「酒都西条」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

広島県東広島市西条町には、駅前に「酒蔵通り」と呼ばれる小道があり、その周辺に8つの酒蔵が密集しています。

酒都・西条に下がるタペストリー

兵庫県の灘、京都府の伏見と並んで日本三大銘醸地と称される西条。酒類総合研究所が置かれ、毎年25万人以上を動員する「酒まつり」が行われるなど、名実ともに日本酒の町として栄えています。

酒蔵通りに掲げられた日本酒に対する文献

酒蔵通りには日本酒にまつわる情報や、その歴史に触れられる資料が掲示され、ちょっと散策するだけで日本酒について学ぶことができます。

様々な書道家による「酒」の文字

また、白壁やなまこ壁、赤レンガの煙突など、昔ながらの美しい景観が残されていて、ノスタルジックな気分を味わうことができます。辺り一帯には日本酒の良い香りが広がり、多くの日本酒ファンを魅了しています。

春の西条 醸華町まつり2018

今回は「春の西条 醸華町まつり2018」を訪ねました。東広島市観光協会が主催するこのイベントは、秋の酒まつりだけでなく、春の西条でも日本酒を楽しむための企画です。エリア内で行なわれる酒蔵見学や試飲会はもちろん、餅つきや特産品の販売など盛りだくさんの内容で、多くの人でにぎわっていました。

賀茂鶴 酒蔵マルシェ&ライブの広告

そのなかでも注目すべきイベントは、賀茂鶴酒造で行われる「賀茂鶴 酒蔵マルシェ&ライブ」。広島のミュージシャンによるライブや、クラフト作家、農協、地元の企業、地域の店舗による出店などを通して、多種多様な地域のつながりを感じることができます。

見どころ満載の「酒蔵マルシェ&ライブ」

賀茂鶴 酒蔵マルシェ&ライブの会場の様子

会場にはライブの熱気が立ち込め、大いに盛り上がっていました。秋の酒まつりほど混み合っている様子はなく、適度なスペースが確保されていて、各々が自由に楽しんでいるのが印象的です。

「賀茂鶴 酒蔵マルシェ&ライブ」ワークショップの様子

蔵の中では、バルーンアートやけん玉、お花、陶器、革細工、子ども向けのお面作りのワークショップなど、さまざまな出店が和気あいあいとした時間を演出していました。日本酒が飲めないドライバーや子どもも充分に楽しむことができます。

「賀茂鶴 酒蔵マルシェ&ライブ」の広島風お好み焼き

広島名物のお好み焼きや、県産米を使用したおにぎり、自家焙煎の美味しいコーヒー、農産物の直売など、フードやドリンクも充実していました。

賀茂鶴の試飲スペースと資料展示

また、賀茂鶴の歴史を知ることができる見学やお酒の販売も行なわれています。

賀茂鶴の木桶

蔵の中に入ると、木桶の甑が出迎えてくれました。

酒造りの様子が流れているモニター

大きなスクリーンに日本酒の造り方に関する動画が流れ、日本酒に馴染みのない参加者の方々が興味深そうに耳を傾けていました。

賀茂鶴の見学スペース

かつて使用していた古い道具がきれいな状態で展示され、酒造りの歴史を現代に語り継いでいます。この見学室はふだんから開放されているそうで、9:00〜16:30(入館は16:00まで)で見学することができます。

賀茂鶴BAR

そして、本イベントの目玉は特設の「賀茂鶴BAR」です。有料で、賀茂鶴のお酒を楽しむことができます。最高級の「賀茂鶴 純米大吟醸 山田錦」も破格の200円で試飲可能。人気を博していました。

「賀茂鶴 酒蔵マルシェ&ライブ」でお酒を楽しむお客さん

昨年リリースされ話題を呼んだ「広島錦 純米酒」も提供され、燗でも楽しむことができました。温度を上げると柔らかさが際立ち、すいすいと杯を重ねることができるので、お祭り向きのお酒といえるかもしれません。

広島錦を生んだ、注目の若手杜氏を直撃

「広島錦」の生みの親である賀茂鶴酒造の杜氏・椋田茂さんに話を伺いました。

賀茂鶴の椋田杜氏

─ 広島錦はどんな酒米ですか?

椋田杜氏:かなりサッパリしていて、雄町とはまったく逆の米ですね。磨きに関しても、どれぐらい磨いて、どういう造りをするのがベストなのか、試行錯誤しました。商品化するまでに、6年かかりました。

賀茂鶴にある協会五号酵母発祥の記念碑

─ 酵母についてはどうでしたか?

椋田杜氏:自分の蔵が発祥とはいえ、5号酵母はもう頒布されていないので入手するのが難しく、いざ造ってみると発酵力が弱かったんです。どんな温度でどんな香りを出すのか。いろいろなことが手探りでしたね。

新ブランド広島錦の酒瓶

─ かなり苦労されたようですが、ストーリーのあるお酒を飲んでいただけるのはうれしいですよね!

椋田杜氏:そうですね!広島錦のロゴは、"心"という漢字がモチーフになっているんです。このお酒によって、生産者さんや地元の方々の心がつながっていることを、このイベントで実感できました。

とにかくまずは、自分たちがしっかりと楽しみたい

賀茂鶴の太田さん

マルシェの企画・運営・進行を担当している、広報課の太田裕人さんにも話を伺いました。

─ 多くの人でにぎわっていますね!

太田さん:おかげさまで、ここまで多くの人に来てもらえるようになりました。「醸華町まつり」自体は東広島市の観光協会が主導でやっていて、今回で11回目。最初のころは人が全然来なくて「もう出店するのを辞めるか?」なんて話が上がっていたんです。

でも、どうせやるならしっかりとした形でお客さんを呼びたいと思っていました。そんななか、社長のGOサインで「マルシェ&ライブ」という企画で、お客さんに喜んでもらえるものを目指したんです。「マルシェ&ライブ」は今年で4回目。ありがたいことに、動員数は毎年増えています。

出演者の方と固い握手を交わす太田さん

─ 秋の酒まつりよりもアットホームな印象ですが、どんなことを意識していますか?

太田さん:実は、ライブに出てもらっている出演者の方々は、僕や部下の知り合いのミュージシャンなんです。もともと、僕が音楽をやっていた(太田さんも弾き語りで出演)こともあって、仲間を呼んで場を盛り上げてもらっています。そのおかげで、アットホームな雰囲気が出ているのかもしれませんね。

賀茂鶴の蔵開きの様子

太田さん:4月21日(土)には、法人設立100周年を記念して、賀茂鶴酒造としては初めての「蔵開き」を行うので、こちらも多くの方に来場してもらいたいですね。とにかくまずは、自分たちがしっかりと楽しみたい。でないと、お客さんには楽しさが伝わらないですから。

お酒に込められた"心"

賀茂鶴の看板

賀茂鶴酒造は「ワイングラスでおいしい日本酒アワード2018」のプレミアム純米部門にて金賞を受賞するなど、高い技術のもと「酒中在心」をテーマに掲げて、美味しい日本酒を醸しています。

かつて、全国清酒品評会で1等から3等までを独占し、その功績をもとに5号酵母が採取されました。しかし、椋田杜氏も話していたように、現代において5号酵母で酒造りをすることは困難を極めます。

それでもあきらめないチャレンジスピリットが、賀茂鶴にはありました。歴史にあぐらをかくことなく、かつ、先人へのリスペクトを忘れない。伝統と革新に満ちあふれた蔵だといえるでしょう。

賀茂鶴酒造の看板

法人設立100周年という節目の年。そしてこれからまた新たな100年が始まろうとしているなかで、若手が新商品やイベントを通して蔵をリードし、それをベテランの技術や経験が支えるという素晴らしい構図が見られました。

酒米の生産者や地域とのつながりを大事に、音楽やアートワークなど異分野との交流も盛んに行なっていて、みずからの仕事に誇りをもっている様子がうかがえます。"心"を繋いでいく賀茂鶴の酒造り。今後も期待せずにはいられません。

(取材・文/まるじ)

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