醸造アルコールが添加された日本酒、いわゆる「アル添酒」についてどのようなイメージがありますか。

何のために、醸造アルコールが添加されるのでしょうか。そもそも、醸造アルコールとはどんな物質なのでしょうか。

醸造アルコールを添加する目的

1. 香味調整

現代の酒造りにおいて、醸造アルコールの添加は主に香味調整のために行われます。醸造アルコールには、アルコール由来の香味以外の要素はほぼないため、味わいをより軽快にします。また、アルコールの刺激が加わるため、キリッとした味わいがより感じられるようになります

また、吟醸酒特有の吟醸香を高める効果もあるため、全国新酒鑑評会などに出品される日本酒においては、醸造アルコールの添加が行われているものが多く見られます。

2. コスト軽減

かつて、低価格な清酒を製造するために、醸造アルコールの添加を行うことで酒の量を増加させ、製造コストの軽減を図る場合もありました。戦後、米が不足していた時代に生み出された「三倍増醸酒(三増酒)」と呼ばれる醸造方法です。醪に醸造アルコールを加え、糖類や酸味料で香味を調整したもので、この工程を行うことで酒の量を約3倍に増やすことができたため、その名前が付けられました(現在は酒税法が変更されたため、三倍増醸酒は存在しません)。

以前の記事で、三倍増醸酒の歴史について詳しく解説していますので、ご覧ください。

3. 防腐効果

アルコール添加が始まったのは江戸時代とされていますが、当時は醪を腐らせないために行われていました。アルコール度数を高めることで、火落ち菌などの醪を腐らせる要因となる菌が繁殖するのを防ぐことができました。江戸時代に発見されたこの技術は「柱焼酎」と呼ばれています。

そもそも醸造アルコールとは

そもそも醸造アルコールとは、化学的にはエタノール(エチルアルコール)と呼ばれる物質です。

一般的には、ブラジルや台湾などで糖蜜やとうもろこしを発酵させた粗留アルコールと呼ばれる物質を日本に輸入し、それを連続式蒸留機で何度も蒸留して純度を高めて精製されたものが醸造アルコールとして使われています。

前述したように、アルコール添加の始まりは江戸時代の「柱焼酎」とされています。

1955(昭和30)年頃から、輸入した廃糖蜜(砂糖を精製する際に生じる残液)を利用することが主流になりつつありましたが、同時に蒸留の際に生じる廃液の問題にも注目が集まるようになりました。

1971(昭和46)年には、海外から粗留アルコールを輸入し、日本の連続式蒸留機で再留するという形になりました。連続式蒸留機で何度も蒸留を行うため、限りなく純粋で無味無臭の醸造アルコールが精製されるようになりました。

当時はとうもろこしや甘藷、糖蜜などが原料として使われていましたが、現在では米を原料とした醸造アルコールを使う蔵も少なくありません。

アルコール添加の問題点

日本の酒税法上では、アルコール添加の有無は「清酒」表示ができるかどうかではありません。しかし、海外ではアルコール添加をしているものとそうでないものは別ジャンルとして扱われています。

例えば、ワインにおいてもシェリー酒やポートワインなどのアルコール添加がされたワインが存在しますが、これらは「酒精強化ワイン(フォーティファイドワイン)と呼ばれ、通常のワイン(スティルワイン)とは区別されています。

この日本と海外のアルコール添加に関する認識の違いが、今後、日本酒が海外に添加していく際に阻害要因となることが危惧されています。

「醸造アルコール」「アルコール添加」という言葉にあまり良くないイメージを持っている方もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。「どのくらいの量を添加するのか」「どの原料を使った醸造アルコールを添加するのか」など、高い技術を要する非常に奥の深い工程です。

「純米酒しか飲まない!」という人も、ぜひ一度「アル添酒」を手にとってみてはいかがでしょうか。

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