日本が誇る大手酒蔵メーカー「月桂冠」に宿るものづくりへの情熱に迫る本シリーズ。前回は、年間11万石もの製造量を誇る大手一号蔵責任者・高垣さんの酒造りに対する情熱をお届けしました。

第3回となる今回は、月桂冠入社3年目の若手職人・藤川正樹さんと、入社41年目のベテラン職人である森下恒二さん、2人の造り手に話を伺いました。

社歴差はなんと38年!若手とベテラン、酒造りに対する意識の違いや共通点はいかなるところにあるのでしょうか?

入社前のイメージとのギャップに苦しみながらつかんだ、酒造りの本質

まずご紹介するのは、月桂冠株式会社醸造部大手一号蔵の藤川正樹さん。藤川さんは現在、入社3年目。月桂冠の純米大吟醸酒「鳳麟」の造りに携わっています。月桂冠の吟醸酒製造ラインは若手が中心となって活躍しており、そこで洗米から搾りまで、酒造りの工程をワンストップで学び体得していきます。藤川さんも入社後2年で一通りの工程を経験しました。

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藤川「『鳳麟』は月桂冠の中でも高級クラスの酒として手にとっていただくことが多い商品。造りはもちろん、麹や米などの材料からこだわっています。まだ飲んだことのない方には、ぜひ一度お試しいただきたいですね。そしてこれからも、胸を張って、これは良いものだと自信が持てる造りをしていきたいです」

藤川さんは2014年4月に新卒で月桂冠に入社し、酒造りのキャリアをスタートさせました。入社した当時は、社内の文化やイメージが思っていたものと異なり、戸惑った部分もあったそうです。

藤川「入社する前の月桂冠に対するイメージは、『機械化によるシステマチックな酒造り』でした。実際、酒造りの現場では機械も活用するのですが、思っていたよりも手作業の比重が大きく、必ず官能による判断が加味されていたのです」

すべてが機械化されスマートに行われていると思っていた酒造りが、実は人の力にも大きく頼った、ともすれば泥臭くも感じる作業だった。当時は、イメージとのギャップに悩み、さまざまな方に相談したそう。ときには、何十年もの経験があるベテラン技術者に「こうした方がもっと良いのでは」と意見を言い、ぶつかり合うこともあったそうです。

しかし、酒造りを学ぶ中で、徐々にその本質が分かり、藤川さんの悩みはすっかりなくなりました。

藤川「酒づくりの本質とは、もの自体をきちんと見ることだと考えています。ものづくりにおいて、機械にすべてを頼ることは到底できず、人の感覚や感性もまちがいなく必要だということを学びました。月桂冠には、昔ながらの酒造りを踏襲している蔵や、機械化による分業が際立つ蔵など、さまざまな特徴をもった蔵があります。しかし、やっていることの本質はどこも同じ。生産量や商品の性質に合わせて、手作業で造る部分と機械で造る部分を分けているだけで、そのやり方自体は本質ではないと思います」

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2年を経て感じる、酒造りの奥深さ

酒造りの技術を習得するには長い年月が必要になりますが、月桂冠では若手の職人を造りの現場に就かせて、自らが造りの方法を考えるというチャレンジの場があります。藤川さんも入社2年目にして、「こうしたら良いのではないか」と思うやり方を試したそうです。結果は思うようにいかず、あえなく失敗。しかし、月桂冠にはそんな失敗を許す風土があります。前例のない方法を技術検証できたという意味では「とても有意義だった」と藤川さんは語ります。

藤川「月桂冠には、”前例のないことをやる”という文化があります。新たな醸造技術の発見へとつながるチャレンジに、大手メーカーである月桂冠だからこそ取り組むべきことだと思います。ですので、どんな失敗も『新しい発見ができたという成功のひとつ』であると考えます』

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酒造りを通して、藤川さんがもっともうれしい瞬間は、自分の携わった商品がお客さんに喜ばれることだそうです。「両親が自分の造ったお酒を喜んでくれて。さらに多くの方々の手に届くと思うと、鳥肌が立つほどうれしいです」と藤川さんは笑顔で語ります。

2年という期間で日本酒造りの技術や哲学を学び、月桂冠での仕事に誇りを持ち、さらに挑戦し続ける藤川さんは「日本酒造りの奥深さは計り知れない」と言います。

藤川「日本酒造りの奥深さは、まだ到底計りきれたとは言えません。技術を学べば学ぶほど、未知の奥深さが広がっていきます。一方で、ものづくりを担う職人のひとりだからこそ、経験には関係なくプライドがあります。これからもっと経験を積み、先輩からたくさん教わりながら、日本酒造りの深淵にたどり着きたいです」

月桂冠が誇る代表商品「上撰」への想い

次にご紹介するのは、醸造部大手二号蔵のグループリーダー・森下恒二さん。森下さんは昭和51年に月桂冠に入社し、以来41年間にわたって酒造りをしてきた、月桂冠の中でもとりわけベテランの職人です。日本酒造りはもちろん、プラムワイン造りなど、さまざまな酒造りにも携わり、月桂冠を支えてきました。

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数ある商品の中で、森下さんがもっとも愛着を感じているのは、「上撰」「上撰辛口」だと言います。

森下さんが入社した当時はまだ級別制度が続いており、「上撰」は一級酒に分類されていました。注文の量に対して在庫が間にあわず、一升びんに詰めたての酒がまだ温かい状態で送ることもあったのだそう。

森下「『吟醸』は米を削り、もっともデンプン質が凝集した中心の部分を発酵させているので、雑味のない繊細な酒です。一方で、『上撰』は精米歩合70%ほどと磨きは3割程度であり、米の味がかなり残るため、どっしりとした力強い味わいになります。香りも中庸でクセがなく、飲み飽きしない味ですね」

「上撰」の香味も、時代によって少しずつ変化しています。酵母も研究を重ね、味も昭和時代の甘口から平成に入り嗜好の変化にあわせて徐々に辛口へ。「基本は崩していませんが、日々進歩するつもりで研究しています」と森下さんは語ります。

森下「美味しい酒を造るために、毎日の管理は欠かせません。特に『上撰』は、長年のファンも多くお客さんが求める基準を満たすため、細心の注意を払っていますね。一方で、地酒ブームと言われる今、若い方々に『上撰』を飲んでいただくためには、こだわりをさらに追求していきたい、一層気を引き締めて造りに励まなければと思っています」

41年のキャリアで思う酒造りの基本は「準備と片付け」

長い間、月桂冠を見てきた森下さんが感じる一番の変化は、「機械化」にあると言います。機械の導入によって、作業時間が短縮されたり、雑菌混入などのリスクを防ぐことができたり、品質と効率が圧倒的に上がりました。

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森下「当時は100キロの原料・燃料を人力で運んだり、タンクの中の狭い隙間にも入り込んでハイハイしながら、たわしで清掃したりしていました。作業環境はぐんと良くなりましたね。一方で、機械化しても機械に任せてほったらかしにするのではなく、蒸した米を手で触ってみるなど、”人の目”でポイントをしっかり抑えることは変わりません。そして”人の目”というのは、自分でやりながら体で覚えていくので、言葉にはできない奥が深い部分なのです」

また、酒造りのキャリアで、常に意識をしていたのは全国新酒鑑評会だったそうです。100年以上の歴史と伝統があり、品質の高さが僅かな差で競われる全国新酒鑑評会で金賞を獲ることは、月桂冠としても誇り高いこと。毎年、全国各地の酒蔵が最高峰の目標として「金賞」の受賞を目指します。

森下「9年前、当社のどの蔵も金賞が獲れなかったことがありました。この時は、月桂冠全体が身を引き締め、他社の杜氏にも謙虚に教えを請うたり、技術者に講演してもらったりして、次回には必ず賞を獲ろうと一丸になりました。翌年は当社から出品した全ての蔵(4蔵)が金賞を受賞、今年もうれしいことに二号蔵で賞を頂き、みんなでくす玉を割りました。やはり日頃の研究と努力が報われる指標になるのはとてもありがたいですね」

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金賞受賞を蔵の仲間で祝い、次年度に向けての健闘を誓い合った

41年のキャリアを、月桂冠の歴史とともに歩んできた森下さんが思う酒造りの基本は、意外にも「準備と片付け」だそうです。日本酒はデリケートな生きもので、高い品質を維持するためには微生物の管理や清潔さに気を配ることが必須です。毎日の作業前にしっかりした洗浄殺菌を行い準備をする。終了後は隅々まで清掃する。森下さんはこの基本を先輩に教わり、後輩にもまず最初に教えてきました。

森下「いつの時代も基本はとても大事です。月桂冠は酵母や微生物などの研究を怠らず、日々技術を進化させ続けています。だからこそ造りに大切なのは、まず人と作業の安全が第一。そして、掃除と片付けを怠らない。その基本を守れば、月桂冠は今後も進歩していくと思います」

時代を超えて紡がれる、職人の誇り

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若手の藤川さん、ベテラン森下さんのお話からは「時代の違い」が感じられました。時代とともに変化する月桂冠を支え続けた森下さんと、すべてがシステマチックになっていく社会の中で酒造りを体験する藤川さんは、同じ酒造りに対しても感じ方が違います。

しかし、時代に合わせた最高の酒造りをしようとする月桂冠の誇りと、自らの感覚を鍛錬して信じるという職人の誇りは、2人とも変わりませんでした。

月桂冠の酒造りに対するDNAは、その品質と職人の誇りにあるのではないでしょうか。

(取材・文/石根ゆりえ)

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