全国の日本酒ファンが注目する「東京の清酒」

東京に清酒蔵が10蔵(1蔵は休蔵中)もあることは、日本酒ファンの間でもあまり知られていないでしょう。古酒で有名な青梅市の小澤酒造(代表銘柄:澤乃井)などは古くから名を知られていますが、近年「屋守(おくのかみ)」ブランドで全国的に注目を集めているのが、東村山市の豊島屋酒造。

明治神宮、神田明神に奉納される「金婚正宗」

1596年、初代・豊島屋十右衛門が神田で酒屋兼一杯飲み屋を始め、酒好きの江戸町人が集う場所になりました。同時に、十右衛門は江戸における酒造りの草分けとなる白酒の醸造を始め、それが現在ある清酒蔵の礎となったそう。有名な歌川広重の浮世絵にも、繁盛している豊島屋の様子が描かれています。

豊島屋は時代を経て豊島屋本店となり、昭和初期には東村山市に酒造会社が設立されました。主力銘柄は「金婚正宗」。明治神宮、神田明神の御神酒として奉納されている酒としても有名ですね。武蔵野台地の地下150mで磨かれた仕込み水を使用した、まろやかな味わいに定評があります。

蔵元4代目が全国に問うブランド

「屋守」は蔵元4代目・田中孝治氏が「東京の旨い酒を全国に発信したい」という思いから立ち上げたブランド。酒蔵を守り続けていく気持ちと、酒販店や飲食店の繁栄を守る作品を醸し続けようという思いから「屋守」と命名されたそう。普通に読むと「やもり」と読めることから、ラベルにはヤモリのイラストも描かれています。

手作業の小仕込み、無濾過・無加水の全無調整、瓶貯蔵による骨格の太いジューシーな味わい。"東京の酒"というスタイリッシュな印象を打ち破る酒ですね。

基本的に使用する酒米は「八反錦」です。しかし今回紹介するのは、同ブランドの誕生10年目を祝して造られた、無調整生酒の「雄町 純米吟醸」。香りは華やかで、イチゴのようなベリーを思わせますね。その後、フレッシュさからくる若干の渋みとともに、太い骨格を持った雄町らしい旨みが口中に広がります。

余韻も「屋守」らしい長さで、甘味を残しながらゆっくりと消えていきました。八反錦を使ったレギュラー商品よりも、バランスの良い香味と旨みがありますね。とは言いながらも、雄町の旨みが凝縮された、しっかりした味わいを感じられました。

開栓後2,3日置くと、そのジューシーさがより本領を発揮します。香りも落ち着き、味の濃い中華料理や、タレの焼き鳥、ローストポーク、焼肉などにも合うでしょう。変化球としてスープカレーに合わせるのもおもしろいですね。

 

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