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月桂冠でただひとり”杜氏”の肩書きをもつ人物。 日本酒文化の伝道師・相川さんのものづくり精神

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「世界最高品質」をモットーに、高い技術力を保ちながら消費者ニーズに合わせた幅広い商品を提供する月桂冠。SAKETIMESでは、月桂冠を支える職人たちの酒造りへの情熱と、その取り組みをシリーズ連載で追っています。

今回は、月桂冠株式会社醸造部 生産技術課・相川元庸杜氏にお話をお伺いしました。

相川さんは、1988年に月桂冠に入社。12年間、酵母の研究を行った後に技術部、そして醸造部に移り造りの経験を経て、2013年に但馬杜氏になりました。 酵母研究のプロフェッショナルでありながら、月桂冠の中でもただひとり「杜氏」という肩書きを持ち、長年培った酒造りの技術を伝える相川さんには、どのような”ものづくり精神”があるのでしょうか?

酵母研究のプロから杜氏へ ─ その異例の経歴

月桂冠に入社し、酵母の研究を重ねてきた相川さん。月桂冠はかねてより酵母研究に優れており、多くの特許権を取得してきました。例えば、吟醸酒に特徴的な華やかな香りができる仕組みを解明したり、酸味をコントロールする酵母もそのひとつ。月桂冠はそれらの特許技術を広く開放し、月桂冠開発の技術が活用された酵母を、協会酵母として数多くの酒蔵が使用しています。月桂冠の酵母研究が、今日の日本酒業界全体の酒造りを支えるものとなっているのです。

相川「大学4年生のときに酒造りの見学にいった際、酵母の素晴らしさに魅せられたんです。化学物質が反応する時は大きなエネルギーが必要ですが、微生物が反応する時はエネルギーはほぼ必要ありません。そう考えると、当時、温暖化など現在地球が抱える大きな課題に対しても、ヒントになる可能性があると感じました。それまでまったく異なる研究をしていたのですが、『これしかない!』と酵母の研究にすぐさま方向転換しました。
自分はものづくりに携わる者であり、研究者でもあるので、誰も知らないことを見つけたいという気持ちが強いんです。ですので、自分の信じる微生物の一種である酵母で世界初の発見をするのはこの上ない楽しさでしたね」

その後、相川さんは技術部に異動し、寒造り蔵の品質管理を担当しました。当時、月桂冠では四季醸造の体制を敷きながら、日本酒造りにおける昔ながらの技術や文化を習得・継承するため、山内(秋田)・南部(岩手)・越前(福井)・丹波(兵庫)・但馬(同)・広島の6流派の杜氏を迎えていました。社員技術者と外部杜氏の双方が、切磋琢磨しながら造り技術を研鑽していたそうです。相川さんは、この6流派の酒造りを束ねる部署に所属しながら、昔ながらの酒造り手法や流派の違いを細部まで学びました。現在では農閑期に出稼ぎで酒造りに携わってもらうという体制は無くなりましたが、相川さんは但馬杜氏と酒造りを行う中で、杜氏になることを決意したそうです。

相川「当時ご一緒していた杜氏の方々の、身に染み付いた技術には驚きの連続でした。例えば、酒造りに大事な温度調整は、温度計を使用せず体感で行うんです。僕も体全体で酒造りを覚えたいと思いました。
また、杜氏は酒造りの総責任者。技術だけでなく、チームを指揮するため人柄も重要です。単に技術がトップレベルなだけでなく、精神的にもトップレベルでなくてはならないと自負しています」

相川さんは、現在でも自社にどとまらない”横のつながり”に力を入れています。伏見を中心とした酒蔵で、日本酒造りの現場を担う30〜50代の技術者グループを形成し、勉強会などを通して技術共有を行ってきました。はじめは5〜6人だったグループも、今や70人もの規模になり、他県から参加する人も多くいるそうです。

相川「酒造りの世界でも、技術向上のためには杜氏同士のつながりが大事でした。同じ技術でも、蔵によって米も水も違うので、同じ味は絶対に造れません。であれば、良い技術は共有すべきだし、日本酒造りに携わる者全員でより良いものを造ればいいと思っています」

内蔵で酒造りをする誇りと意味

相川さんが酒造りを行う「内蔵」は、月桂冠大倉記念館に隣接し、多くの蔵見学者が訪れます。相川さんは、お客様との交流の中で、市場のニーズを発見しているそうです。


内蔵の中庭


内蔵の入り口

相川「内蔵の一番の特徴は、お客様の顔が見えることです。自分たちが良いと考えて造るお酒は、お客様の望むお酒と違うかもしれない。内蔵でお客様と実際お会いしてお話しすることによって、気づくことがたくさんあります。
内蔵は、月桂冠社員が酒造りを体験し、その文化や技術を学ぶ場所にもなっているのです。お客様の顔を想像しながら、お客様が手にとって喜んでもらえるものを追い求める。月桂冠の若い造り手には、そこまで考えて造りに取り組んでほしいと考えています。だからこそ、この記念館にお客様の反応が見える酒香房があることは、意義深いのです」

相川「月桂冠は昭和36年から、四季醸造の体制で年間雇用の社員による酒造りに取り組んできましたので、技術的に杜氏レベルの人間は社内にもたくさんいると思います。ですが、僕はその中でもひとりだけ”杜氏”を名乗る身として、日本酒造りの文化伝承や精神的な部分を支える役割も担っていると考えています。なので、内蔵では単に社員に、いわゆる手造りの作業を通じて酒造りに触れてもらうというだけでなく、内蔵でしかできない技術体験と日本酒造りの精神を感じてもらっています。それは伝統ある日本酒造りの原点を学ぶということでもあるんです」


蔵の内部の様子

内蔵で製造された「月桂冠酒香房 しぼりたて生原酒」は、月桂冠大倉記念館だけで販売されている商品。スペックは大吟醸で、香りがよく、やや辛口のふわっと軽いお酒だと相川さんは説明します。香りを追求する一方で、決して味を濁さず、”これぞ大吟醸”という仕上がりを追求しているそうです。

酒造技術を知り尽くした杜氏が考える、月桂冠のものづくり精神

相川さんが考える月桂冠のものづくり精神は、世界でNo.1の品質を実現すること。そして、現状に甘んじず、さらに高品質の商品を目指し続けることだと言います。「満足することなく良いものを造り続けること。お客様のことを考えてものづくりをし、手にとってもらえること。月桂冠の酒造りに携わる者は、この2点を大事にしています」と相川さんは続けます。

相川「月桂冠が考える良いお酒は『社会にとって良いお酒』です。そのために研究を重ね技術を開発し、お客様が月桂冠を信じて手にとってくれるお酒を造る。この基本を、繰り返し実現し続ける月桂冠でありたいですね」

月桂冠唯一の杜氏であり、同時に酵母研究のプロフェッショナルという顔を持つ相川さんは、酒造りの文化や技術を、会社を超えた多くの人に伝える役割を担っていました。

「酒造りは楽しくてたまらない。もっと多くの人にこの楽しさを伝えたいです」と笑う相川さんの原動力は、”酒造りが好き”という気持ちでした。

好きだからこそ、極めて伝えたい―酒造りを知り尽くした相川さんには、そんなエネルギーが溢れていました。

(取材・文/石根ゆりえ)


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