、実際に参加してみました。

最新のレストランバスに乗車!

5月某日、AM9:30に新潟駅南口集合。あいにくの雨ですが、花火模様の2階建てバスに気分がアガります。

座席につくと、笑顔の素敵なスタッフが乾杯用のお酒「おむすび 黒 純米酒」(今代司酒造/新潟県)を注いでくれました。

米のまろやかさとコクを感じながらも、スッと切れていく。まさに乾杯にふさわしいお酒ですね。新潟市の農家・酒蔵・飲食店が手を"むすび"、米作りから提供までを共同で設計することで、消費者との縁を"むすぶ"お酒なのだそう。

乾杯!と同時に出発進行。まずは、場を和らげるために乗客同士の自己紹介やバスの案内からスタートしました。このバスは2号車で、1号車は熊本の阿蘇で活躍中とのこと(5月現在)。

最新のバスだけあって快適ですね。バスが揺れてもドリンク類がこぼれないよう、テーブルにはコップやボトルを固定する工夫がされています。

ツアーの目玉!歴史ある今代司酒造の見学

AM10:00。バスが出発してから10分あまりで最初の訪問地、沼垂(ぬったり)地区にある全量純米蔵・今代司酒造株式会社に到着しました。ツアー最大の目玉、酒蔵見学です。

豊かな水と土が生み出す新潟清酒の美味しさを今代司酒造で学びます。創業家9代目の山本吉太郎さんに蔵を案内していただきました。

蒸米に使われる釜をはじめ、今代司の酒造り道具はどれも古式ゆかしい立派なものばかり。なお、今年度分の製造は3月末に終了したそうです。

山本さんから、酒造りや蔵の建物、沼垂地区について、ていねいにご説明いただきました。杉製の木桶は、堺の業者に特注したものだそう。この桶で仕込んだお酒は「木桶仕込」として販売されています。

大正時代に改築された蔵は、もともとあった300年前の蔵に使われていた材木を再利用して建てられたそう。いたるところに古材が生かされており、歴史ある蔵元ならではのレトロな魅力がたっぷり。

見学のあとは、いよいよ試飲。美しいボトルで数々の国際デザイン賞を受賞している「錦鯉」や蔵元限定の「7年熟成 ヴィンテージ 純米吟醸」といったプレミアムな逸品から、自然栽培の五百万石を用いたもの、木桶仕込みで醸したものまで自由に飲むことができます。

甘酒ブームの最先端をいくヨーグルト風味の甘酒「麹・乳酸発酵甘酒 もと」も試飲でき、お酒が苦手な人も楽しんでいました。

新潟県産の食材にこだわるシェフが腕を振るう

今代司酒造で購入したお酒は、バスに持ち込んで飲むこともできました。

「自然栽培米仕込み 純米大吟醸 今代司(自然栽培米五百万石100%使用)」を買って、車内でいただくことに。

AM10:30。酒蔵見学を堪能し、バスに戻ってみると、ランチの1品目「佐渡島黒豚のテリーヌ 新潟産スイスチャード・カブ添え」が用意されていました。ソースは、今代司酒造のご近所にある株式会社峰村醸造の味噌をベースにもの。添えられた塩にも、シェフのこだわりが感じられます。

今代司酒造の「天然水仕込み 純米酒」でさらに乾杯。こちらのお酒は、シンガポール航空が運行する全路線のビジネスクラスで採用されていたそう。

法律により、走行中に厨房設備を使って料理をするのは禁止されているので、バスが走っている間は真保元成シェフが乗客の中へ積極的に入っていき、場を盛り上げていました。

生産者と料理人、そして消費者をむすんでいきたいという熱い思いが伝わってきます。真保シェフは、自分が使う米をみずから田植えし、すべての食材を産地まで直接取りに行くそう。食材はすべて新潟県産にこだわっています。お酒の勢いも手伝って、場がほぐれてきました。

美しい風景とお酒をたっぷり堪能

あいにくの雨でしたが、田植えが済んだばかりの新潟平野に心和みます。訪ねたばかりの酒蔵が造ったお酒を、車窓の風景を楽しみながら飲めるのもたまりませんね。

参加者には無料ドリンク引換券がひとり4枚ずつ用意されていました。2枚でアルコール飲料1杯、1枚でソフトドリンク1杯と引き換え可能。さらに飲みたい方は、4枚1000円の追加チケットを購入することもできますよ。

AM11:00。こだわりの野菜を提供してくれる、大月集落に到着。住民のみなさんが歓迎してくれました。田んぼのあぜ道を歩き、ヘイケボタルを育てているビオトープや、自宅の庭に湧き出てくる天然ガスを精製貯蔵しているコンプレッサーなどを見学します。

バスに帰ってみると、真保シェフは料理の準備。キッチンには窓があるため、バスの外から料理中の姿を見ることもできました。

AM11:30。広大な田園風景を眺めながら、2皿目「越の鶏のリゾット 宮尾農園有精卵の半熟卵のせ」をいただきます。鶏に米や新鮮な野草を食べさせると、卵の黄身が鮮やかなレモン色になるそう。鶏肉は今代司酒造の麹に漬けこまれて柔らかくなっており、お酒に合うのも納得でした。グリンピースが、甘味とソフトな食感で名脇役を担っています。

続いて、"水の公園"福島潟の多様な自然環境や、人々の暮らしについて紹介する施設を見学。福島潟と新潟平野のパノラマは絶景でした。

福島潟散策から戻ると、3皿目「南蛮エビと春野菜の包み揚げ」が準備されていました。だんだんと酔いが回ってきているなか、爽やかな吟醸出汁が胃に優しくしみわたります。

最後は越後姫を使った甘いデザートで!

PM12:40。いよいよバスツアーも終盤。タカギ農場で、いちご狩りをしました。ここで育てているのは、果肉が柔らかいため他県になかなか出回らない「越後姫」。「へたの近くまで真っ赤なものを選んでくださいね」と、農場の高木さん。

真っ赤ないちごがハウス全体に実って、フルーティーな香りが満ちています。言われた通りに、へたまで赤いものを選んで収穫。とても甘く、次々とほおばってしまいました。

PM1:00。デザートは「新潟コシヒカリアイスのタルトレット」に、タカギ農場の越後姫ソースを温かいままで盛り付けたもの。ひんやりとしたアイスに、温かいソースがベストマッチ。新潟産の雪国紅茶とともにいただきました。

PM1:30頃。雨があがったので、バスの屋根を開けていただきました。天井は開閉式の透明な屋根になっており、天気の良い日は屋根を開け、開放的な景色を楽しむことができます。

五頭のまだ残雪残る山々、阿賀野川が運んできた肥沃な大地の恵みを、農家やシェフの想いを感じながらいただくことができるお値打ちなバス旅「福島潟・米文化堪能コース」(WILLER TRAVEL)。開催は6月30日までの各土曜日だそう。新潟への日本酒旅、いかがでしょうか。

(文/山口吾往子)

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます