2017年8月17日、ペットボトル入りの高品質な日本酒「プレミアム日本酒ペット」が、株式会社はせがわ酒店から発売されました。

日本酒の容器と聞くと、多くの方はガラス製の一升瓶を思い浮かべるでしょう。ペットボトル入りの日本酒はイメージしづらいかもしれません。実際のところ、ペットボトルによる保存は酸化や風味の劣化が懸念され、繊細な日本酒には適さないとされてきました。

しかし近年、技術の向上によって、品質の劣化を大幅に抑制するペットボトルが開発され、ガラス瓶と比較しても遜色がなくなってきています。「プレミアム日本酒ペット」は、ペットボトルのメリットである軽量性や耐久性、経済性に加えて、お酒そのものの品質にもこだわった商品として開発されました。

今回は、発売に先駆けて開かれた商品発表会で関係者の方々に聞いた、「プレミアム日本酒ペット」の魅力や開発秘話についてお伝えします。

日本酒の"容器"にも革新を

 株式会社はせがわ酒店・代表取締役社長 長谷川浩一氏

まずは、はせがわ酒店の長谷川社長から、商品化にあたっての思いが述べられました。

「お酒にとって大切なのは、何と言っても"美味しいこと"。美味しいと感じるのであれば、容器はペットボトルでも缶でも良いというのが僕の考えです。もしかしたら、やや高級なワインだって、コルクではなくスクリューキャップでも良いのかもしれません。

ワインの世界ではペットボトルのボジョレーが発売されるなど、容器にイノベーションが起こりつつありますよね。日本酒も変わっていくべきだと思い、プロジェクトを企画しました。

ペットボトルの日本酒はすでに発売されていますが、利便性だけでなくとことん味にもこだわりたい。そこで4つの蔵に依頼し、純米酒以上の規格で造るハイグレードな日本酒を発売することになりました」

品質を長期間保てるペットボトル容器

三菱ケミカル株式会社 宮下氏・辻氏

続いて、容器の開発に携わった三菱ケミカル株式会社の宮下氏・辻氏から、本商品で使用されている「ハイバリアペットボトル DLC(ダイヤモンドライクカーボン)」に関する説明がありました。

「『バリア包装』は、食品の品質を保ち賞味期限を長く設定できることから、食品ロスを改善するための一案として、農林水産省も推進している技術です。『ハイバリアペットボトル DLC』はすでに2004年から、焼き肉のたれや醤油、コーヒー、ワインなどにも使用されています」

「『DLC』は少し茶色がかっており、これはカーボン(炭素)によるもの。ガスバリアの分子が小さく(気体を遮断する構造が細かい)、酸素に対するバリア性が一般的なペットボトルの10倍あるため、香りを保ちつつ炭酸ガスの減少を抑えることができます。酸化を防ぎ、新鮮な状態を保てるということですね」

「容器が小さく見えるかもしれませんが、容量は720mlです。ガラス瓶と比較すると、積載コストがおよそ35%改善されるので、CO2や輸送費の削減に貢献できます。さらに今回は包装にもこだわりを持ち、高級感のあるフルシュリンクラベル(ラベル全体を包装する収縮フィルム)を採用しました」

造り手である蔵元の感想は?

今回発売されるお酒は4銘柄。各蔵の方から、商品化にあたっての感想や今後への期待をお話しいただきました。

「あたごのまつ」(新澤醸造店/宮城県)

株式会社新澤醸造店・代表取締役 新澤巌夫氏

「理由もなく先入観で、瓶の方が美味しいのではないかと思っていました。『65℃で火入れできるのか?』『低温発酵はできる?』『冷蔵保存は?』と、たくさんの疑問がありましたが、結果的にはまったく問題なかったですね」

新澤社長は、日本酒容器のペットボトル化により、スポーツ会場などの瓶が持ち込みづらい場所にも日本酒が広がっていくことを期待していました。新澤醸造店の蔵人はチャレンジ精神の旺盛な若い人が多く、新しい試みに対してポジティブに、楽しんで取り組んでくれたのだそう。

「他の造り手さんと良い意味で競争ができたのも良い経験でした」と、長谷川社長への感謝も述べていました。

「来福」(来福酒造/茨城県)

株式会社来福酒造・千葉氏

「最近は特に、女性のお客さんが日本酒に興味を持ってきているように感じてします。しかし『瓶は重たい』『持ち帰るときに割ってしまった」などの苦労を聞くこともありました。そういった問題が、この『プレミアム日本酒ペット』で解決できるのはうれしいですね。

来福酒造は"挑戦の蔵"。今回も新しい挑戦に関わることができて光栄に思います。まずは実際に飲んで、評価をしてほしいです」

蔵元が急遽来られなくなり、代打でのイベント参加となった販売担当の千葉さん。来福への愛情たっぷりにお話しをしてくれました。

「紀風」(平和酒造/和歌山県)

平和酒造株式会社・代表取締役専務 山本典正氏

山本専務は「(日本酒ペットは)日本酒の未来に必要だと思うと同時に、不安もありました」と、当時の正直な感想から話し始めてくれました。

「完成品を見て、デザインが素敵で、高級感もあったので良かったと思いました。『紀風』の清らかでなめらかな雰囲気がうまく表現されていると思います。一見すると500mlなのに実は720mlというのも革新的ですね」

山本専務は海外への輸送についても触れ、輸送先で品質的なトラブルがなかったことから、運びやすさを生かした海外輸出に期待したいと話しています。山本専務は、輸送時の課題から業界全体の将来まで、さまざまな角度からこのプロジェクトを見ていました。

「酔鯨」(酔鯨酒造/高知県)

酔鯨酒造株式会社・代表取締役社長 大倉広邦氏

「子どもの頃、コーラは瓶に入っていました。その瓶がペットボトルになるとは思ってもいませんでしたね。今やワインもペットボトルの時代。容器は時代とともに変わっていくものです」

大倉社長はご自身の体験から、ペットボトルの日本酒もいつかはスタンダードになっていくと考えているようでした。

「心配だったのは、高級感。しかし、完成したパッケージを見て安心しました。軽くて割れにくいので、飲食店での期待も大きいですね」

飲食店へヒアリングした結果から「日本酒ペットは浸透していく」と、かなり自信を持って話していたのが印象的でした。

質疑応答

試飲の前に、参加者からいくつか質問があがり、長谷川社長をはじめとする登壇者から回答がありました。

─ 製造コストについて

今は試行錯誤のテスト期ということで手詰めの状況だが、量産できる出荷量が望めて、機械導入をすれば瓶より安くなるはず。ともかく、まずは品質をキープすることに注力している(長谷川)

─ 販売ルートについて

はせがわ酒店の直営店と、飲食店からスタート。ペットボトルに対する抵抗感のイメージがなくなった時点で酒販店へ拡大していく(長谷川)

─ 1.8Lタイプの発売について

一升瓶の流通量が多い関西ではニーズがあることが考えられるので、いずれは検討の時期がくるかもしれない。しかし、長期的には720mlが市場のスタンダードになっていくのてはないかと考えている(長谷川)

─ 品質保存のチェックについてはどのような期間でテストしたのか

1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月の保存で、常温・冷蔵をそれぞれ瓶と比較する予定。今のところ、6ヶ月経過までテストしたが品質の劣化は無かった(新澤)

いよいよ試飲!その味わいは?

試飲は自分たちで、シュリンク包装をあけるところから。開けやすい包装ながら、しっかりとブランドの品質を感じさせるパッケージで好感が持てます。また、未開封のお酒2本でも簡単に持ててしまうほど軽いです。

いよいよ口に運びます。まず香りがふわっと高くあがってきてフレッシュな印象。口当たりもなめらか。まるで"出来たて"のようにも感じられ、それぞれの銘柄の特徴がはっきりと分かるように思いました。

三菱ケミカルの方によると、開栓後の品質も変わりにくいとのことでしたが、蔵元はやはり早めに飲んで欲しいとおっしゃっていました。

「プレミアム日本酒ペット」がもらたす未来とは──

長谷川社長によると、ペットボトルの構想は10年ほど前から考えていたとのこと。そして1年ほど前に、はせがわ酒店に理解のある蔵元に声をかけて今回のプロジェクトが始まったということでした。4蔵からのスタートですが、1〜2年で導入する蔵は倍増し、さまざまな売り場で販売できるようになるだろうと話されていました。

今回の「プレミアム日本酒ペット」の発売は、日本酒の革命になるかもしれません。長谷川社長をはじめ蔵元の皆様が声を揃えておっしゃっていたのは「まずはプレミアム日本酒ペットを、ご自身の舌で味わってみてください」ということ。実際に飲んでみて、その品質の高さを実感した筆者からも、同じ言葉を読者の皆様にお届けしたいと思います。

今後「プレミアム日本酒ペット」が色々な蔵に拡大されて、移動中やイベント会場など、さまざまな場所でおいしい日本酒を飲めること、海外の日本酒ファンが気軽に本物の日本酒を楽しんでくれる日が来ることを、心から期待して楽しみにしています。

(取材・文/佐々木由美)

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