業界大手の日本酒メーカー・白鶴酒造の若手社員たちが、まったく新しい日本酒を世に送り出そうと立ち上げた「別鶴プロジェクト」。昨年12月からクラウドファンディングに挑戦し、現在600名超が支援するプロジェクトとして注目されています。

「Makuake」でクラウドファンディングを行なっている「別鶴プロジェクト」

本プロジェクトがリリースする日本酒は3種類。レモングラスのような香りと爽やかな酸味が特徴の「木漏れ日のムシメガネ」、柑橘類の果皮を思わせる甘い香りとほろ苦さがマッチした「陽だまりのシュノーケル」、完熟した果実の芳醇な香りと甘味を兼ね備えた「黄昏のテレスコープ」です。どれも、既存の枠組みに収まらない個性的な日本酒です。

連載という形でこのプロジェクトを追ってきたSAKETIMES。このたび、その味わいを読者に体験してもらうべく、トーク&試飲イベントを開催しました。大いに盛り上がった当日の様子をお伝えします。

逆境にも負けず、若い力で

トークセッションに登壇したのは、別鶴プロジェクトのメンバーである商品開発本部の佐田尚隆さん、生産本部の梶原大輔さん、総務人事部の大岡和広さん。SAKETIMES編集長の小池がトークの進行役を務めました。

プロジェクトメンバーの平均年齢はなんと32歳。研究、製造、営業、広報......社内のさまざまな部署から仲間を募り、およそ2年をかけて、企画を進めてきました。

左から順に、商品開発本部の佐田尚隆さん、生産本部の梶原大輔さん、総務人事部の大岡和広さん

(左から順に) 商品開発本部の佐田尚隆さん、生産本部の梶原大輔さん、総務人事部の大岡和広さん

小池:「まる」でおなじみの白鶴酒造は業界大手のナショナルブランド。そんな会社で若手有志が立ち上がるのは異例だったのではないでしょうか。

佐田:そうですね。資金も時間も少なく、商品開発の経験すらないメンバーがほとんど。終業後に週1回くらいのペースでミーティングをする、サークルのような雰囲気で始まりました。最初は社内から「絶対失敗する」「できるわけがない」と散々言われていましたね。

小池:まさに逆風。メンバーはどのように集めたのですか。

佐田:日本酒の会社というのもあってか、部署をまたいで飲み会をすることが多いんです。同世代の仲間と話してみると、日本酒が飲まれなくなってきていることにみんなが悔しい思いを抱えていました。「自分たちで何かやりたいよね」という話になって、そこに共感してくれたメンバーでプロジェクトを立ち上げました。

白鶴受像のミーティングの風景写真

小池:クラウドファンディングに挑戦しようと思ったのはどうしてだったのでしょうか。

佐田:私たちの目的は資金集めではありません。社内でプロジェクトに対する懐疑的な意見が多かったので、クラウドファンディングなら客観的な評価が得られると思ったんです。会社をうまく説得するには、やはり数字で示すしかないなと。

斬新なネーミングとデザインに込めた思い

小池:お酒の味わいはどのように決めていったのでしょうか。

佐田:まずは、どういう人に飲ませたいか、ターゲットの設定を慎重に進めました。日本酒をあまり飲まないけれど、社交的で幅広く何事にも興味があるような30歳くらいの男性を想定し、彼は何を基準に日本酒を選ぶか、どういうシーンで日本酒を楽しむか......いろいろなことを考えていきました。そのなかで、パーティーやバーベキューなど、友人たちと過ごすシチュエーションが思い浮かび、それに合わせて味わいを決めていきました。

別鶴プロジェクト「黄昏のテレスコープ」「陽だまりのシュノーケル」「木漏れ日のムシメガネ」

(左から順に)別鶴プロジェクト「黄昏のテレスコープ」「陽だまりのシュノーケル」「木漏れ日のムシメガネ」

梶原:「木漏れ日のムシメガネ」のイメージカラーはグリーン。新緑の季節に野外でシートを広げてお酒や食事を楽しむシーンを想定し、鼻に抜ける爽やかな香りと柑橘系のような酸味を出しました。

「陽だまりのシュノーケル」はイエローやオレンジのイメージ。夏の暑い日の浜辺で勢いよく乾杯していただきたいお酒です。生のオレンジをぎゅっと搾ったようなジューシー感と、日本酒の世界ではネガティブとされる苦味をアクセントにしています。

「黄昏のテレスコープ」は夕暮れの紫色をイメージしました。昼過ぎから盛り上がってひと段落したころ、夜に向けてさらにギアを上げていきたい時に飲んでほしいです。デザート酒としても楽しめます。

参加者と談笑する白鶴酒造の大岡さん

小池:ネーミングがどことなくポエムのような......。

大岡:ネーミングは悩みに悩みました。このお酒を通じて日本酒を好きになってもらう、世界を広げてもらうという思いをどんなフレーズで表現するか考えた時に、ふさわしい言葉がなかなか見つからなくて。

苦し紛れに出てきた「箱メガネ」という言葉から、「覗く」のイメージがおもしろいとなって、そこから虫眼鏡や望遠鏡のアイデアが出てきました。「新しい日本酒の世界を覗こう」というキャッチフレーズも、このプロセスから生まれました。

小池:その思いがラベルデザインにも落とし込まれていますよね。

佐田:ラベルの内側に、楽しんでほしいシーンのイラストを入れています。お酒が入った状態で中を覗き込むと、レンズで覗いたような見え方をするんですよ。日本酒の中に新しい世界が広がっていることを、ラベルを覗き込む仕草を通して感じてもらえたらうれしいですね。

トークセッションでは、使用されている酒米がすべて自社開発の「白鶴錦」であることや、酵母は400を超える自社ライブラリーからお蔵入りになっていたものを使用したこと、完成したお酒の一部を兵庫県産の杉樽に入れて、わずかな香味を付けた後に再度ブレンドする驚きの製法が採られていることも明かされました。

日本酒ビギナーもマニアも驚くその味わい

試飲タイムは立ち飲みスタイルの和やかなムード。会場のあちこちで「私はこれが好き!」などの声が聞かれ、それぞれの味わいから話が弾んでいる様子でした。それぞれに違った個性をもつ、別鶴のお酒ならではでしょう。

「別鶴プロジェクト」試飲イベントの様子

参加者の方々に話を聞いてみると......

「アルコール度数が低いと味が薄っぺらくなりがちですが、飲みごたえがあるので驚きました。日本酒マニアが飲んでも美味しいと思います。ブラインドで飲んだら、間違いなく白鶴酒造のお酒とは思わないでしょうね。ビギナーの方にも、マニアの方にも飲んでほしいです」

「良い意味で裏切られました!日本酒の可能性が広がったような気がします。『木漏れ日のムシメガネ』は白ワインのような感覚で、さっぱりとした料理に合わせてみたいです」

それぞれ、合わせたい料理やいっしょに飲みたい人のことを思い浮かべながら試飲している様子が印象的でした。

(左から順に)別鶴プロジェクトの「木漏れ日のムシメガネ」「陽だまりのシュノーケル」「黄昏のテレスコープ」

参加者の方々に、どれが好みだったか聞いてみたところ、3本とも見事に評価が分かれました。「飲む順番によっても個性の感じ方が違う」「どれも飲みやすいので、1種類に絞らずに飲み比べてみたい」など、さまざまな楽しみ方を見つけていました。

『別鶴プロジェクト』×SAKETIMES トーク&試飲イベントの集合写真

現在の日本酒業界に風穴を開けようと、大手メーカーの若手社員たちが仕掛けた新しいプロジェクト。そのストーリーと味わいは多くの参加者を魅了し、キャッチコピーさながらの「新たな日本酒の世界を覗く」体験を与えてくれるものでした。

別鶴プロジェクトのクラウドファンディングは3月6日まで。新しい日本酒体験をぜひ味わってみてください。

(取材・文/渡部あきこ)

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