富士通と三芳菊酒造のコラボ日本酒「SAKE WAVE FES 01」
富士通と三芳菊酒造のコラボ日本酒「SAKE WAVE FES 01」

音楽の振動で日本酒の味が変わる—富士通と三芳菊酒造によるユーザー参加型の酒造り「Join&Make」プロジェクト

「音楽を聴かせると、食べ物や飲み物がおいしくなる」という話がありますが、日本酒を造る酒蔵でも、発酵の最中にクラシックなどを聴かせる事例があります。

そんな「音楽」と「発酵」に注目したプロジェクトに、徳島県の酒蔵・三芳菊酒造と、国内最大手のIT企業・富士通が共同で取り組んでいます。

その内容は、富士通が開発したサービス「Join&Make」のユーザーが楽曲に投票し、選ばれた音楽で発酵途中の醪(もろみ)を振動させて日本酒を造るというもの。振動によって発酵が活性化され、日本酒の味わいが変化するのです。

富士通と三芳菊酒造のコラボ日本酒の第1弾「SAKE WAVE FES 01」

富士通と三芳菊酒造のコラボ日本酒の第1弾「SAKE WAVE FES 01」

第1弾の商品となる「SAKE WAVE FES 01」はすでに完売。第2弾の「SAKE WAVE FES 02」は、2025年4月8日(火)から販売される予定です。

IT企業×酒蔵という異業種のコラボがどのように始まったのか、三芳菊酒造の蔵元杜氏・馬宮亮一郎さんと、富士通 デザインセンターのデザイナー・飯嶋亮平さんに、プロジェクトの経緯をうかがいました。

日本酒業界きっての個性派「三芳菊」

四国のほぼ中央に位置する徳島県三好市は、寒冷な気候と吉野川の豊かな水資源から、“四国の灘”と呼ばれるほどに酒造りが盛んな地域です。

三芳菊酒造は1889年の創業以来、この地で日本酒を造り続けてきました。現在の蔵元杜氏である馬宮亮一郎さんが5代目となりますが、もともとは武士の家系で、江戸時代に建てられたという武家屋敷と門が残る酒蔵は、歴史を感じさせる佇まいです。

三芳菊酒造の正門

三芳菊酒造の正門

しかし、三芳菊酒造の日本酒は、業界きっての個性派。代表銘柄の「三芳菊」は、甘酸っぱくフルーティーな風味が特徴で、全国の日本酒ファンを驚かせてきました。

「酒造りの方向性は、私が杜氏になってから大きく変わりました。日本酒の消費量が減少し続けるなか、他の酒蔵と同じようなものを造っていても生き残れないと感じたんです。だったら大胆に振り切ってみようと思ってね」と、当時を振り返る馬宮さん。

独特な香りや味の決め手は、県内で三芳菊酒造のみが使用しているという徳島酵母。この酵母は、発酵のコントロールが難しいそうですが、特に酸味が出やすいという特長をもっています。

三芳菊酒造の蔵元杜氏・馬宮亮一郎さん

三芳菊酒造の蔵元杜氏・馬宮亮一郎さん

近年は、甘酸っぱい風味の日本酒が新たなトレンドとして受け入れられていますが、馬宮さんが酒造りを始めた1990年代にはまだ珍しく、甘味や酸味の際立った酒質は批判されることもあったそう。

それでも「どう思われようとやりたいことをやる」と独自の酒造りを突き詰めた結果、三芳菊酒造への支持が徐々に広まっていきました。

また、従来の日本酒とは異なるポップなイラストが目を引くラベルも、酒造りの方向性とともに大きく変えた点で、馬宮さんの友人の協力を得て、すべて自社でデザインしているそうです。

三芳菊酒造の日本酒

唯一無二の発想で新しいチャレンジを続けている「三芳菊」には、学生時代にバンド活動に熱中し、レコード店で働いていた経歴をもつ馬宮さんのロックな精神が生かされています。

コンセプトは「みんなでつくる日本酒」

そんな個性派の酒造りをしている三芳菊酒造とコラボしたのは、日本を代表するIT企業の富士通です。

協業のきっかけは、約2年前のこと。富士通の徳島支社に勤めるメンバーの「徳島県の日本酒を盛り上げたい」という想いからでした。徳島県は日本酒の製造量が16年連続で最下位(国税庁調べ)と、厳しい状況にあったのです。

熱い想いをもったメンバーの提案を受けて、新たなプロジェクトのリーダーとなったのは、富士通のデザインセンターに所属する飯嶋亮平さんです。

富士通 デザインセンターのデザイナー・飯嶋亮平さん

富士通 デザインセンターのデザイナー・飯嶋亮平さん

富士通のクリエイティブ部門を担うデザインセンターでは、「社会の課題を、等身大に。社会の明日を、あなたとわたしで。」というミッションのもと、地域や企業の課題をデザインで解決する活動を進めてきました。

「まずは徳島県の日本酒を広く知ってもらうことが重要だと考えました。そこで、富士通のIT企業としての強みを活かして、WEBサービスやシステムを使い、飲み手に広くアプローチする仕組みをつくりたいと思ったんです」と、飯嶋さんは当時を振り返ります。

日本酒が完成してからではなく、製造の段階から消費者を巻き込めれば、日本酒ファンだけでなく、日本酒に関心がない人にも興味をもってもらえるかもしれない。こうした発想から「みんなでつくる日本酒」というコンセプトが生まれました。

富士通と三芳菊酒造のコラボ日本酒の第1弾「SAKE WAVE FES 01」

富士通と三芳菊酒造のコラボ日本酒の第1弾「SAKE WAVE FES 01」

そして、徳島県内の酒蔵にヒアリングするなかで出会ったのが、三芳菊酒造の馬宮さんです。

老舗の酒蔵でありながら、常識にとらわれない柔軟な感性をもつ馬宮さんに共感した富士通のプロジェクトチームは、「三芳菊酒造といっしょならば、新しい挑戦ができるのでは」とコラボを決めました。

酒造りの様子を見学するなかで、プロジェクトチームが目を付けたのが、音響機器メーカーのオンキヨーとともに取り組んでいた「加振醸造」という技術を活用した醸造です。

加振醸造のスピーカー

加振醸造のスピーカー

「加振」とは、振動を発生させること。三芳菊酒造では、醸造タンクにスピーカーを直接設置し、音楽を振動に変換して、その振動を醸造タンクに伝えることで、醪の発酵に変化を与えていました。

「醪に加振すると、酒米が溶けやすくなり、発酵のスピードが速まります」と馬宮さん。振動の回数や強弱は楽曲によって異なるため、どんな音楽を流すかによって、最終的な香りや味わいに違いが生まれるといいます。

音楽を通して、酒造りに参加する

そんな加振醸造を軸に開発されたのが、日本酒に聴かせる楽曲のプレイリストをみんなの投票でつくる、ユーザー参加型のサービス「Join&Make」です。

「Join&Make」のキービジュアル

「馬宮さんの話を聞いたときに、デザインセンター長の宇田が加振醸造やNFTを活用できないかとひらめいたんです。そのアイディアをもとに、私がリーダーとなってメンバーと何度も議論し、サービスを具体化していきました。

日本酒業界の課題として感じていたのは、酒造りがクローズドな空間で行われるため、第三者が関わる部分が少ないという点でした。酒蔵の中で、さらにタンクの中でどんなことが起きているのかがわからなければ、酒造りに興味をもってもらえないと思ったんです」(飯嶋さん)

「Join&Make」の仕組み

「Join&Make」では、さまざまなジャンルの楽曲から、ユーザーが好きな一曲に投票し、票数に応じて再生時間の異なるプレイリストを作成。そのプレイリストを使って醪に振動を加えることで、香りや味わいに変化を与えるという仕組みです。

さらに、加振醸造の様子は、蔵内に設置された定点カメラで常にライブ配信され、酒造りの様子をオープンにすることにもつながっています。こうして完成したのが「SAKE WAVE FES」という日本酒です。

富士通と三芳菊酒造のコラボ日本酒の第1弾「SAKE WAVE FES 01」

富士通と三芳菊酒造のコラボ日本酒の第1弾「SAKE WAVE FES 01」

第1弾では、富士通が用意した楽曲に投票する形式でしたが、第2弾では、楽曲もユーザーから募集してみたところ、30曲以上の応募がありました。以前から加振醸造に取り組んできた馬宮さんも、プロジェクトのために作曲された音楽を使用することに好奇心を揺さぶられたといいます。

「このようなプロジェクトでは、著作権や知的財産権などの問題で、クラシックなどの自由に利用できるパブリックドメインの楽曲を使用しがちなんです。今回は、プロ・アマ問わず、さまざまなクリエイターがオリジナルの楽曲を送ってくれて新鮮でした」と、飯嶋さんもユーザーの熱量に驚きを隠せません。

なかには、プロジェクトに参加するため、音楽制作が未経験にもかかわらず、AIを使って楽曲を作ってきた人もいるのだとか。投票期間中には、音楽に造詣の深い馬宮さんによる全曲解説を動画で配信するなど、ユーザーとのコミュニケーションも積極的に行い、第2弾では最終的に2,170票が集まりました。

「SAKE WAVE FES」は同じ原料・同じ条件のタンク2本で醸造し、一方は音楽による加振をしていますが、もう一方は加振せずに造っているため、加振醸造による違いを飲み比べて確かめることができます。

2024年7月から、第1弾の「SAKE WAVE FES 01」の「MUSIC ver.」(加振醸造あり)と「MUTE ver.」(加振醸造なし)を販売。2025年4月には、第2弾の「SAKE WAVE FES 02」の各バージョンが発売されます。

馬宮さんによると、「加振醸造したお酒としないお酒では、分析の数値は近くても、飲んでみたときの印象はまったく異なります」とのこと。

実際に試飲してみると、第1弾・第2弾ともに、三芳菊酒造の特徴である甘酸っぱい味わいがベースですが、第1弾は加振した商品のほうが全体的に穏やかで落ち着いた印象でした。

第2弾の違いはさらにわかりやすく、どちらもパイナップルを思わせるフレッシュな酸味が印象的ですが、加振していないほうはやや重厚感のあるしっかりとした酸味だった一方で、加振したほうはシャープですっきりとした酸味が感じられます。

富士通と三芳菊酒造のコラボ日本酒の第2弾「SAKE WAVE FES 02」

富士通と三芳菊酒造のコラボ日本酒の第2弾「SAKE WAVE FES 02」

「もっとも大事にしたのは、“みんなでいっしょに造る”という体験です。自分が参加してできた日本酒がおいしかったら、もっと知りたい、もっと飲んでみたいというアクションにつながると思ったんです」(飯嶋さん)

「音楽を入口にして日本酒に興味のない人も巻き込めたのがいいところですよね。楽曲を提供してくれた人がSNSで宣伝して、彼らのファンもたくさん参加してくれました。これが日本酒ファンだけに向けたものだったら、このような広まり方はなかったと思います」(馬宮さん)

楽曲の投票に必要なイベントチケットにNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を付与したのも、IT企業である富士通らしい点です。

NFTはブロックチェーン技術によって生成されたデータで、複製できないことが特徴。ユーザーが醸造に参加したという事実が唯一無二のデータとしてチケットに記録・保存されます。チケットを使ってプロジェクトの商品を特別価格で購入できたり、酒蔵見学やイベントに参加できたりするなど、新たなサービスも検討しているそうです。

「日本酒の飲み手の裾野を広げたい」

それぞれの技術や知見を提供し合うことで、新たな日本酒を生み出した富士通と三芳菊酒造。

「システムや製品を一からつくるのは、デザインセンターとして初めての試みで、私たち自身も貴重な経験になりました。今後は、富士通を介してさまざまな業界の企業と酒蔵がコラボし、Win-Winの関係を提供できるような仕組みを考えていきたい」と、飯嶋さんは手応えを語ります。

富士通 デザインセンターのデザイナー・飯嶋亮平さんと三芳菊酒造の蔵元杜氏・馬宮亮一郎さん

そして、「異業種とコラボすると、『三芳菊酒造は日本酒そのもので勝負していない』と言われることもあります。でも、酒蔵だけでできることには限界がある。だからこそ、新たな視点をもったパートナーの存在が必要なんです。第3弾は楽曲提供で参加しようかな(笑)」と、決意を新たにする馬宮さん。

どちらにも共通するのは「日本酒の裾野を広げたい」という純粋な想いです。「Join&Make」は、第3弾を準備中とのこと。今後の展開に注目しましょう。

(取材・文:渡部あきこ/編集:SAKETIMES)

◎商品情報

  • 商品名:SAKE WAVE FES 01
  • 原料:米(徳島県産山田錦100%)、米麹(徳島県産米)
  • 精米歩合:60%
  • アルコール度数:16度
  • 容量:720mL
  • 価格:5,500円(税込)
    ※「MUSIC ver.」(加振醸造あり)と「MUTE ver.」(加振醸造なし)のセット販売
  • 販売場所:三芳菊酒造 オンラインストア
    ※現在は完売となっていますが、販売の再開を予定しています。

 

  • 商品名:SAKE WAVE FES 02
  • 原料:米(徳島県産山田錦100%)、米麹(徳島県産米)
  • 精米歩合:60%
  • アルコール度数:15度
  • 容量:720mL
  • 価格:5,500円(税込)
    ※「MUSIC ver.」(加振醸造あり)と「MUTE ver.」(加振醸造なし)のセット販売
  • 販売場所:三芳菊酒造 オンラインストア
    ※4/8(火)に発売予定。現在、予約購入を受け付けています。

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