香川県で数少ない、生き残った老舗蔵
明治24(1891)年に初代・川人清造氏が香川に創業した川鶴酒造。創業当時の製造量は300石あまりでした。銘柄名「川鶴」の由来は、初代が蔵の裏手に流れる財田川に鶴が飛来した夢を見たことからだそう。財田川は別名・宝田川、田に宝をもたらす川と言われ、創業以来、仕込み水として蔵の繁栄を支えています。
また、1914年頃は、酒造工場を20棟も持つかなり大規模な蔵でした。設備補強を積極的に行なってきた同蔵は戦後、最大で1万石近い出荷量を記録したこともあるとか。
かつては地元を中心に普通酒を大量生産してきた川鶴酒造。昭和末期に瀬戸大橋がかかり、本州から香川県への流通が大きく改善された結果、灘や京都など、関西を中心とした大手メーカーの進出を招き、香川県の多くの地酒蔵は危機に見舞われます。その時期を境に、県内蔵の多くは廃業に追い込まれ、わずか7蔵となってしまいました。
6代目・裕一郎氏から品質重視の少量生産へ
蔵元6代目の裕一郎氏が蔵の危機に帰郷し、2004年に後を継ぎます。同氏は東京農業大学醸造学科を卒業後、アサヒビール勤務を経て国税庁醸造研究所で学びました。
蔵元となった裕一郎氏は、普通酒の大量生産ではなく、700~1000kgの小仕込みで、品質重視の酒造りを打ち出します。米にもこだわり、蔵に戻った3年目から、蔵の隣にある田んぼを「自家実験田」とし、みずから山田錦の栽培をスタートさせました。使用する酒米は香川県産や自家栽培の「オオセト」「山田錦」「さぬきよいまい」、県外産では備前の「雄町」、兵庫県特A地区の「山田錦」を使用しています。
平成22年、新しい「川鶴」が誕生
2007年、大学時代の後輩というツテで、藤岡美樹さんが蔵に入社。そして2010年、「川鶴」を世に問うためのブランドとして、地元とは違うレトロラベルの「川鶴」が誕生します。現在も着実に愛飲者が増え、全国区の銘酒となるべく地固めをしてきました。藤岡さんは、2016年度の造りから、女性ながら製造部のリーダー(醸造責任者)となっています。
今回の「Wisdom~継承~」は備前雄町を58%まで磨いた限定生原酒。これまで精米歩合は60%でしたが、この2%の精米にこだわりを感じますね。
香りは爽やかなマスカット系。含んだときに香りが口中で広がり、心地良いです。雄町としてはやや細身ながらしっかりした旨みとコクを感じ、そこに綺麗な酸と若干の渋みが感じられました。ふくらみとシャープさもちょうど良いバランス。女性が醸す優しさも感じながら余韻もしっかり切れていきます。雄町らしい主張は控えめながら、呑み飽きしない深みを感じました。
イワシやカレイの煮付け、ポテトサラダ、肉じゃが、酢豚、すき焼きなど、濃い目の料理なら幅広く合わせられるはずです。それこそ、讃岐うどんにも合うと思いますよ。