「テロワール(Terroir)」とは、ひとことで言うなら、「その土地が持っている、唯一無二の個性」のこと。
もともとはワインの世界で使われてきた用語で、農産物や食品の独自の風味に影響を与える、気候・土壌・地形をはじめとした自然環境や栽培技術、伝統的な製法などを指します。最近では、お茶やコーヒー、チョコレートなどの世界でも広く使われるようになってきました。
テロワールの考え方は日本酒業界でも広がりつつあり、その地域の風土に根差したお酒を造ろうとする取り組みが盛り上がっています。そのひとつが、日本酒「上善如水」で知られる白瀧酒造が推進する「湯沢町 日本酒テロワールプロジェクト」です。

白瀧酒造では、2024年度から、酒蔵のある新潟県湯沢町で栽培した酒米を使った、“オール湯沢”の酒造りを進めています。
雪が多く、険しい山々に囲まれていることから、かつては酒米の栽培に適していないと考えられていた湯沢町で、なぜ白瀧酒造がテロワールに挑戦することになったのか。2年目となる今年度は、昨年度とどんなところが変わったのか。白瀧酒造の杜氏 松本宣機(まつもと・たかき)さんと第三営業部 牛木祐太(うしき・ゆうた)さんに、話をうかがいました。
また、2026年2月に発売された新商品「白瀧 ゆざわ 純米吟醸 原酒」を、日本酒を熟知するインフルエンサーにテイスティングしてもらいました。日本酒の専門家は、どのように評価したのでしょうか。
豪雪地帯という壁を乗り越えて

全国有数の米の名産地である新潟県。白瀧酒造がある南魚沼郡湯沢町でも、昔から食用米のコシヒカリの栽培が行われてきました。
しかし、酒米の多くは、コシヒカリよりも収穫時期が遅い「晩稲(おくて)」の品種。険しい山々に囲まれ、11月には初雪が舞うこともある豪雪地帯の湯沢町では、日照時間の短さや気温の低さが障壁となり、収穫する前に品質を損なうリスクがあります。そのため、継続的に酒米を育てる農家はいませんでした。
それでも、以前から白瀧酒造の社内では、「地元・湯沢で栽培された酒米で日本酒を造りたい」という想いがありました。そんなとき、湯沢町観光まちづくり機構から「湯沢町の特産品開発プロジェクトに参加しませんか」と声がかかります。

白瀧酒造(新潟県南魚沼郡湯沢町)
「担当者と対話を重ねていくなかで、『せっかくなら、湯沢産の酒米を使った日本酒のほうが、特産品としての魅力がより伝わるだろう』という結論に至りました。近年は新潟県内でも気温が上昇傾向にあり、湯沢町に隣接する南魚沼市の塩沢地区でも酒米栽培が広がり始めていたことも、私たちの背中を後押ししました」
そう経緯を説明してくれたのは、このプロジェクトの広報を担当する白瀧酒造 第三営業部の牛木さんです。
「地元産の酒米を使った酒造りに挑戦するなら、今しかない」と考えた白瀧酒造に、まちづくり機構の担当者は「さくらファーム」という地元の農家を紹介します。

「さくらファームの今村代表は、耕作が難しくなった湯沢町内の田んぼを引き受けるなど、湯沢の農業の未来を率いる熱量の高い若手農家さんです。今村さんも『近年の気候変動で、これまでは難しかった品種の栽培ができるようになるかもしれない』と言ってくれて。この出会いが大きなきっかけになりました」
さくらファームという心強いパートナーを得て、新潟県オリジナルの酒米である「越淡麗(こしたんれい)」を、湯沢町で初めて栽培することになりました。こうして、湯沢の米・水・人で日本酒を造る「湯沢町 日本酒テロワールプロジェクト」が本格的にスタートしたのです。

白瀧酒造 代表取締役社長 高橋晋太郎さん(左)と、さくらファーム 代表 今村将哉さん(右)
湯沢町の出身で、地元の酒米で酒造りがしたいという想いを抱いていたひとりでもある、杜氏の松本さんは、次のように話してくれました。
「越淡麗は、新潟県の酒蔵にとって思い入れの強い品種のひとつです。当社でも10年以上使っていますが、仕込み水との相性がとても良いんです。越淡麗で造ったお酒はお客様から好評で、地元で栽培してもらえるのはありがたいことでした」

初年度の栽培面積は、1ヘクタール(1町歩)。酒米づくりのノウハウがないさくらファームにとっては、正解がわからないなかでの挑戦でしたが、新潟県による品質評価で上位に入る素晴らしい出来栄えとなりました。
「越淡麗は長く使ってきた酒米なので、酒造りをするときの取り扱いには慣れていました。ただ、さくらファームさんが栽培した越淡麗は、精米などの原料処理をしたときの割れが少なく、麹も造りやすくて、本当に扱いやすかったですね」
目指したのは「現代的な淡麗辛口」

「白瀧 ゆざわ 純米大吟醸 無濾過生原酒」(左)と「白瀧 ゆざわ 純米大吟醸 火入れ」(右)
初年度となった2024年度は、プロジェクトの成果として、「白瀧 ゆざわ 純米大吟醸 無濾過生原酒」と「白瀧 ゆざわ 純米大吟醸 火入れ」の2種類を発売しました。
白瀧酒造の大きな強みは良質な仕込み水。硬度40ppmほどの軟水ですが、同じ硬度の他地域の水と比べて、口当たりがやわらかく、きめ細やかで軽やかなお酒に仕上がりやすい傾向があります。

「まずは白瀧酒造らしさを表現したい。その想いを実現するため、仕込み水の清らかさをイメージできるような、雑味のない、きれいで透明感のあるお酒を目指しました。そうして、精米歩合50%の純米大吟醸酒とすることが決まりました」(松本さん)
プロジェクトの2年目となる2025年度は、初年度の実績や評価を受けて議論した結果、初年度よりも多くの方々に飲んでもらえるように、スペックを「純米吟醸」に変更。香りや味わいも、白瀧酒造の代表銘柄「上善如水」との明確な差別化を目指しました。
こうして2026年2月に発売されたのが、「白瀧 ゆざわ 純米吟醸 原酒」です。

白瀧 ゆざわ 純米吟醸 原酒
「新潟県の日本酒といえば『淡麗辛口』ですが、キレがあってクリーンなイメージを大事にしながらも、もう一歩踏み込んで『今の時代らしい淡麗辛口に挑戦しよう』という話になりました。具体的には、酸を効かせ、低アルコールで軽やかさを表現しています。
アルコール度数は13度台に設定しましたが、味が薄くなってしまうのではないかという懸念がありました。しかし、雑味のないきれいな味わいと、酸味による引き締まった輪郭を引き出し、最終的に香りと味わいのバランスを調整することで、納得のいく仕上がりになったと思っています」(松本さん)
風土、人、情熱が響き合うテロワール
「白瀧 ゆざわ 純米吟醸 原酒」の香りや味わいを、日本酒のプロフェッショナルはどのように評価するのでしょうか。多方面で活躍するインフルエンサーの2人に、テイスティングしてもらいました。

1人目は、あおい有紀さん。フリーアナウンサーとして活躍しながら、日本酒の専門家として、その魅力を伝えるさまざまな活動を行っています。日本酒の魅力を国内外に発信する功労者の称号「酒サムライ」も叙任されています。

あおい有紀さん
「見た目はクリスタルみたいにキラキラしていて、透明感がありますね。香りは青リンゴのように爽やか。口に含むと、グレープフルーツのような柑橘系のフレッシュでフルーティーな味わいが広がり、その後から、白玉団子を思わせる米由来のやさしい甘みが追いかけてきます。
アルコール度数は低めなので、口当たりがなめらかで軽やか。穏やかな甘みとやさしい酸味のバランスが絶妙で、最後はスッと消えていくような心地良い余韻が楽しめます」
あおいさんは、湯沢産の米と水で造られた“オール湯沢”の日本酒を、「自然環境だけでなく、その地に暮らす人々の挑戦と協働によって育まれた成果」と評価します。

「湯沢のお米、水、人、そして四季が響き合い、テロワールを表現した日本酒が完成したことは、その土地が持つ潜在力の証。高度な技術を持つ白瀧酒造だからこそ、湯沢の地で育った越淡麗の特徴を引き出し、湯沢の風土を軽やかに表現し、完成度の高いお酒を醸すことができたのだと思います。
プロジェクトはこれから3年目を迎えますが、気候などの壁を乗り越えてお米を栽培し、日本酒ができるまでの過程には、多くの試行錯誤や苦労があったことでしょう。湯沢町への誇りを持ち、未来へ繋げていきたいという気概や情熱が、お酒の味わいからも感じ取れます。これからの展開にも目が離せませんね」
2人目は、齋藤太郎さん。SNSやセミナーで日本酒の魅力を発信しながら、熟成古酒の専門店で日本酒を販売した経歴も持ちます。現在は、新潟大学大学院の博士後期課程で日本酒学コースに在籍し、日本酒の価値について深い知見を持っています。

齋藤太郎さん
「第一印象は爽やかですが、全体として穏やかな印象を感じる香りです。味わいは軽快ですが、上品な甘みがしっかりと感じられます。包み込むような優しい酸味があり、全体のバランスとしてとてもスムースだと思います。
白瀧酒造が『上善如水』で長年守り築いてきた瑞々しさがありながら、そのなかにほんのりとした甘みが加わっていますね。きれいなお酒を造る酒蔵としてのイメージは保ちつつ、『上善如水』と少し違う新しいお酒を造ろうとしているのが伝わってきます」
齋藤さんは、「白瀧 ゆざわ 純米吟醸 原酒」を、「何にでも寄り添えるお酒」という言葉で表現します。

「日常の料理に合わせやすそうですし、あえて食事と合わせずにちびちび飲むのもいい。常に自分のそばに寄り添ってくれるような、そんな存在のお酒だと思います。塩の焼き鳥や生ハムなどと相性が良さそうです。お酒が料理の味をまろやかにし、料理がお酒の奥にあるほのかな旨みを引き出してくれる、そんな相乗効果があると思います」
日本酒学という観点から、大学院で酒蔵の役割について研究している齋藤さん。「地元で育てられた酒米を使うことは、白瀧酒造のこれからの発展にもつながるはず」と分析します。
「白瀧酒造は地元の水を使った酒造りをしていますが、米づくりをすることによって、『湯沢にはこういう特性もあるんだ』という新しい気付きがあったはずです。それは、地元の環境づくりを含めて、自分たちの酒造りにフィードバックされていくでしょう。その結果として、お酒がよりいっそう『湯沢らしさ』をまとっていくのではないかと思います」
“オール湯沢”は、長年の願いから定番へと変わる
今年2月に発売された「白瀧 ゆざわ 純米吟醸 原酒」について、松本杜氏と牛木さんは「湯沢町 日本酒テロワールプロジェクト」にとって軸になる一本だといいます。

「初年度は2種類を発売しましたが、『どちらが地元を代表するお酒なのかがわかりにくい』という意見もありました。そこで原点に立ち返り、フラッグシップとして造ったのが今回の商品です。口当たりが良く、酸味があってすっきりした味わいは、湯沢の夏に吹き抜ける風のような爽やかさに通じると思っています」(牛木さん)
松本さんも、「今後も取り組みを継続していくなかで、今回の商品をフラッグシップとして据えることで、新たな挑戦としての純米大吟醸酒や純米酒にも展開しやすくなると思います」と付け加えました。

「田植えや稲刈りなど、白瀧酒造の社員も米づくりの作業に参加し、栽培の様子を定期的に記録しています。『この田んぼのお米がこのお酒になるんだ』と実感することで、社内の雰囲気も変わったように感じます」と、熱を込めて話す牛木さん。
地元産の酒米を使った日本酒について、取引先の酒販店からは、「ようやくだね」という反応があったのだとか。牛木さんは「湯沢の酒蔵なら、湯沢産米の日本酒は『造って当たり前』だと思われていたようです」と苦笑いしますが、地元の人々にとっても、“オール湯沢”の日本酒はそれほどの念願だったといえます。
「湯沢に来たら、地元のお米と水で造った『白瀧 ゆざわ』を飲むのが定番になってほしいし、そこから全国の人に『湯沢という町に白瀧酒造がある』ということを知ってもらいたい。
『白瀧 ゆざわ』には、そんなふうに、地元を象徴する存在になってほしいという想いを込めています。湯沢の酒蔵としてのテロワールの取り組みを、来年度以降も広げていきたいですね」(牛木さん)

170年以上にわたり、湯沢町に根付いた酒造りを続けてきた白瀧酒造。「湯沢町 日本酒テロワールプロジェクト」から生まれた日本酒「白瀧 ゆざわ」は、地元で育まれた米と水を通して、この地にまだ秘められている魅力を伝えています。
(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)
◎プロジェクト情報
◎商品情報
- 商品名:白瀧 ゆざわ 純米吟醸 原酒
- 原材料:米(新潟県産)、米麹(新潟県産米) ※湯沢産越淡麗100%
- 精米歩合:60%
- アルコール度数:13度以上14度未満
- 商品名:白瀧 ゆざわ 純米大吟醸 無濾過 生原酒
- 原材料:米(新潟県産)、米麹(新潟県産米) ※湯沢産越淡麗100%
- 精米歩合:50%
- アルコール度数:16度以上17度未満
- 備考:すでに完売しました。
- 商品名:白瀧 ゆざわ 純米大吟醸
- 原材料:米(新潟県産)、米麹(新潟県産米) ※湯沢産越淡麗100%
- 精米歩合:50%
- アルコール度数:15度以上16度未満
- 備考:すでに完売しました。
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