米を削りに削った吟醸酒の研ぎ澄まされた味わいはたしかに魅力的ですが、あえて米をほとんど削らずに造った日本酒も個性があって美味しいものです。今回は精米歩合80%の日本酒を2本、テイスティングしてみました。
精米歩合80%の日本酒について
日本酒を造る際、まず玄米を削る「精米」という工程があります。このとき、残った白米の部分の割合を「精米歩合」と呼びます。
例えば、普段口にする米は精米歩合が90%(=10%削っている)といわれています。
それに対し、酒米の精米歩合は吟醸酒で60%以下、大吟醸で50%以下となります。
米の中心にはでんぷん質が、まわりには脂質やタンパク質が多く含まれているため、削れば削るほどでんぷんの割合が大きくなっていきます。脂質やタンパク質の部分は旨味や苦味として酒の味わいになるのですが、そのぶん雑味が多くなります。
今回はあえて精米歩合80%の日本酒に焦点を合わせて、テイスティングをしてみました。
紹介するのは千葉県・寺田本家「純米80 香取」、滋賀県・冨田酒造の「七本鎗 純米 80%精米 火入れ」の2本です。
寺田本家「純米80 香取」
まずは千葉県・寺田本家「純米80 香取」です。
寺田本家は利根川沿いにあり「自然の原点に戻って酒造りをする」をモットーにしたユニークな酒蔵です。
原料に無農薬米を用い、アルコール添加はせず、昔ながらの生酛造りにこだわっています。
酒米としてはあまり使われないコシヒカリを使っており、酵母に稲から採った稲こうじを使用しているなど、他の蔵にはないユニークな製法が印象的な一本です。
味わいは、吟醸酒の香り高さとは反対に、おかゆのような、やや雑味を含んだ質感が特徴的です。香りは曇っていて、穀物の香ばしさとねっとりとした米の質感を感じます。酸味もありますが、全体的には華やかというよりは、米を練り上げたような独特の飲み応えです。素材そのままという印象が強くあります。
冨田酒造「七本鎗 純米 80%精米 火入れ」
次は、滋賀県にある創業450年を越える老舗・冨田酒造より「七本鎗 純米 80%精米 火入れ」です。
七本鎗という名前は「賤ヶ岳(しずがたけ)の七本槍」という豊臣秀吉が天下人になるのを支えた武将達の呼び名から取っているそうです。
味わいは、柑橘とジャスミンなどを合わせた植物の蜜のような香りがあり、燗につけることで濃厚に際立ちます。独特のもったり感もありますが、少し温度を上げると、酸がそれを引き締めてバランスの良さが感じられるようになりました。
時期外れではありますが、ポン酢で食べるちり鍋などと相性が良さそうです。
こっくりとコクのある料理と合わせていただきたい日本酒です。
2種類の飲み比べではありましたが、独特の穀物感あふれる味わいは、磨き抜かれた吟醸酒とはまた違った良さのあるものでした。温度帯を変えるなど一工夫することで、無骨さや素朴さが強すぎる味わいが、良い意味での雑味を含んだ太いものに変化していったのがおもしろかったです。
日本酒の「米らしさ」をいつもと違う形で味わうことのできた、楽しいテイスティングでした。みなさまも機会があればぜひ飲んでみてください!
(文/永木三月)
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