廃業寸前から世界の「DASSAI」に
今や、世界的もその名が広まった「獺祭」。デパートや酒販店に並んでもすぐに売れてしまう「幻の酒」と言っても過言ではない存在になってきました。1984年に先代の急逝を受けて、桜井博志氏が後を継ぎ、廃業寸前だった蔵の快進撃が始まります。これまでの主要銘柄だった普通酒「旭富士」を捨て、"酔うため・売るための酒"ではなく、品質を重視した"味わう酒"を目指して、吟醸酒に注目。すべての造りを純米大吟醸に転換します。それも全量を酒米の王様「山田錦」で醸すという徹底ぶり。試行錯誤を重ね、90年に「獺祭」の50%と45%を販売。92年にフラッグシップとなる「獺祭 磨き二割三分」を売り出しました。
遠心分離機など最新の技術・施設を導入
バブル崩壊後でしたが、地元消費から大消費地の東京方面に営業の場を移し、徐々に獺祭の名を広めていきました。98年には当時の杜氏が酒造りを辞めたことをきっかけに、杜氏制度を廃止。酒造りのノウハウをすべてデータ化し、社員による酒造りを開始しました。また気候に左右されず、1年中酒造りを行うことができる四季醸造の施設を整え、生産能力を高めました。
その中で新しい技術も積極的に導入。よく知られているのは、遠心分離機による搾りでしょう。1分間に約3000回転という高速回転による遠心力によって醪を液体と個体に分ける方法です。ヤブタなどによる圧力を使った搾りではなく、遠心力によって搾るため、雫搾りのようなきれいな酒質になり、また酒袋の匂いがつかないメリットがあります。現在、約10蔵が遠心分離機による搾りを採用しているようです。
欧州を中心とする海外の日本酒ブームに先鞭をつけたのも獺祭と言えるでしょう。2002年の台湾進出を皮切りに、アメリカ・アラブ首長国連邦・香港・イギリス・フランスなど20か国に輸出。海外の富裕層に広がる日本食ブームとともに、香り高い大吟醸酒が注目を浴びるようになりました。2015年には地上12階、地下1階の自社ビルを完成。その威容はまさに化学工場か新薬開発の研究所のよう。世界中から引く手あまたの「獺祭」を届けるべく常にチャレンジを続けています。
凝縮した旨みと華やかな香りの銘酒
「三割九分」は獺祭の中ではスタンダードと言えるでしょう。上立ち香は華やかなメロンやイチゴのよう。口に含むと、透明感のあるフルーティーさとお米の甘味を感じ、シルクのような繊細で雑味のない味わい。後口も切れるというより、華やかな含み香を感じ、余韻も長い。上品かつ凝縮された旨味や香味は、まさに純米大吟醸酒です。飲み続けるタイプというより、ワイングラスやシャンパングラスで食前酒や食後酒に飲むのに適しており、女性や初めて日本酒を飲むという方にもおすすめです。しかし、このレベルのお酒を1升瓶で年間約150万本も生産できる、というのですから驚きます。