初心者からベテラン愛好家まで幅広い人気を誇る日本酒「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」。

新潟県・越後湯沢にある白瀧酒造が1990年に発売した「上善如水」は、全国の酒販店やスーパーで目にする機会も多い、新潟を代表する銘柄のひとつです。現在では、日本国内はもちろん、中華圏や韓国などのアジアを中心に、約30カ国で愛されています。

この記事では、「上善如水」の商品ラインナップから、通年商品として販売されている4種類を厳選し、SAKETIMES編集部で飲み比べを行いました。それぞれ、どのような味わいなのでしょうか。

「上善如水」について


「上善如水」

「上善如水」の名前の由来

「上善如水(上善は水のごとし)」は、古代中国の哲学者・老子(ろうし)の言葉。「人間の理想的な生き方は、水のようにさまざまな形に変化する柔軟性を持ち、他と争わず、自然に流れるように生きること」という意味です。

その意味の通り、白瀧酒造の日本酒「上善如水」は、まさに「水」のような味わいの日本酒。日本有数の雪国・越後湯沢の清らかな雪解け水が、仕込み水として使われています。

「上善如水」の味わいの特徴

「上善如水」

「上善如水」の特徴は、その名前が表すとおり、雪解け水のようなすっきりとした口当たりと飲みやすさ。あらゆるものと調和して、するりと喉の奥へと落ちる、シンプルで清らかなお酒です。

軟水の仕込み水によるまろやかさも相まって、口当たりはやわらかく、味わいは軽やかでフルーティー。純米酒ならではの米の味と吟醸酒ならではのキレの良さを併せ持ち、クセがないので、食事と一緒でも楽しめます。

「上善如水」のアルコール度数は、一般的な日本酒と比較して、少し低めの14度~15度前後。アルコール感が抑えられているので、日本酒特有のツンとした感じがなく、日本酒にあまりなじみのない方の入門酒としてぴったりな一本です。

「上善如水」誕生のきっかけ

「上善如水」

「上善如水」が発売されたのは、1990年9月のこと。当時、日本酒業界は1980年代後半から続く淡麗辛口ブームの真っ只中。このブームは新潟の地酒が牽引し、「越乃寒梅」(石本酒造)、「久保田」(朝日酒造)、「〆張鶴」(宮尾酒造)、「八海山」(八海醸造)などが全国的に知名度を上げていました。

また、若者の間ではスキーブームが起こり、関越自動車道や上越新幹線の開通も重なって、新潟を訪れる人が増えたことも新潟の地酒の人気を加速させたと考えられています。

そんななか登場した「上善如水」は、それまでの日本酒業界のさまざまなタブーを破った商品でした。

日本酒の瓶といえば、茶色や緑の色付き瓶がほとんどだった当時の流れのなか、あえてほんのりとした水色の透明瓶を採用。遮光性を確保するために箱入りで販売されましたが、贈答品以外の四合瓶が化粧箱に入れられて販売されるのは珍しいことでした。

また、当時は筆文字で銘柄名を大きく書いたラベルがほとんどでしたが、「上善如水」ではシンプルなデジタルフォントを採用したことも斬新な取り組みのひとつです。

発売当初の「上善如水」

発売当初の「上善如水」

なにより、すっきりとしたピュアな味わいが評判を呼び、発売直後から売上は右肩上がりに。当初、「上善如水」のように軽やかな味わいの日本酒は珍しい存在でしたが、まだ日本酒を飲んだことがない若者や日本酒入門者たちを中心に受け入れられていきました。そうして、全国から殺到する注文に対して生産が追いつかないほど、大ヒット商品へと成長していきます。

「上善如水」の売上が伸びるなかで、白瀧酒造では瓶詰ラインの拡充やカートニング(箱詰め)マシンの導入など最新鋭の設備を揃え、さらに衛生管理も徹底。お酒の品質や味わいを保ちながら、安定生産を維持し、2009年には、アルコール添加の吟醸酒から純米吟醸酒に切り替える、「全量純米化」という大掛かりなリニューアルを行っています。

発売当初は、業界でも賛否が飛び交う異端的な存在であった「上善如水」。現在では白瀧酒造の看板商品として広く認知され、2020年、「上善如水」は発売から30周年を迎えました。

「白瀧酒造」について


「白瀧酒造」の歴史

白瀧酒造がある越後湯沢は、新潟県有数の豪雪地帯。川端康成の小説「雪国」の舞台にもなり、冬には多くのスキー客で賑わう新潟県魚沼地方に位置する温泉街です。

江戸時代後期の1855年(安政2年)、越後と江戸を結ぶ三国街道の要衝であった湯沢の地で、初代・湊屋藤助(みなとや とうすけ)氏が豪雪地域ならではの豊富な湧水を使った酒造りを思いついたのが、白瀧酒造(当時の屋号は「湊屋」)の始まりです。

三代目・高橋藤三郎 氏は、1894年(明治27年)に日清戦争が勃発すると、特需に応えるべく清酒の品質向上へ取り組みました。この時にできあがった清酒を、それまでの銘柄「湊川(みなとがわ)」とは別格に扱い、「白瀧(しらたき)」と銘じます。

太平洋戦争直後は米不足のため、製造量1,000石にも満たなかった酒蔵の復興を担ったのは、五代目・高橋敬一郎 氏です。1951年(昭和26年)に白瀧酒造株式会社へと改組し、関東周辺での販売シェアを高めていきました。

代表銘柄「上善如水」が誕生したのは1990年(平成2年)、六代目・高橋敏 氏の時代です。現在は、七代目の高橋晋太郎 氏が「上善如水」シリーズのさらなるアップデートに取り組んでいます。

「白瀧酒造」の酒造りのこだわり

越後湯沢の風景

品質管理に全力を尽くす白瀧酒造が目指す酒質は、「誰が飲んでもおいしい酒」です。

その味わいの決め手は、「水」。越後湯沢にたっぷりと積もった雪は、春に雪解け水となって地面に染み込み、およそ50年の歳月をかけて地下水となります。白瀧酒造の敷地内にある3本の井戸から汲みあげる地下水は酒造りに適した軟水で、すべてのお酒の仕込みに使われ、白瀧酒造の酒質を決定づけています。

また、あわせて特徴的なのが「低温発酵」です。低温でじっくり発酵させることで、「上善如水」の口当たりをさらになめらかにしつつ、甘みを引き立て、すっきりとキレのある味わいを生み出しています。

4種類の「上善如水」をテイスティング

SAKETIMES編集長・小池潤

SAKETIMES 編集長・小池潤


通年商品として販売されている4種類の「上善如水」について、「唎酒師」の上位資格である「酒匠」を持つSAKETIMES編集長・小池がテイスティングを行いました。

「上善如水 純米吟醸」

「上善如水 純米吟醸」

味わい

グラスに注いだ瞬間、フルーティーで華やかな香りが立ち上ります。透明感のあるクリアな吟醸香が中心ですが、白玉のような甘みも感じられます。同時に、ラムネのような清涼感のある甘みもありました。

非常にやわらかい飲み口で、全体的に味の要素が少ないシンプルな味わいですが、はっきりとした旨味があります。若々しいマスカットのような爽やかな甘みもあり、余韻は短く、ドライな後口でした。ツンとした嫌なアルコール感がなく、完成度の高い一本です。

白身魚のカルパッチョ、シンプルな野菜サラダ、素材の味を生かした温野菜などに合いそうです。

◎商品情報

  • 商品名:「上善如水 純米吟醸
  • 特定名称:純米吟醸酒
  • アルコール度数:14度以上15度未満
  • 精米歩合:55%
  • 販売価格(税込):3,190円(1800mL)、1,595円(720mL)、726円(300mL)、726円(300mL・ペットボトル)、385円(180mL)、385円(180mL・ボトル缶)
  • 購入リンク:白瀧酒造オフィシャルショップ

「上善如水 純米大吟醸」

「上善如水 純米大吟醸」

味わい

一般的な純米大吟醸酒よりも香りは控えめですが、フルーティーな吟醸香をはっきりと感じられます。

飲み口は「上善如水 純米吟醸」と同様にやわらかい印象ですが、「上善如水 純米吟醸」よりもアルコール度数が少し高いせいか、全体的に厚みのある味わいに感じました。余韻は短めで、かつドライな印象です。

全体的なやわらかさも「上善如水 純米吟醸」と共通していますが、「上善如水 純米吟醸」は華やかでライト、「上善如水 純米大吟醸」は香りが控えめでボリュームのあるタイプです。

赤身肉のステーキなど、ボリュームのある肉料理との相性が良さそうです。

◎商品情報

「上善如水 純米吟醸 生酒」

「上善如水 純米吟醸 生酒」

味わい

生酒らしい、フレッシュな香りが印象的でした。「上善如水 純米吟醸」に比べると控えめですが、甘みのある香りも感じられます。また、生米のような、粒感のある旨味もあります。

味の第一印象としては、香りと同様に、生酒特有のフレッシュなピチピチ感を感じました。中盤から後半にかけてアルコールの苦味が続くため、食事やおつまみなどが欲しくなる味わいです。

軽く焼いて香ばしさをプラスしたチーズなど、コクのあるおつまみに寄り添ってくれそうです。

◎商品情報

  • 商品名:「上善如水 純米吟醸 生酒
  • 特定名称:純米吟醸酒
  • アルコール度数:15度以上16度未満
  • 精米歩合:60%
  • 販売価格(税込):8,712円(720mL×6本入り)、4,488円(300mL×6本入り)
  • 受賞歴:第1回 酒友グランプリ 2017夏 伝統部門「まぐろの漬け」準グランプリ受賞、WGOアワード2011 食中酒部門クラス1 金賞受賞、All About 2007年6月29日掲載「夏向き日本酒」第1位獲得
  • 購入リンク:白瀧酒造オフィシャルショップ

「上善如水 スパークリング」

「上善如水 スパークリング」

味わい

香りは控えめなので、甘みの強いスパークリング日本酒が苦手な方におすすめしたい一本です。また、香りの中にバランスの良い甘みと酸味も感じられ、最初のひと口への期待感を高めてくれます。

「上善如水」シリーズに共通しているやわらかい飲み口で、甘みのバランスが優れています。それでいて、「上善如水」特有の透明感があり、全体的にクリアで凛とした印象でした。また、余韻に伸びがあるため、豊かな味わいが続きます。

◎商品情報

4種類の「上善如水」を飲み終えて

「上善如水」シリーズ

日本酒のエントリーモデルとしてよく知られている「上善如水」ですが、実際にテイスティングをしてみると、どの商品も飲み口が非常にやわらかく、かつ全体的に透明感のある味わいで、日本酒初心者に自信をもっておすすめできる商品だと感じました。特に「上善如水 純米吟醸」は全体のバランスが良く、完成度が高い一本です。

今回紹介した商品は、白瀧酒造のオフィシャルショップをはじめ、全国の酒販店やスーパーで購入することができます。この機会にさまざまなタイプの「上善如水」を試してみてください。

(文/SAKETIMES)

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