こんにちは、SAKETIMESライターの鈴木 将之です。普段は某コンサルティング会社で堅い仕事をしていますが、暇さえあれば日本酒会に参加したり酒蔵を訪問しています。

日本酒会、酒蔵訪問のレポートや、コンサルタントの視点で日本酒業界を分析できたらと思っています。

京都市伏見。

豊かな自然風土に恵まれ、京文化に磨きあげられた伏見の清酒。その歴史は古く、日本に稲作が伝わった弥生時代に始まったとされています。

以来、脈々と受け継がれてきた酒づくりの伝統が花開いたのは、安土桃山時代のこと。太閤秀吉の伏見城築城とともに伏見は大きく栄え、需要が高まる中で一躍脚光を浴びるようになりました。

さらに江戸時代には、水陸交通の要衡としてますます発展。酒造家も急増し、銘醸地の基盤が形成されていきます。そして明治の後半には、天下の酒どころとして全国にその名とどろかせるようになりました。

本日は、京都市伏見区にある酒蔵、「月桂冠」の蔵見学レポートです。

月桂冠の紹介

1637年(寛永14年)、初代・大倉治右衛門が京都府南部の笠置町(現在の相楽郡笠置町)から城下町・宿場町としてにぎわっていた京都伏見に移転し創業。屋号を「笠置屋」酒銘を「玉の泉」と称しました。明治時代には、酒造りに科学技術を導入、樽詰全盛の時代に防腐剤なしのびん詰を発売しました。

1910年(明治43年)には、「コップ付き小びん」が当時の鉄道省で「駅売りの酒」として採用され、月桂冠が広く知られるきっかけになりました。

その後も「品質第一」をモットーに、日本ではじめて年間を通じた酒造りを行なう四季醸造システムや、新規技術を活用しながら品質の高い酒を醸造しています。

近年では、アメリカで酒造蔵を稼動させ世界に日本酒を広めるなど、つねに革新性・創造性をもってチャレンジを続けながら、お客様に世界最高品質の商品をお届けしています。(月桂冠HPより)

大倉記念館

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京都駅から京阪電車や近鉄で10分ほど、伏見の街に到着します。駅を降りると大手筋商店街。賑わっている商店街を途中で曲がり、5分ほど歩くと大倉記念館に到着!

ここで今回案内をしてくださいました、高垣幸男さんと合流しました。高垣さんは、月桂冠株式会社醸造部に勤務。

月桂冠大手一号蔵で、普通酒を主とした年間10万石のレギュラー製品の醸造、および、年間2,500石の吟醸酒製造を担当されています。造られている代表銘柄は「伝匠月桂冠」。米の旨味を感じつつも、酸が切れて綺麗な後味を感じるお酒です。

まず、大倉記念館に併設されている酒香房を見学!

大倉記念館は昔の酒蔵を改造し伝統的な酒造工程やその用具などを展示する博物館です。酒香房では、実際に酒を造っている様子も見学することができました。(要予約)

ガラス窓の向こう側で洗米、蒸しなどの作業を見ることができます。

当日は大吟醸酒が醸されていました。

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大倉記念館に戻り、記念館を見学します。

ここでは酒造りに関する資料、および月桂冠の歴史が展示されており、展示物には京都市の有形民俗文化財に指定されているものもあります。酒造りに関する資料では、明治から昭和期に酒造りの現場で実際に使われた伝統的な酒造用具類を説明と共に展示しています。

資料では、創業期の商標デザインや、明治、大正時代の瓶、ポスターなどを観ることができます。

当時の趣が感じられておもしろいですね。

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見学が終わると利き酒ゾーンが!

「月桂冠レトロボトル 吟醸酒」、「玉の泉 大吟醸」、「プラムワイン」の3種類を飲ませていただきました。レトロボトル吟醸酒はここでしか買えない限定酒です。

ボトルのデザインに工夫があり、電車の揺れでもこぼれない仕組み。このボトルのおかげで、明治・大正期の電車の旅で月桂冠が飲まれるようになり、酒蔵の業績が大きく伸びたとか。

吟醸ですがコクがあり、ガッツリとした味わい。飲み終わったあとも香りがふうっと残ってきます。最後におみやげに純米酒をいただいて、大倉記念館を後にしました。

このお土産が純米酒ということに正直感動。普通酒や本醸造ではないところにこだわりを感じますね。

大手蔵工場へ

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高垣さんにご案内いただき、大手蔵工場まで移動しました。

大手蔵工場は、1961年(昭和36年)に竣工した、日本で最初の四季醸造蔵(大手一号蔵)を持つとともに、昭和48年には同じく四季醸造蔵の大手二号蔵を増設しました。

製品関係ではガラスカップびん、2リットルパック等の充填ラインを設備しています。

生産量10万石の工場で日本酒を造っている大手一号蔵の人数は、なんと11人のみ。普通酒ライン7名、吟醸・大吟醸酒ライン4名で製造されています。

1石が一升瓶100本換算ですから、10万石ですと1,000万本。機械化されているとはいえ、徹底した効率化やノウハウの蓄積がなければできないことですね。

いよいよ月桂冠の工場内へ

工場の敷地に入ると、そこはまさにものづくりの工場。巨大なタンクや7階建ての大きな建物が出迎えてくれました。近代的な建物ですが、そこはやはり日本酒の蔵。工場に入ると蒸した米と麹の香りが漂ってきます。

(なお、工場内は写真禁止のため、写真は外見写真のみとなります。)

入り口付近には、酒粕が大量に積んでありました。関西に在住の方はスーパーなどで月桂冠の酒粕を売っているのを見たことがあるかと思います。月桂冠で造られた酒粕は、業者を通して各地へ販売されているそうです。

まず、エレベーターで2階に到着すると、吟醸・大吟醸酒ラインの回転式浸漬槽が登場。

米作りの最初の工程として洗米後、米を水に浸けて水を吸わせます。米を水に浸けてストップウォッチで測って水から揚げるシーンを見たことがある方もいらっしゃるかと思いますが、この工場では機械化されており、5段階で水から引き上がっていきます。

米の浸漬時間は分・秒単位で管理するのですが、それがコンピュータで制御されて自動で水揚げされていきました。この時間は、40年以上積み重ねてきたノウハウとコンピュータに蓄積したデータを参考にし、米の品種、産地、収穫年度によって吸水率を人手で判断し、最後は目で見て確かめるそうです。

次に麹室へ。

まず、製麹機の規模が大きい!他の酒蔵さんでも麹室は見させていただいていますが、さすがの大きさに驚き。これだけの規模がないと10万石の製造量を支えることはできないのだなぁと感じました。

また、蒸し&放冷機もありましたが、やはりこちらも非常に大きい。移動して仕込み室に。総米2t用の6KLタンクが並んでいました。

ここでは2,500石の吟醸酒を4人の社員で造っているそうです。

年間の仕込み回数は120回ほど。

月桂冠は冬の寒い時期だけでなく、1年を通じて日本酒を醸造することが可能である「四季醸造」であるため、休みなく常に作り続けることができるのですね。見学の最後に冷蔵庫から全国新酒鑑評会出品用のお酒を試飲させていただきました。

香りは実に華やか。雑味はなく、綺麗でありながらも、酸の旨味でピシっと締まります。アテ不要、酒だけで完成された、まさに「うまい」酒。

出品酒用に28本斗瓶取りを行い、その中から1本もっとも出来がよかった1本を出品するそうです。

ぜひ金賞を取っていただきたいですね!

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鈴木の取材後記

日本酒国内出荷量第3位、月桂冠。正直なところ、大手だけに敬遠し、ほぼ飲んでいませんでした。なぜかというと、大学の頃に居酒屋チェーンで初めて飲んだ日本酒の印象が実に悪かったからなのです。

ベトベトして妙に甘くて、翌日に残って気持ち悪くなる。あまり調べもせずに、大手酒蔵メーカーが造る酒はそんな感じなのだろうという印象のまま、十数年が過ぎていました。

このような経験、印象を持たれている方もいらっしゃると思います。

ところが2014年10月、「六花界」グループの日本酒会で「伝匠月桂冠」に出会ったのでした。

米の旨味を感じつつも、酸が切れて綺麗な後味。実にうまい。

大手でも素晴らしい酒はある、と先入観が変わった瞬間でした。

それから4ヶ月。京都に行く機会があり、蔵見学をさせていただきました。製造技術の革新、機械化を行いながらも、微生物が相手である以上、最後は人の仕事。

大手といっても、おいしい酒を作りたい思いは変わらない。全国新酒鑑評会出品用のお酒は、どこにも負けないおいしさでした。

人生初めて日本酒に出会った際の経験は、今後の日本酒ライフに大きな影響を与えます。その初めて出会う酒になる可能性が高い蔵が、誰が飲んでもおいしいお酒を造る。

吟醸酒の技術が革新すれば、普通酒もそれに伴いおいしくなる。下がり続ける日本酒消費量回復のキッカケは、ここなのかもしれません。
月桂冠

〒612-8660
京都府京都市伏見区南浜町247番地

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