前回の記事で、新規銘柄の”企画会議”の模様をご紹介した株式会社宏和商工。無事「Any.」というネーミングに決定し、製品化に向けた準備が慌ただしく進められています。
しかし、そもそも新規銘柄を開発するに至ったのはなぜなのでしょう?
今回は「Any.」という新ブランドの立ち上げの裏側である
宏和商工の酒造りの歴史と、そこにあった様々なドラマをご紹介します。
酒造り未経験の企業が「酒蔵を買収し、日本酒の自社開発に挑戦する」という大きな挑戦には、一体どんな物語があったのか…歴史を振り返りながらご紹介していきます。
はじまりは9年前の2006年。ブライダル事業の発展のために。
宏和商工は1988年創業。現在に至るまで「ブライダル事業」を生業としています。
もともとブライダルギフトのひとつとして日本酒を提供しており、外部の酒蔵が醸造したものをパッケージを新たにして販売していました。しかし、「お客様にもっと高品質な日本酒を提供したい」という想いから、2006年になんと茨城県の酒蔵を買収することに!
当時、ブライダル事業の好調も後押しして買収に踏み切りましたが、今まで経験のない酒造りをゼロからはじめることは、業績が順調な宏和商工にとっても大きな挑戦でした。
まずは蔵の立て直しから。そして技術研鑽の日々へと続く。
酒蔵を買収したものの、やはり奥の深い酒造り。思うようにはいきませんでした。
その原因のひとつが資金。
買収自体にかかった多大な費用に加え、その時点で”ガタ”が来ていた蔵の修繕・設備調整費は想像以上の負担となりました。
なんと、最初の一年間は蔵の掃除と設備の拡充で終わってしまい、ただの一滴の日本酒も造ることができなかったと言います。
翌2007年から、南部杜氏を招きようやく酒造りを始めるも、以降7年間対外的な結果はほとんど出ず。
その後、社長のご子息にあたる長岡慎治氏が常務として入社。放射線技師から蔵人へ、という異例の転身でした。
そんな彼が東京農大で醸造について学んだ後に自社での酒造りに邁進するも、事業的には苦しい時期が続きます。その時のことを、社長・長岡泰山氏はこう振り返っています。
「造り始めるときもそうですが、造ったお酒を受け入れられるまでがとにかく大変でした。買収前の販路を引き継ぐことはしなかったため、本当にゼロからのスタート。一朝一夕で醸造技術は身につきませんから、地元の酒屋に何度も叱責されました。でも、そんな中でも「より良いお酒を、宏和ならではの味を」と諦めずに地道な努力と営業を続け、徐々に地元へと浸透していったんです。宏和の大きな挑戦が実を結ぶまで、営業と造り手の忍耐が支えていたんです。」
努力、忍耐、そしてまた努力…。そんな苦しい時期を乗り越え、宏和商工の酒造りはようやく一筋の光明が見ることとなります。
苦節8年、初めての快挙!
蔵の買収から8年が経った2014年、ようやく宏和商工の酒造りがひとつの成果を挙げます。「二人舞台 大吟醸」が全国新酒鑑評会・金賞を受賞するのです!その後「二人舞台 純米大吟醸」が香港IWSCゴールドメダル&トロフィー(最高金賞)を、「二人舞台 純米吟醸」がIWCシルバーメダルを受賞します。
この年から社内杜氏として酒造りをリードしてきた長岡慎治常務をはじめ、手探りの取り組みがようやく実を結んだ瞬間でした。
事業として不透明な中でも、諦めることなく続けたことが生んだ成果。まさに忍耐・努力の結晶だと感じます。
もちろん、酒造りの世界において”8年”という時間は決して長いものではないと思います。しかし、もともとの従業員がいたとはいえ、いわば”素人企業”が品質向上のために蔵を持ってしまうというのは、なかなか大胆な発想ですよね。きっと、想像もつかない苦労がたくさんあったはず。そう考えると、”先の見えない8年”というのは決して軽いものではないと思うのです。
「二人舞台」の先へ。宏和商工の新しいチャレンジ!
いわば宏和商工としての”看板商品”とも言える「二人舞台」が完成!
しかし…宏和商工の人たちは満足しませんでした。
「『二人舞台』が生まれたきっかけはブライダルの引き出物でしたが、そこがゴールじゃないんです。今日まで磨いた技術を、今度はより多くのお客様のために活かしたい。今度はひとつの酒蔵として、日本酒ブランドとしてお客様に向き合いたいと考えています。」と、長岡社長は語ります。
技術を磨き続けた8年。金賞受賞というひとつのゴール。その先にあるのは”ふたりからすべての人へ”という想い。既存の市場に囚われることなく、常にチャレンジし続ける宏和商工だからこそ向き合うことのできた道でした。
こうして生まれたのが「Any.」というブランドなのです。
「Any.」の開発がいよいよ始まりました!
前回までは”コンセプト”と”名前”しかなかった「Any.」ですが、プロジェクトは現在絶賛進行中です!
レントゲン技師から蔵人への転身した、異色の経歴を持つ長岡慎治杜氏は「Any.」の製造ついてこんな話を聞かせてくれました。
「酒造りは”職人の仕事”だと思っています。だからこそ、他にはない”自分にしかできない味”を追求したい。2年間の農大での勉強や、当時蔵にいた南部杜氏から学んだことはたくさんあります。しかし、その中でも自分ならではやり方を手探りしてきました。今まで厳しいご意見もたくさんいただきましたが、それをきちんと分析・改善してきていますし、そんな中である程度狙い通りに賞も取れた。『二人舞台』で磨いた技術を『Any.』で昇華させたい。”宏和の酒、ここにあり!”というものを造りたい。そんな風に思っています。」
SAKETIMESでは、「Any.」というひとつのブランドが生まれる瞬間から、世の中に出て行くまでを密着で追っていきます。目下、ラベルデザインを製作中!次回連載でお披露目できるかも?
日本酒が好きな人、日本酒を造っている人、日本酒に関わるすべての人に知ってほしい、「Any.」というブランドのリアルタイム・ストーリー!次回の連載もお楽しみに!
(取材・文/SAKETIMES編集部)
sponsored by 宏和商工
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