東京・神楽坂にある会席料理と日本酒ペアリングの専門店「ふしきの」は、旬の食材を使った料理と選び抜いた日本酒が提供され、見事なマリアージュを楽しませてくれる名店です。存在感のある白木のカウンターが目を引く店内。凛として、それでいて柔らかい雰囲気に包まれています。

「ふしきの」店主の宮下祐輔さん

「ふしきの」店主の宮下祐輔さん

店主の宮下祐輔さんは、日本酒ペアリングのスペシャリストで、酒器にも造詣が深い人物。「ふしきの」店内には酒器のギャラリースペースも併設されています。これまで、数多くの人々に日本酒を提供し、ワークショップも開催するなど新しい日本酒の飲み方を提案してきました。

そんな宮下さんが新たに開発したのが「asobi sake ceramics」と名付けられた3客の酒器。一体どのようなものなのか、体験してきました。

酒器の形によって日本酒の味わいが変わる

「asobi sake ceramics」の酒器

「asobi sake ceramics」の酒器。左から順に「TYPE RICH」「TYPE MILD」「TYPE DRY」と並ぶ

「asobi sake ceramics」は平盃型、半円型、筒型の形が異なる3客の酒器。どれも美しい白が印象的です。釉薬をかけずに焼いた素焼きのため、手に持つとザラリとした手触り。唇に当たる部分はどれも薄くなっています。

それぞれ「TYPE DRY」「TYPE MILD」「TYPE RICH」と名付けられ、味わいもその通りに感じるといいます。

「早瀬浦 吟撰 越の雫」

「早瀬浦 吟撰 越の雫」をそれぞれの器でいただきます。

「asobi sake ceramics」の平盃型「TYPE DRY」

平盃型の「TYPE DRY」は、柔らかく甘みがあり、すぐに酸が立ってきました。後半はすっきりとしてキレの良さを感じます。

「asobi sake ceramics」の筒型「TYPE RICH」

筒型の「TYPE RICH」は、ふくよかさが前面に出て、余韻が長く感じます。

「asobi sake ceramics」の半円型「TYPE MILD」

丸みのある半円型の「TYPE MILD」は、口に入る量がちょうど良く、手になじむ大きさ。3タイプの中で、甘み、コク、酸のバランスがもっとも良いと感じました。

「誉凱陣 純米吟醸」

続いて「誉凱陣 純米吟醸」をいただきます。

「TYPE DRY」は、熟成香と酸が強く、キレが良くなります。「TYPE RICH」は、アルコールのボリューム感が前面に出て、ふくよかでコクを多く感じます。「TYPE MILD」は旨みと酸のバランスが絶妙でした。

同じ銘柄でも、それをいただく酒器によって、感じ方がまったく異なることに驚きます。「TYPE MILD」が銘柄本来の味を引き出しているのではないかと思ったのですが、燗酒になるとまた印象が変わってきます。

「隆 無濾過生原酒」

「隆 無濾過生原酒」の燗酒で試してみると、「TYPE DRY」は柔らかく口に入り、温度も香りも、もっとも良く感じられました。

「asobi sake ceramics」を体験した方々のアンケートを見ても、全員が味の違いを実感したという結果が出ています。そして、好みの酒器のタイプをたずねると、好みの違いに男女差はなく、それぞれの好みが均等に分かれたのには驚きました。同じ酒でも、自分の好みの酒器を選ぶことで、もっと日本酒を楽しめることができるかもしれません。

たとえば、キレの良い酒が好きなのであれば、「TYPE DRY」のような器を使い、ちょっとふくよかさが足りないと感じた酒を「TYPE RICH」のような器で呑めば、ボリュームが加わって、より美味しくなるでしょう。

誰もが同じ体験をできる酒器「asobi sake ceramics

「ふしきの」店主の宮下祐輔さん

日本酒の可能性が広がる酒器の提案をしてくれた宮下さんに「asobi sake ceramics」の開発についてうかがいました。

─「asobi sake ceramics」を作ろうしたきっかけは?

酒器によって同じ酒でも味わいが変わるという自分の経験をきっかけに、研究をしながらワークショップを行ってきました。しかし、いきなり陶芸家の作品を使うとなるとハードルも高いでしょう。そこでワークショップでも使用できて、味わいの変化が分かりやすく、誰もが同じ体験をできる酒器を作ることにしたんです。

─ 開発のなかで、特にこだわった点はどこですか?

まずは、この酒器で日本酒をいただいて美味しいかどうか。美味しくなければ意味がありませんからね。そして、3客がそろって段階的に味が変わることを考え、この形にしました。

「asobi sake ceramics」の酒器

2018年1月から始まったという商品開発は、リリースに至るまで苦労が絶えなかったといいます。

なかなか納得いくものが作れず、商品化は不可能かと思いながらも、1ミリ単位で厚さや形状を調整しながらやっと完成した「asobi sake ceramics」。宮下さん自身も、想像以上のものが仕上がったと満足しているそうです。

どんな人に使ってほしいかと伺うと「日本酒を飲むすべての方々に」とキッパリと断言。「asobi sake ceramics」で、味わい方のトレーニングをしてほしいということです。

この3客で味わいの違いを体感し、さまざまな酒を試していくと、自分の好みの酒がわかり、そして苦手なタイプだと思っていた酒も器を変えることで楽しめるようになるかもしれません。

毎回、器の形を意識して飲み続けることができれば、1年後の嗜み方は大きく変わってくるでしょう。

「ふしきの」店内にある酒器のギャラリー

「これは、言うなればスターターキット。目の前にある日本酒をどう美味しく飲むかを考え、楽しみ方の経験値を上げていってほしい。『asobi sake ceramics』をきっかけに、自分好みの酒器を見つけてくれればうれしいですね」

2018年10月にフランス・パリで行われた「ジャポニズム2018」では、日本酒アンバサダーとして招聘された宮下さんがセミナーを開催。「ジャポニズム2018」は日仏友好160周年を記念して、さまざまな文化行事が行われる一大イベントですが、そこで「asobi sake ceramics」は高い評価を得ました。日本酒だけでなく、それを楽しむ酒器にも注目が集まったのは大きな意義のあることではないでしょうか。

「海外市場で日本酒の文化が豊かになり、より日本という国がおもしろいと思ってもらえる。その土壌を作っていくのが『asobi sake ceramics』だと思います」

自らを 「SAKE Gastonomist」と称する宮下さん。酒器を変えたらどう味わいが変わるのか。温度が変わるとどう感じるのか。加水するとどうなのか、といった「SAKE Gastronomy」を理解すれば、もっと日本酒を美味しく楽しめるといいます。「SAKE Gastronomy」を可視化し、体験させる役目が「SAKE Gastonomist」です。

「うんちくをさらけ出すので、みなさんにそれらを吸収してほしい。それによって自分も、もうひとつ上の段階へ行けると思います」

そのために必要なアイテムが、「asobi sake ceramics」。多くの日本酒ファンに「asobi sake ceramics」でトレーニングを積んで、今までと違う日本酒の美味しさや楽しさを感じてほしいと思いました。

◎商品概要

(文/まゆみ)

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