雪解け水のようなスッキリした飲み口と料理を引き立てるクセのない味わいで、全国的な人気を誇る白瀧酒造の「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」。
1990年の発売以来、若者や日本酒ビギナーを中心に広く支持を得てきた「上善如水」が、新たにペットボトル商品を2018年10月1日に発売することを発表し、大きな反響を呼んでいます。
それもそのはず。ペットボトルの日本酒については、一部の大手メーカーと、昨年のはせがわ酒店が試験的に開発した事例を除いては、ほとんど市場でみかけることはありません。「上善如水」という人気ブランドがペットボトル商品を販売するは、日本酒市場にとって本当に革新的なことなのです。
なぜ、白瀧酒造は主力銘柄「純米吟醸上善如水」のペットボトル商品を開発したのでしょうか。10月からの一般販売に先駆け、開発の経緯と先行販売の現場を取材しました。
瓶ボトルのデザインをそのままに200gの軽量化を実現
白瀧酒造がペットボトル商品の開発を始めたのは、2017年10月のこと。今から1年ほど前に、取引のあった大日本印刷株式会社の提案がきっかけでした。
以前よりペットボトル商品の開発をたびたび提案されていたものの、パッケージデザインの観点から踏み出せずにいたという白瀧酒造の高橋晋太郎社長。しかし、このときに提案されたのは「上善如水」の瓶商品と同じ型でつくられたオリジナル形状のペットボトルでした。ガラス瓶に引けを取らない高級感があり、「これならいけるかもしれない」と商品化に向けて舵を切ったのだそうです。
ガラス瓶とペットボトルでは内容量と価格はどちらも同じ。300mlのボトルで583円(税別)です。
実際に瓶と並べてみると、胴回りの厚さや背の高さに若干の違いはあるものの、ほぼ同じ形が再現されていることがわかります。ラベルもほとんど同じデザインのものですが、ペットボトルには白のフィルムが貼られており遮光性がむしろ瓶よりも高いのだそう。
重量には大きな違いがあり、ペットボトルでは瓶よりも200gも軽くなりました。200gと言えば、スマートフォンより少し重いぐらい。屋外での長時間の持ち運びを考えると、ペットボトルに軍配が上がります。またペットボトルですから、瓶のように落として割れてしまうことはありませんね。
機能面でさまざまなメリットを有するペットボトルですが、やはりネックだったのは「デザイン」でした。今回のペットボトル化を決断したポイントはどこにあったのか、さらに詳しくお話をうかがいました。
「ガラス瓶が当たり前」の日本酒業界に一石を投じる試み
改めてペットボトル商品の開発の経緯について聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
「上善如水のブランドイメージを壊さずにペットボトル化をするのが一番の課題でした。今までに何度かペットボトルの商品化の話はありましたし、個人的にもガラス瓶の重さや処分の煩雑さは感じていて、容器のアップデートは必要だと思っていました。
ただ、従来のペットボトルの形だと、どうしても安っぽく見えてしまう。今回ようやく商品化に踏み切れたのは、容器の形やパッケージがブランドイメージを壊さないと思ったからですね。ペットボトルの素材も一般的なものよりも堅くて、見た目だけでなく触った感じに違和感がなかったのも、大きな理由でした」
最も大きな課題だったブランドイメージの保持をクリアしても乗り越えなければならない壁はまだあります。それは、酒質への影響です。
「もちろん、いくら容器が魅力的でも、酒質が変わってしまうことはあってはならないので、検証に検証を重ねました。最初は透明なペットボトルに入れた酒を日の当たるところに置いてみたのですが、風味に変化はないものの、光の影響で色が茶色になってしまったんですね。しかしペットボトルにフィルムを張ることで、極端に暑いところや寒いところ、日の当たるところなど厳しい環境に4週間置いても、酒質や色に変化はありませんでした」
2カ月間に渡る検証を経て、酒質や色がガラス瓶のものと変わらないと証明されたのが今年の4月。酒質が保てたことで反対意見が上がることもなく、社内一丸となってペットボトル商品の開発を進められたといいます。
その一方で、リリース発表前に行われた展示会では、様々な意見をいただいたそうです。
「『軽くて割れないから生活者に良い提案になるね』と言ってくれた酒販店さんもいらっしゃったのですが、何せ初めてに近い試みなので『瓶と同じ値段なら見た目の高級感でガラス瓶を選ぶよね』とか『ちゃんと着色しないというデータを出して』などという慎重なご意見もいただきました」
今まで「ガラス瓶が当たり前」で、容器のアップデートがなされてこなかった日本酒業界。市場への流通量も多い人気ブランドのペットボトル商品化は、業界に一石を投じたかたちになります。
業界内ではポジティブな反応ばかりではなかった中で、気になるのはお客さんの反応です。それについて高橋社長は、とても前向きな姿勢です。
「上善如水のお客様は40歳以下の方がメイン。普段からペットボトルに親しみがある方が多いので、メリットを理解してくださる方が多いんじゃないかと思います。ただ私たちにとっても初めてのチャレンジなので、市場でどんな反応があるかは出してみないとわかりません。ポジティブな反応ばかりではないかもしれませんが、どんな感想を抱かれるのか、率直に楽しみですね。もし万が一うまくいかなくても、『良い勉強になった』という感じで、あまり気負っていないんですよ」
また他社の参入に関しても「他の酒造さんが入ってきてくれれば、ペットボトル日本酒の専用売り場ができるので、私たちにとっても良いこと」と、市場全体の未来を見据え、前向きに考えているそうです。
現在は、10月の発売に向けての自社充填ラインの整備や効率化を急ピッチで進めている真っ最中。高橋社長は「若い方を中心に家飲みや、行楽などで楽しんでもらえたら」と、ペットボトルが切り開く新たなシーンや飲み方に期待を寄せています。
先行販売でペットボトル日本酒150本が完売!
「上善如水」のペットボトル商品の一般販売は10月1日からですが、それに先駆け、7月末に越後湯沢で開催された「フジロックフェスティバル'18」に合わせて越後湯沢駅内の酒販店「駅の酒蔵」にて先行販売が行われました。その現場にお邪魔し、新商品についての手応えを聞いてみました。
取材をしたのは先行販売最終日の7月30日。フジロックフェスティバルが終わった翌日で、JR越後湯沢駅は帰りの新幹線を待つ人たちで賑わい、白瀧酒造の販売ブースにも人だかりができていました。
白瀧酒造のスタッフに話を聞くと、ペットボトルの売り行きは想像以上に好調で、やはりフジロックフェスティバルのお客さんが多く手にとっていたそう。フジロックには瓶の持ち込みはできませんが、ペットボトルはOK。そのため、フェス会場に行く前に買っていった方も多かったようです。中には、会場に行く前に購入し、「おいしかったから!」と帰りにも買っていった方もいたのだとか。
またペットボトルは軽くて割れないので、お土産にもピッタリ。自宅用にガラス瓶の上善如水を購入しつつ、ペットボトルをお土産用として買う方も少なくなかったそうです。
白瀧酒造社内でも「ガラス瓶とペットボトルが同じ売場に並んでいたら、瓶を選ぶほうが多いのではないか」という懸念があったそうですが、先行販売の反応を見る限りその心配は杞憂でした。先行販売用に用意した150本は、5日目昼過ぎで完売寸前。幸先の良い結果となりました。
今後の展開としては、9/28~30に東京・日比谷公園で行われる「お酒とおつまみフェスティバル」や、9/29〜30に横浜市・日本大通りで行われる「ONE LOVE ALOHA」への出店を予定です。
ペットボトル日本酒がもたらす、新しい日本酒の楽しみ方
人気ブランドである「上善如水」がペットボトル商品を発売することは、とりわけ日本酒業界では賛否両論、様々な議論が起こるニュースかもしれません。
しかし、高橋社長が「若い方の家飲みや、行楽のおともにしていただけたら」と話していたように、ペットボトル化を進めた背景には、日本酒を手に取るハードルを下げ、日本酒を飲むシーンを増やしたいという想いがありました。
軽くて割れず、遮光性にも優れたペットボトル日本酒は、たとえば音楽フェスやスポーツ観戦など、今まで日本酒が入っていなかったさまざまなシーンへの広がりが想像できます。
「日本酒初心者のためのお酒でありたい」
その願いは、「上善如水」の販売当初からずっと変わっていなものです。日本酒の楽しみ方を広げるペットボトル商品の発売は2018年10月1日。ここから、日本酒の新しい扉が開けるかもしれません。
(取材・文/佐々木ののか)
sponsored by 白瀧酒造株式会社