山形県の南西部、新潟県との県境に位置する小国町。冬になると積雪が2メートルを超えることもある日本有数の豪雪地帯としても知られています。

そんな小国町に唯一残る酒蔵が、代表銘柄「小国桜川」を醸し続けてきた桜川酒造。創業から300年以上の歴史を誇る酒蔵ですが、この数年で経営危機に直面し、2023年に経営体制を一新しました。

桜川酒造の外観

今回は、代表取締役社長の石井宏和(いしい・ひろかず)さんをはじめとした関係者に、桜川酒造のこれまでの歩みとともに、いま取り組んでいるクラウドファンディングなどの新しい挑戦について、話をお伺いします。

山形県小国町に残る唯一の酒蔵

桜川酒造の創業は、1706年(宝永3年)。2021年に社名を「桜川酒造」に変更するまでは「野沢酒造店」として、地元の人々に愛される日本酒を造り続けてきました。

代表銘柄は「小国桜川」。全国屈指の豪雪地帯としても知られる小国町のやわらかな雪解け水をベースに造られる、きめ細やかで上品な味わいのなかに、まろやかで豊かなふくらみを感じる日本酒です。

桜川酒造の代表銘柄「小国桜川」

また、近年は「雪女神」や「出羽の里」など、地元産の酒米を中心とした酒造りに取り組んでいます。しばらくの間、小国町では酒米が栽培されていませんでしたが、地元の農家と連携して酒米研究会を発足し、酒米の栽培を復活させました。

しかし、コロナ禍の影響による売上の落ち込みなどで、2022年に経営破綻の危機に陥ってしまいます。酒蔵の再建を任されたのは、日本各地で地域資源を活用した「持続可能な経営・地域づくり」に取り組んでいる株式会社グーニーズグループの石井さん。

桜川酒造 代表取締役社長 石井宏和さん

桜川酒造 代表取締役社長 石井宏和さん

もともと、日本各地で地元に根付いた事業の再建や承継を手がけてきたスペシャリストで、小国町が主催するビジネスセミナーに講師として招かれたことをきっかけに、桜川酒造との関係が始まりました。

その後、一般社団法人ヨカモス®を立ち上げ、桜川酒造に併設する建物をカフェ兼コワーキングスペースとしてリノベーションするなど、桜川酒造を中心とした新しいコミュニティの創造に尽力。桜川酒造の経営にも一部参画し、社内外のさまざまな取り組みを行ってきました。

クラウドファンディングで新ブランドが誕生

石井さんが経営に参画してから、桜川酒造にとってもっとも大きなプロジェクトが、2023年に実施したクラウドファンディング。地元の酒米を使用した新しいブランドをつくるために挑戦し、最終的に300万円以上の支援を集めました。

桜川酒造のクラウドファンディング(第1弾)のプロジェクトページ

そうして完成した新ブランドが「Kairagi」。桜川酒造の近くにある、山形県・新潟県・福島県にまたがる飯豊連峰の梅花皮岳(かいらぎだけ)から命名されました。

「Kairagi」は従来の「小国桜川」と同じように地元の酒米にこだわりながら、華やかな香りをより多く生成する酵母を使用した純米大吟醸のシリーズです。

桜川酒造の新ブランド「Kairagi」

シリーズのなかでも、「Kairagi 純米大吟醸 雪女神」は2024年の全国新酒鑑評会にて高く評価され、桜川酒造に28年ぶりの入賞をもたらしました。石井さんも「来年は金賞を目指します」と意気込みます。

「Kairagi」は新しい市場の開拓を目指したシリーズでしたが、意外なことに、地元の人々からの支持も厚かったそうです。

桜川酒造の契約農家の方々

桜川酒造の契約農家の方々

現在は、「小国桜川」のある食卓風景を100年後にも残していく運動として「サクラガワカモスクエア構想」を推進しています。桜川酒造を中心に、酒蔵に併設されたカフェ「カモスク」や、町内にある宿泊施設「YOIDOKO」などと連携し、人と人が出会う空間や時間をつくっていきたいと考えているのだそう。

「桜川酒造で酒蔵見学をして、カモスクでおいしい料理と日本酒を飲んで、YOIDOKOに泊まる。そんな流れをつくっていきたいですね。単純にお酒を売る・買うという関係から、さらに深い関係をお客様と築いていきたいです」

「サクラガワカモスクエア構想」のイメージ

「地元の方々に愛されてきた『小国桜川』というお酒は、対話のなかでお互いを知り関係を醸していく時間に寄り添ってくれる大事な存在。それは、約300年前の創業当時から変わりません。そしてこれからも、そうあり続けたいと考えています」

その他の取り組みとして、「日本酒の魅力を伝えていくには、中身だけでなく外見も大事」という考えのもと、女性メンバーが中心となって、アーティストとコラボした特別ラベルのシリーズも展開。さまざまな芸術家の作品を、日本酒のラベルとして採用しました。

桜川酒造の「アーティストコラボシリーズ」

「酒質の向上ももちろん大事ですが、日本酒という長い歴史をもった文化のなかに、いかに新しいものを取り込んでいくかという観点では、商品の装いも重要だと考えています」

さらに、若手メンバーの積極採用や人事制度の見直しなど、社内外のさまざまな改革に現在進行形で取り組んでいます。

地元の酒米農家が酒造りを継承する

そんな桜川酒造が、2024年9月から新たなクラウドファンディングに挑戦しています。

今回のクラウドファンディングは、「318年続く蔵の杜氏を目指す!地元酒米農家が伝統の酒造り継承に挑戦!」と題し、桜川酒造の蔵元杜氏を目指す酒米農家の井上昌樹(いのうえ・まさき)さんを応援するプロジェクトです。

桜川酒造のクラウドファンディング(第2弾)のキービジュアル

井上さんは小国町出身で、山形県の酒米「雪女神」や「出羽の里」を栽培する農家でありながら、石井さんが設立した一般社団法人ヨカモス®にも参画し、桜川酒造の再生をともに担ってきました。2023年からは蔵人として酒造りにも携わっています。

蔵元杜氏に挑戦する井上さんは、石井さん曰く「これからの桜川酒造の主役」。酒米農家として関わってきた経験を活かして、桜川酒造の経営や醸造を引っ張っていってほしいと期待を寄せています。

桜川酒造 井上さんの田んぼ

「井上家は、私の祖父から3代にわたって、桜川酒造にお世話になっています。父の跡を継いで酒米を育てるなかで、いつかは酒造りもしてみたいという思いがありました」

昨年、酒造りに初めて参加した井上さんは「米がお酒になっていく過程がおもしろく、家族や仲間とともに育てた米に、より深い愛情をもてるようになりました」と話します。さらに、ものづくりが好きだったこともあり、思うようにいかない難しさも含めて、酒造りの虜になりました。

そんな井上さんが、これまでの「小国桜川」に抱いていた印象は「やさしいお酒」。派手さはない代わりに、やわらかくどこか懐かしさのある味わいに親しんできたと言います。新ブランドの「Kairagi」も、全体的に華やかな仕上がりになりましたが、桜川酒造らしい「やさしい味わい」は健在とのこと。

桜川酒造の製造現場

桜川酒造の製造現場

「造り手として常に進化していきたいし、応援してくれる方々にも、新しいわくわくを与えたい。ものづくりに正解はないですから、過程を楽しみながら酒造りの経験を積んでいきたいです」

また、酒造りに携わったことで、酒米の栽培にも新たな気持ちで臨めるようになったそう。自分が育てた米をお酒にする喜びは「言葉で表せないくらいの充足感がある」と言います。実際に、酒米の育った環境や特性を知り尽くした井上さんが蔵元杜氏になるのは、酒蔵としても大きな強みになるに違いありません。

桜川酒造 井上昌樹さん

桜川酒造 井上昌樹さん

「私はまだまだ未熟ですし、何より経験が圧倒的に不足しています。これから研鑽を重ねて、いつか自分自身が蔵元杜氏として納得できるお酒を世に出せるように努力していきます」

桜川酒造の広報などを担当する村上友梨(むらかみ・ゆり)さんによると「井上さんは博学で優しくて、何より地元愛のある人。小国町を盛り上げたいという熱意をもって、酒造りにも米作りにも取り組んでいます。井上さんが蔵元杜氏になって始まる、桜川酒造の“第2章”が楽しみです」とのこと。

桜川酒造 村上友梨さん

桜川酒造 村上友梨さん

実は福岡県から小国町に移住したという村上さんですが、年内には小国町から旅立つことが決まっています。今回のクラウドファンディングでは、村上さんも参加するお楽しみ会への参加権もリターン品として提供されます。

その他、地元の酒米農家が栽培した酒米・美山錦を使用した新しい「Kairagi」や、美術作家の平野早依子さんによるオリジナルラベルの「小国桜川」、そして井上さんが育てた新米などもリターン品としてラインナップされています。

桜川酒造のこれから

最後に、石井さんたちが新生・桜川酒造で目指していきたいことを聞きました。

「大量生産による低価格帯の商品を造っていても、地方の小さな酒蔵として生き残っていくのは難しいと考えています。それならば、自分たちにしかできないことをしたい。まずは、テロワールの考え方を大事に、地元の農家が作った酒米を使って、地元の人々がお酒を造るという体制を確立していきます」(石井さん)

桜川酒造のメンバーの集合写真

「そしてその先に見据えているのが、酒蔵を中心としたコミュニティづくり。桜川酒造を起点にさまざまな新規事業が始まり、そのなかで人間関係も醸されていく。そんな地域にしていきたいです」(石井さん)

しかし一方で、「僕はあくまでも中継ぎ」と話します。今年11月には、酒蔵の経営を井上さんを中心とした地元の人々に任せ、石井さんは相談役として関わっていくのだとか。

地元の人々が自分たちの手で自分たちの誇りを守っていく。石井さんたちは、そんなビジョンの実現に向けて進んでいます。

「桜川酒造でできるならと、同じように地域を盛り上げていく酒蔵が増えていってほしいという思いもあります。お酒だけでは事業として厳しい面もありますが、さまざまな取り組みを通してお客様と触れ合うことで、製造の面でも営業の面でも良い効果が生まれ始めています」(石井さん)

桜川酒造の日本酒

長い歴史をもつ酒蔵には、幾度ものターニングポイントがあります。桜川酒造にとっては、まさにそれが今。新しい体制のなかで、桜川酒造はどのように変化していくのでしょうか。

石井さんとともに桜川酒造の再生に取り組んできた村上さんも、「新しい経営体制になってから、蔵人の意識が変わっていくのを感じます。会社としての風通しがよくなったおかげで、桜川酒造としての一体感が生まれました」と話します。

桜川酒造のクラウドファンディングの第2弾は、10月31日(木)まで支援を受け付けています。新たなスタートを切った小さな酒蔵の挑戦を応援してみませんか。

(取材・文:渡部あきこ/編集:SAKETIMES)

◎プロジェクト概要

  • プロジェクト名:318年続く蔵の杜氏を目指す! 地元酒米農家が伝統の酒造り継承に挑戦!
  • 募集期間:2024年10月31日(木)まで
  • リターン品(一部):
    ・井上さんが育てた新米「山形はえぬき」と「YOKAMOSの白い珈琲」のセット
    ・小国町産の美山錦を100%使用した「Kairagi 純米大吟醸 美山錦」のセット
    ・アーティストコラボシリーズの第4弾「純米大吟醸 ぶなの森」のセット
    ・桜川酒造の再建の歩みをまとめたデジタルブック など

Sponsored by 桜川酒造株式会社