西武池袋本店にて、5月23日から30日までの1週間、「にっぽん いい酒 いい肴」と題されたイベントが開催されました。

全国から選りすぐられた日本酒と肴が一堂に会する、魅力的なイベント。なかでも注目すべきは、会場に併設された「日本酒&ワインBar」にて行われるトークショーです。日替わりで登壇する蔵人の話を聴きながら、その蔵のお酒を楽しむことができました。

会場の雰囲気とともに、イベント3日目に行われたトークショーの様子をご紹介します!

限定酒がずらり!ビギナーも楽しめる無濾過生原酒

毎年規模を大きくしているという「にっぽん いい酒 いい肴」。今年は、15の日本酒蔵と5つのワイナリーが参加していました。

この日、ブースを構えていた酒蔵は全部で9蔵。その一部をご紹介します。

川鶴(川鶴酒造/香川)

今期から製造責任者が代わった川鶴酒造。香川県初の女性杜氏・藤岡美樹さんが、蔵の酒造りを牽引しています。女性ならではの感性と、川鶴の伝統が融合した新しいお酒は、すっきりと透明感を感じる美酒に仕上がっていました。

菊盛(木内酒造/茨城)

木内酒造は、世界で一番売れている日本のクラフトビール「常陸野ネストビール」の製造元でもあります。会場に持ってきていた「CRAFT SAKE LAB.」はその技術を使って開発されたのだとか。

スイッチを切り替えることで、ひとつのサーバーからさまざまな酒を直接瓶詰めし、購入することができるそう。画期的ですね。

また各酒蔵のブースでは、至るところに"西武池袋本店限定"の文字が。

すべての参加酒蔵が、西武池袋本店限定の日本酒を製造しているそうです。ここでしか飲めないお酒がたくさん並んでいました。

限定酒は日本酒ビギナーにも飲みやすいと言われる、フレッシュで濃厚な味わいが特徴の無濾過生原酒が主。暑くなってきた今の季節、キンキンに冷やしていただきたいですね。

もちろんレギュラー酒も揃っており、ひとつひとつ試飲しながらまわるのも楽しい時間でした。

〆サバに合うお酒を!「阿櫻酒造」田中文悟氏

イベントの目玉は、併設された「日本酒&ワインBar」にて行われるトークショー。本日の登壇者はこちら。

◎登壇者情報

  • 阿櫻酒造株式会社(秋田) 代表取締役・田中文悟氏
  • 冨士酒造株式会社(山形) 杜氏・加藤宏大氏
  • フリーアナウンサー・阿部ちあき氏
  • clear Inc. 代表取締役・生駒龍史

まず最初に登壇したのは、阿櫻酒造株式会社の代表取締役・田中文悟氏と、SAKETIMESを運営する株式会社clearの代表・生駒龍史です。

「阿櫻」の酒質から戦略、さらには開発秘話まで、楽しくうかがうことができました。

生駒龍史(以下、生駒):「阿櫻」は秋田県だけでなく、関東でもよく見かけますよね。県外、さらには海外にも積極的に出していこう、という戦略なんですか?

田中文悟(以下、田中):県外へ積極的に出していますよ。割合は、秋田県内3割・県外7割。ただ「阿櫻」としては、まだ海外進出の時期ではないと考えています。まずは、日本でしっかりと浸透させたい。そのために、地道に広げていくことが一番ですね。

生駒:秋田県内と県外で、出しているお酒や求められるお酒は違いますか?

田中:秋田のお酒は、トロッとした甘さが特徴的なんです。それは豪雪地帯ゆえに発展した、塩辛い保存食に合うように造られているから。秋田に根付いているのは"食中酒"なんですよ。県内で支持されているお酒は、火入れした普通酒やパック酒のような、普段使いできる日本酒がほとんどですね。一方で、関東で求められているお酒は"無濾過生原酒"のような、女性でも飲みやすいフレッシュなお酒です。

生駒:それを受けて、社長として杜氏に「こういうお酒を造ってほしい」と言うことはあるんですか?

田中:うちの杜氏は50年のベテランで、いっしょにやり始めてから7年という信頼関係もあるので、酒造りに関しては何も言わないようにしています。でもひとつだけ伝えているのは、〆サバに合うお酒を造ってくれと(笑) 私が以前勤めていたアサヒビールで、上司が「〆サバに合うビールを造る」と言っていました。実は、そうして生まれたのがスーパードライ。経験から言っても、〆サバに合うお酒は何にでも合う。ですので、それだけは杜氏に伝えています。

地域ごとのニーズに対応する柔軟さもありつつ、市場を見極め、独自の戦略・味を求めていく「阿櫻」。海外展開を狙う風潮がある中で、"まず日本から"と言い切る強さに「阿櫻」の魅力を感じました。

32歳の若手杜氏「冨士酒造」加藤宏大氏

田中文悟氏と入れ替わり、続いて登壇したのは、冨士酒造株式会社(山形)の杜氏・加藤宏大氏です。28BYの造りから杜氏として酒造りに関わる加藤氏は、若干32歳。注目が集まります。

若くして杜氏に就任した経緯や、酒造りに対する信念など、ラベルからは知ることのできない貴重なお話をうかがうことができました。

生駒:冨士酒造は1778年創業で、240年の伝統がある酒蔵ですよね。そんな環境で、どういった経緯で加藤さんは杜氏に就任されたんですか?

加藤宏大(以下、加藤):昨年まで活躍していた杜氏は、冬の間だけ蔵に来て、夏は農家をしていました。うちが四季醸造をするようになったとき、もちろん農家の仕事がありますから、杜氏は参加できないと。そこで、夏の間だけ杜氏の役割を任されるようになりました。それも腕があるからではなく、夏の造りに参加できる3人の中で、いちばん長く働いていたという理由ですけどね(笑) 昨年、その杜氏が75歳で引退されたのを機に、私が就任する形となりました。

生駒:大学卒業後、すぐ蔵人になられたんですか?

加藤:就職活動はせず、雪山でスキーのインストラクターをしていました。雪のない夏の間は、実家できのこ栽培の手伝いをして暮らしていましたね。でも、スキーで食べていくのはなかなか厳しく...安定した職を探すようになりました。酒蔵だったら、100年以上続いているところもあり、安定していそうだなという気持ちで。当時、地元の鶴岡市には酒蔵が9蔵もあったので、蔵人という職業が身近にあったことも大きいですね。気づいたら酒造りをしていました。

阿部ちあき(以下、阿部):「栄光冨士」といえば、四季醸造。そして毎月発売される新商品ですよね。

加藤:もともと、季節商品への需要が高い中で、じゅうぶんに供給ができていないということから四季醸造に至った背景があります。テーマに関しては、社長や営業が「このお米で!」と迫ってくるので...挑戦し続けた1年でしたね。

阿部:その際はお客様の好みなども考えているのでしょうか?

加藤:お客様のことを考えて造るというよりも、1本1本の醪とどう向き合うか、どう搾るかを考えています。どちらかというと内向的な酒造りかもしれません。その結果をどう評価していただくか、ですね。

蔵人になる前はスキープレイヤーだったという加藤氏。自分自身にとことん向き合うストイックな酒造りは、アスリートの経験からきているのかもしれません。その姿勢から造り出される日本酒は、極めて綺麗でフレッシュな味わい。これから歳を重ねるごとにどう変化していくのか、楽しみな杜氏です。

蔵人を知ると、日本酒はもっと美味しい

蔵人のお話を聞いて感じたのは「蔵人を知ると、日本酒はもっと美味しくなる」ということ。日本酒だけでなく、蔵人にもドラマがあるんですね。

今回のようなトークショーでは、気軽な気持ちで蔵人の思いやこだわるを知ることができました。ラベルを見ただけではわからない日本酒の魅力を、ぜひ感じてみてください。

◎参加酒蔵一覧
<通期>

  • 「菊盛」木内酒造合資会社(茨城)
  • 「栄光冨士」冨士酒造株式会社(山形)

<前期>

  • 「残草蓬莱」大矢孝酒造株式会社(神奈川)
  • 「五橋」酒井酒造株式会社(山口)
  • 「阿櫻」阿櫻酒造株式会社(秋田)
  • 「花巴」美吉野醸造株式会社(奈良)
  • 「月山」吉田酒造株式会社(島根)
  • 「天吹」天吹酒造合資会社(佐賀)
  • 「川鶴」川鶴酒造株式会社(香川)

<後期>

  • 「楯野川」楯の川酒造株式会社(山形)
  • 「幻舞」株式会社酒千蔵野(長野)
  • 「三芳菊」三芳菊酒造株式会社(徳島)
  • 「鏡山」小江戸鏡山酒造株式会社(埼玉)
  • 「三千櫻」三千櫻酒造株式会社(岐阜)
  • 「七賢」山梨銘醸株式会社(山梨)

 

(取材・文/SAKETIMES編集部)

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