2020年に発売30周年を迎えた白瀧酒造(新潟県)の「上善如水」は、2021年3月に定番商品「純米吟醸 上善如水」をリニューアルします。

2009年に上善如水の全量を純米規格に切り替えて以来、12年ぶりとなる今回のリニューアルのポイントは2つ。ひとつは精米歩合です。精米歩合を60%から55%に変更し、さらにすっきりとした飲み口になりました。

もうひとつはパッケージデザイン。シルバーとホワイトを基調としたこれまでのイメージを踏襲しつつ、よりシンプルなデザインに変わります。

白瀧酒造では、2019年春にリニューアルのプロジェクトが立ち上がり、社長・杜氏・外部のデザイナー・社内各部門の社員たちが、何度も会議を開いて意見交換をしてきました。

さまざまな立場の関係者が参加することで、多角的な視点から検討された上善如水のリニューアル。プロジェクトメンバーに、上善如水に対するそれぞれの思いをうかがいました。

追求したのは「水のやわらかさ」

最初に話をうかがったのは、製造本部長で杜氏を務める松本宣機さんです。2017年7月に杜氏に就任し、製造全体の指揮を執っています。

杜氏・松本宣機さん

杜氏 松本宣機さん

「杜氏になったときから、上善如水が変わるときが来るだろうと、漠然と考えていました。造り手として精米歩合の5%の変化で酒質がどのように変わるかを楽しみに感じつつ、いざ動き出すと、白瀧酒造を30年間も支えてきた看板商品をリニューアルすることに不安があったのも確かです」

まずは、酒質の方向性を探るため、前杜氏・山口真吾さんへのヒアリングや発売当時の資料の調査など、必要な情報収集を行なったという松本杜氏。

さらに、上善如水の製造・販売に長く携わってきた先輩社員にも話を聞く中で、あらためて感じたのは、地元・越後湯沢に古くから残る地名「谷地(やち)」の湧き水の価値でした。

「上善如水のやわらかい味わいは、この仕込み水でないと出せない。水の良さを活かして造っていこうと考えました。すっきりとしたクリアな飲み口は変えずに、水の"やわらかさ"をさらに追求しようと。精米歩合が変わると微生物の働き方も変わるので、その中でより良い酒質を目指すのは難しかったですね」

パッケージ

味のバランスを少しずつ変えながら、試作・試飲を繰り返していった松本杜氏。プロジェクトメンバーの意見を取り入れながら、約1年をかけて、新たな酒質が定まりました。

これまでも新商品の開発に携わってきた松本杜氏ですが、上善如水のリニューアルに関してはより緊張感があったといいます。

「特に季節商品は期間限定で販売されるものも多く、お客様の反応を見て次の商品づくりに活かす、チャレンジの場でもあります。しかし、『純米吟醸 上善如水』は白瀧酒造の看板商品なので、特にプレッシャーを感じました。ただ、最終的には全員が納得できる味わいに仕上がったので、期待も大きいですね」

上善如水の最盛期を支えた先輩社員、熱意のある若手社員に囲まれ、「酒質のリニューアルは、まわりの協力がなければ進められなかった」と、松本杜氏は話します。

また、製造部のメンバーには、会議で話し合われた内容をすぐにフィードバック。松本杜氏の迅速な情報共有もあり、現場の人たちは落ち着いて仕事ができていたといいます。

上善如水リニューアル

「上善如水が30周年を迎え、自分自身も30歳になりました。これも何かの縁だと思いますし、リニューアルに関われて光栄でした。とはいえ、まだゴールではなく、お客様にどう感じていただけるかが重要ですね」

盲点だった、若手社員の意見

続いて、パッケージデザインのリニューアルに携わった、デザイン会社「Pデザイン研究所」の山賀慶太さんに話をうかがいました。

新潟県出身の山賀さんは、主に県内の食品や酒類のパッケージデザインを手掛けています。白瀧酒造とは約15年の付き合いがあるそうで、前回のリニューアルでも、商品デザインを担当。今回のプロジェクトにも発足当初から参加しています。

デザイン会社「Pデザイン研究所」」の山賀慶太さん

デザイン会社「Pデザイン研究所」の山賀慶太さん

「上善如水の『水のように、自然に流れる生き方こそが理想だ』というコンセプトをデザインで表現するのが、自分の仕事でした。前回のリニューアルでは、吟醸酒から純米吟醸酒へと中身が大きく変わったので、パッケージも一新しましたが、今回はあえて、大きな変更はしていません」

実は、プロジェクトの発足当初は、パッケージデザインを大きく変える方向で話が進んでいました。メインカラーを青にしてみたり、波を表現したデザインにしてみたり、瓶の形状を変更するアイディアもあったそうです。

しかし、ある時期から元のデザインに近いものに立ち返っていきました。

デザインイメージ

「盲点だったのは、会議の中で『上善如水』を読めない人が多いという話が出たことです。商品に長く携わっている私たちは当たり前に読めますが、『初めて見た人は読めないのではないか』という意見が若手社員の方々からあがったんですね。

そこで、『ジョウゼンミズノゴトシ』というカタカナを従来よりも大きめに配置しました。また、かすれたように見えていた商品名のフォントも変更し、フラットなデザインにしています。私も白瀧酒造の“中の人”の視点になっていたので、こういう意見が出てくるのは新鮮でしたね」

紆余曲折したデザイン案を回想しながら、「前回のリニューアルではあのデザインがベストでしたが、現代に合わせたデザインとは何かを考えました」という山賀さん。

その答えにたどり着くためには、トレンドを追うのではなく、商品の価値やコンセプトに何度も立ち返って考えることが大切だと話します。

上善如水のボトルと箱。

「純米吟醸 上善如水」のボトルと箱。左はリニューアル前、右はリニューアル後。

「10年も経つと世の中の状況も、日本酒の存在意義も変わってくる。従来品とリニューアル品を見比べると、一見して大きな変化は感じられないかもしれませんが、細かい部分で、商品そのもののアップデートを表現できました」

今回のリニューアルでは、酒質の検討と同じくらい、パッケージデザインにも多くの時間をかけて意見交換が行われました。山賀さんは「しっかり議論したからこその出来栄え」と、その成果に手ごたえを感じている様子でした。

40年目に向けて、上善如水を守り続けたい

「上善如水を若い人にももっと飲んでほしい」との思いから、営業部の佐藤賢さんと蔵本あゆみさんも、会議に参加しました。ふたりとも20代の若手社員です。

「会議は毎回2時間で、前半はデザインの話、後半は酒質の話が中心でした。山賀さんのデザイン案を確認したり、飲み比べたりして、みんなで意見を出し合いながら話を進めていきました」(佐藤さん)

佐藤賢さん

営業部 佐藤賢さん

ベテラン社員も多く参加する会議のなかで、若手の代表として、また実際に取引先と顔を合わせる営業担当として、積極的に意見やアイデアを発信したそうです。

「特に気になったのはデザインの部分。従来品もスタイリッシュな印象で良いのですが、シルバーに白文字で商品名が入っているので、売り場から離れて見たときに、店内の照明に反射して文字が見えにくかったんです。もっと視認性の良いデザインにしたいと伝えました」(蔵本さん)

蔵本あゆみさん

営業部 蔵本あゆみさん

「私はパッケージにたくさんの情報が書いてあるのが気になっていました。パッケージに細かい情報を載せても、日本酒ビギナーの方はあまり読まないのではと思っていたのです。新しいパッケージデザインはシンプルで、わかりやすくなりました」(佐藤さん)

スーパーマーケットなどの売り場では棚での印象が売上を左右するため、佐藤さんと蔵本さんは商品のデザインも重要な要素だと話します。そして、酒質についても太鼓判を押します。

「さらにやわらかい味になったので、日本酒が初めての方にも飲んでいただきたいです」(蔵本さん)

「デザインが良くなっても、見た目の印象と実際に飲んだときの印象にギャップがあったら、お客様は離れてしまいます。その乖離がないようにするのも、今回のリニューアルで意識したポイントです」(佐藤さん)

パッケージ

「純米吟醸 上善如水」の箱の側面。左はリニューアル前、右はリニューアル後。

新潟県出身の佐藤さんと蔵本さんに、入社以前の上善如水の印象についてたずねると、「スーパーの売り場によく置いてあるイメージ」(佐藤さん)、「大学の先輩に飲みやすい日本酒を聞くと、最初に名前が挙がる」(蔵本さん)とのこと。

白瀧酒造に入社し、今回のリニューアルを経て、その印象はどのように変わったのでしょうか。

「自分が生まれる前から飲まれていたのは単純にすごいと思います。会議に参加して、上善如水がどういうお酒なのかを深く理解できたので、商談でも自分の言葉で上善如水の魅力を話せるようになりました。これから40年目に向けて、その魅力を守り続けていきたいです」(佐藤さん)

「発売以来、魅力である『飲みやすさ』はずっと変わっていないので、時代に合わせた新しさを提案しながら、長く続く日本酒にしたいですね」(蔵本さん)

"日本酒の入門酒"であり続ける

「今回のリニューアルは、特にみんなで作り上げていった感触がある」と語るのは、白瀧酒造の高橋社長。

高橋社長

代表取締役社長 高橋晋太郎さん

「白瀧酒造のメインを張る商品なので、『上善如水をどんなお酒にしたいか』を話し合うところからスタートしました。そのため、普段の商品開発よりは時間がかかりましたね。

そのぶん、ブランドの存在意義について社内で共通認識を持てる良い機会になりました。これから実際に売るときに、みんなが自分たちの関わった商品だと思えますよね」

上善如水の新パッケージ

「お客様に『若いころに最初に飲んだ日本酒です』と言っていただくことが多く、"日本酒の入門酒"であり続けることが、この上善如水の存在意義なのだと思います。『初めての日本酒は上善如水』という次世代の日本酒ファンを増やしていきたいですね」

前回のリニューアルを知る人にとっては、精米歩合やパッケージデザインの変更は、些細な変化だと感じるかもしれません。しかし、話をうかがったメンバーの方々は「飲んでもらえれば、その違いを感じてもらえる」と口をそろえ、新しい上善如水の出来栄えに自信を感じさせてくれました。

発売から30年の歴史を持つ上善如水が、これから何十年先も愛される商品となるために、今回のリニューアルは大きな一歩となるでしょう。新しく生まれ変わった「純米吟醸 上善如水」の発売は、2021年3月8日。新しい「上善如水」に出会えるその日を楽しみに待ちましょう。

(取材/芳賀直美、編集/SAKETIMES)

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