2021年3月8日、新潟県の白瀧酒造の代表銘柄「純米吟醸 上善如水」がリニューアルして発売されました。

2009年に全量を純米規格に切り替えて以来、12年ぶりとなる今回のリニューアル。精米歩合を60%から55%に変更し、よりすっきりとした味わいに仕上げ、パッケージもさらに洗練されたデザインへとブラッシュアップされました。

上善如水リニューアル

2020年9月に、発売30周年を迎えた「上善如水」。白瀧酒造のパートナーとして、長きにわたって「上善如水」を取り扱ってきた地元・越後湯沢の酒屋の方々は、今回のリニューアルにどのような思いを寄せているのでしょうか。1990年の発売当初から縁の深い、2軒の酒屋を訪ねました。

「すっきりと香りのある日本酒の先駆け」

最初にうかがったのは、JR越後湯沢駅から徒歩5分の場所に店を構える「山新商店」です。

地酒Bar山新の外観

創業は今から90年前と、歴史のあるお店。食品雑貨店から始まり、酒類や食品の卸、瀬戸物の販売、地酒も扱う食品スーパーなど、時代に合わせてさまざまな業態の変化を遂げてきました。

8年ほど前に店舗の一部を改装して、「地酒Bar山新」をオープン。居酒屋と酒屋が併設するスタイルになり、3代目の高橋綾夫(あやお)さんと、その息子の善徳(ぜんとく)さんがお店を切り盛りしています。

山新商店/地酒Bar山新の三代目店主・高橋綾夫さん

山新商店/地酒Bar山新の3代目店主・高橋綾夫さん。バーでは調理も担当。

「同じ蔵の商品でも、造りの違いによって味わいが大きく異なることをもっとお客様に伝えたい。また、食中酒として、日本酒とおつまみをいっしょに楽しんでほしかった」と、綾夫さんは居酒屋を始めたきっかけを話します。

山新商店/地酒Bar山新の高橋善徳さん

息子の善徳さん。地酒Bar山新では接客担当としてお客さんにお酒を薦めることも。

新潟県の日本酒を常時100種類ほど揃えている山新商店では、バーでお酒や食事を楽しんだあと、気に入ったお酒をその場で購入することもできます。バーで接客を担当する善徳さんによれば、「有料試飲と居酒屋の中間といった雰囲気のお店です」とのこと。

山新商店の冷蔵ケース

冷蔵ケースにずらりと並ぶ地酒の中には、「上善如水」をはじめとする白瀧酒造のラインナップも豊富。山新商店は、「上善如水」が発売された当初から取り扱いを始めました。

「『上善如水』が発売された1990年、私は県外に住んでいました。帰省したときに『白瀧さんからこんなお酒が出たんだよ』と教えてもらったんです。当時としてはパッケージのデザインも斬新で、売場でも特に目立っていました。

アルコール度数が14度と日本酒としてはやや低く、当時、日本酒をほとんど飲んでいなかった私も『これなら良いかも』と思って飲んでみたら、とてもおいしかった。『上善如水』をきっかけに日本酒を飲み始めたんです」(綾夫さん)

今でこそ、すっきりとして香り高い吟醸酒は多くの酒蔵で造られていますが、当時はあまり市場に出回っていなかったのだそう。「『上善如水』はその先駆けだったのでは」と綾夫さんは語ります。

地酒Bar山新の店内

地酒Bar山新の店内

「白瀧酒造の先代の高橋敏さんは、『これからはターゲットを明確に絞らなければ駄目だ』という方針を掲げていて、『上善如水』は日本酒に馴染みがない若者を主なターゲットにしていました。当時、幅広い年代に向けて造る商品が多かった中で、ターゲットを絞ったのは革新的なできごとだったと思います」(綾夫さん)

「昔は飲んでいた」という人にこそ、飲んでほしい

日本酒業界に大きなインパクトを与えた「上善如水」は、2009年にアルコール添加の吟醸酒から純米吟醸酒へと大幅なリニューアルを果たします。

そのころの印象を、「ライトユーザーだけでなく、お酒が好きな人からも好かれる味わいになった」と振り返る善徳さん。当時、白瀧酒造の高橋晋太郎社長はリニューアルに向けて並々ならぬ決意を口にしていたそうです。

「高橋社長が、『上善如水が発売されたころに飲んでいたお客様の中には、一度は日本酒から離れてしまった人もいるはず。その方々がまた戻ってきたときに、おいしいと思ってもらえるお酒を造る』と語っていたことをよく覚えています。

だから今、『昔は上善如水を飲んでいた』と話すお客様が来店したときに、『今の上善如水はこんなお酒なんですよ』と薦めるようにしているんです。そのあとの反応が毎回楽しみですよ」(善徳さん)

山新商店の販売スペース

山新商店の販売スペースには、「上善如水」シリーズをはじめ、地元のお酒が並びます。

「上善如水」の30年の歩みを、売り手として、また飲み手として見守ってきた高橋さん親子。今回のリニューアルについても、これまでの魅力を残しながら挑戦を続ける白瀧酒造に対して、大きな期待を寄せています。

「今回のリニューアルで造りの指揮を執った松本杜氏には、真面目な好青年という印象を持っています。毎年、彼の成長を日本酒の味わいから感じ取ってきたので、特に心配はありません。新たな『上善如水』がどんなお酒になっているのか、ただただ楽しみにしています」(善徳さん)

「最近、リニューアルする前の『上善如水』をあらためて飲んでみたんです。14度台のアルコール度数がちょうど良く、甘さや香りのバランスも良いお酒だとつくづく感じました。今回のリニューアルで原点に戻った味わいを、そして私があらためておいしいと感じた気持ちを、お客様にうまく伝えていきたいと思います」(綾夫さん)

白瀧酒造の思い出は、井戸から汲んだ"おいしい水"

続いて訪れたのは、JR越後湯沢駅の駅前にある地酒専門店「タカハシヤ」です。

タカハシヤの外観

1952年に土産物店として創業し、現在は日本酒をメインにワインや焼酎など、新潟県産にこだわった地酒を販売しています。特に、新潟県内でしか流通しないお酒の取り扱いが豊富で、「ここに来ればレアなお酒が買える」と、県外からのリピーターも多い人気店です。

タカハシヤの店内

タカハシヤの店内。他店では取り扱いの少ない、レアな地酒も揃います。

新潟県内の22蔵、年間を通して200種以上もの日本酒を扱う同店では、定番の「純米吟醸 上善如水」のほか、越後湯沢にある3店の酒屋でしか買えない「越淡麗の上善如水 純米大吟醸」や、「12ヶ月の上善如水」シリーズなども揃えています。

3代目店主を務めるのは、数年前に店を継いだばかりの高橋昭博(あきひろ)さん。湯沢町出身で、幼いころから近所に白瀧酒造がある環境で育ちました。「上善如水」が発売された当時、どのような印象を持っていたのでしょうか。

タカハシヤ3代目店主の高橋昭博さん

タカハシヤの3代目店主・高橋昭博さん

「『上善如水』の発売当時は東京に住んでいて、年末年始などで帰省した際に店を手伝っていました。当時は日本酒ブームでしたが、その中でも『上善如水』は『すごく売れる』という印象でしたね。アルコール度数が少し低めで飲みやすく、デザインも当時としては斬新。味わいとデザインが画期的で、若者に受け入れられていったのではないでしょうか。

上越新幹線が開通して、映画『私をスキーに連れてって』の影響でスキーブームが起こり、新潟県の日本酒もブームになりました。時代背景にもマッチしていたんだと思います。今でも、『昔はよく飲んでいた』と言って来店してくれる方も多いです」

当時は、あまり日本酒が得意ではなかったと話す高橋さん。しかし、帰省先から東京に戻った際、近所の酒屋に「上善如水」が並んでいるのを見て「ちょっとうれしい気持ちになった」と振り返ります。地元で造られたお酒が県外でも当たり前に販売されている様子は、湯沢町で育った高橋さんの目に誇らしく映ったのかもしれません。

「白瀧酒造のことは昔から知っていますが、子どものころは『お酒を造っているところ』ぐらいの認識しかありませんでした。ただ、以前の社屋のときは事務所に井戸水が湧き出ていて、その水を地元の人が飲めるようになっていたんですね。私も小学生のときにしょっちゅう事務所にお邪魔して『水飲ませてください!』と一声かけて飲んでいました。そのときに飲んでいた水が、とてもおいしかったことを覚えています」

「上善如水」は日本酒の入門

バーカウンターのあるショールームを開設したり、「12ヶ月の上善如水」のようなユニークな商品を展開したりする白瀧酒造について、「新たな挑戦を続けているイメージ」と、その印象を話す高橋さん。

お酒の味わいについても、雪どけ水のようなやわらかい口当たりが魅力だと語ります。

「やはり、名前に『水の如し』とあるので、水のように飲みやすいお酒という印象がお客様にもあると思います。うちの店では毎年秋になると、お客様にブラインドで日本酒を飲んでもらって、好みに合わせてランク付けをしてもらうイベントを開催するんです。すると、『上善如水』が毎回上位にランクインします。口当たりのやわらかさと味わいの良さはトップクラスだと思いますね」

タカハシヤのPOP

スタッフお手製のPOP。リニューアルについてもしっかりと告知されています。

「上善如水」がリニューアルすることについて、「店頭での取り扱いが始まったら、リニューアル前の商品とリニューアル後の商品を並べて販売するのもおもしろそう」とアイディアを膨らませる高橋さん。

そんな遊び心が生まれるのも、「数ある新潟県のお酒の中で、『上善如水』がひとつのブランドとしてしっかりと確立されているから」と話します。

「新潟県のお酒といえば、まず淡麗辛口のイメージがある。最近ではフルーティーなお酒も人気が出てきました。ところが、『上善如水』はそのどちらにも当てはまらないんですよね。すっきりしているけれど辛口とは違うし、フルーティーさが強いわけでもない。ニッチなところにある唯一無二のお酒だからこそ、きっと長く愛されるブランドになったんですね。

それからもうひとつ、『上善如水』の一番のポイントは"日本酒の入門酒"といった位置づけにあると思います。売る側としてもすごくありがたいお酒ですし、『若い人に日本酒を知ってもらいたい、飲んでもらいたい』という思いはこの30年間でも変わっていないはず。少子高齢化の時代で若い飲み手が減っているかもしれませんが、変わらず入門酒であり続けてほしいと思います」

上善如水リニューアル

お話をうかがった酒屋のみなさんの語り口や思い出からは、「上善如水」と白瀧酒造に抱いている大きな信頼感と、発売当初から魅力を知っているからこその親しみがひしひしと伝わってきました。

湯沢町でお酒を扱う人たちにとって、「上善如水」は欠かすことのできないアイデンティティーのような存在なのかもしれません。町を代表する銘柄の新たなスタートに拍手を送るような、そんな温かさが感じられる取材でした。

(取材:芳賀直美/編集:SAKETIMES)

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