自らの酒を"平凡の銘酒"と称し、280年に渡って変わらぬ味わいの酒を造り続けている千代菊株式会社。地域の交流にも力を入れ、徹底して"地元に愛される酒"にこだわる千代菊では、どのような酒造りが行われているのでしょうか?

"地元のための地酒"を形にする、酒造りの現場を訪ねました。

「酒造りの命は水」3つの川から成る豊富な水資源

千代菊は、岐阜県羽島市に位置しています。羽島市を含む濃尾平野は、木曾川・長良川・揖斐川により形成された平野で、とても肥沃な土壌が広がっており、昔から農業が盛んに行われていました。

濃尾平野の夏は高温多湿。一方、冬は乾燥した晴天が続きますが、"伊吹おろし"という冷たい風の影響で気温は低く、酒造りに適した環境が整うそうです。

そんな濃尾平野にある羽島市は、水資源がたいへん豊か。千代菊では、地下128mから汲み上げる清流・長良川の伏流水を酒造用水として使用してきました。軟水なので、酒母や醪の発酵がおだやかになり、酒はなめらかな味に仕上がります。

ちなみに、地下50mには木曽川系、250mには揖斐川系の地下水が流れているそう。羽島市は水の上に浮いているような場所なんですね。

JR岐阜羽島駅から車でおよそ5分、昔ながらのお店が並ぶ商店街を歩くと、千代菊の酒蔵が見えてきます。

商店街はかつて織物産業が発達したことでにぎわい、多くの商人や旅行者が訪れていたそう。そのなかで、千代菊は昔から商店街の象徴。各店舗で千代菊の酒が取り扱われているのはもちろん、催し物やお祭りなどの中心となって、商店街繁栄のために力を注いできました。

大小2つの方法で仕込む、千代菊の酒造り

早朝の酒蔵では、蒸米の最中。外は硬く、中は柔らかい状態になるよう、長年培った技術で米を蒸していきます。

蒸しあがった70℃ほどの米を手作業でほぐし、目指す温度まで下げていきます。

適温になった蒸米は麹室へ。室の中で全体をほぐし、麹の種付けをします。麹米を造る過程はなんと48時間。

ここまですべて手作業。この作業を年間100回も行うそうです。

千代菊の特徴は、"小造り"と"大造り"という2種類の方法をとっていること。この日見学した小造りは基本的に手作業で、大吟醸や純米吟醸を造るための仕込み。一方、大造りでは機械を活用し、主に普通酒を造ります。小造りはひと仕込の総米が400~1500kgですが、大造りは5~7t。その規模は大きく異なります。

小造り用の仕込みタンク

大造り用の仕込みタンク

なぜ千代菊は、造りを2つの方法に分けるのでしょうか?その理由を坂倉吉則会長にうかがいました。

「まず小造りは、千代菊の創業当時から続く、手作業・手づくりの酒造りをしっかり守っていきたいという考えから始まりました。また、小規模で造ることによって、さまざまな種類の酒を提供することができます。

一方で大造りには、安定した変わらない味を追求していきたいという思いがありました。そのため、大きな仕込みで、たくさんの普通酒を造っているんです」

変わらぬ味を追求する、千代菊の大造り

続いて、安定した味わいの酒造りを行う"大造り"を見学しました。

階上から飛び出ているのは浸漬タンクの下部、床に面しているのは蒸米器の上部です。適度に水分を含んだ白米が浸漬タンクから蒸米器へゆっくりと流れ落ちていく仕組みなんですね。

掛米に使用する蒸米は、水の力を使って仕込みタンクへ移送されます。写真は、蒸米と水を分離する仕込み器。麹米はこの時点で、人の手によってタンクの中に投入されます。

さらに、棚室の役割も兼ねる自動製麹機の中は、温度や湿度が管理できるドラムになっており、ゆっくり回転させることで、蒸米と麹菌を均一に混ぜ合わせることができるのだそう。

これらの機材はすべて、50年程前に製造した千代菊オリジナル。千代菊では、昔から資源の大切さと効率を考え、伝統と革新、両方のバランスを保った酒造りに取り組んでいたことがわかりますね。

地元の酒だから、地元の米を

大小にわけた造りやオリジナル機材をつかった仕込みなど、特徴的な酒造りを行う千代菊では"地元のための地酒"を目指し、使用する原料米も地元産が中心。将来的には、"100%岐阜県産米"での酒造りを目指しています。

この日の蒸米で使われていたのは「ひだほまれ」という岐阜県産の米。ひだほまれは"溶けやすい"反面、米が割れやすく、酒造りには注意が必要なのだそう。それでも、千代菊の杜氏を務める片野義人さんは「ひだほまれは地元の米、たとえハードルが高くても使いたいんです」と、語ります。

「僕は千代菊で45年ほど日本酒を造り、その味を守ってきました。千代菊が掲げるのは"平凡の銘酒"。このあたりでは、昔から各家庭に千代菊があるのは当たり前。これからも、まずは地元の方に愛される千代菊であるよう、変わらぬ”美味い”味を追求し続けたいですね。そのために、水にも米にもこだわりたいんです。日本酒の命である水と米を地元産にするからこそ、地酒と言えると思っていますから」と、片野さん。

千代菊は、有機農法で育てられた米を使用した日本酒造りにも取り組んでいます。田んぼにアイガモを放して雑草・害虫を駆除する、無農薬の「アイガモ農法」で有機米を栽培してきました。さらに、地元を中心とした一般の方向けに、有機米の田植えから稲刈り、酒の仕込みまでを経験できる「羽島体験プロジェクト」も行っています。

この取り組みについて、坂倉会長はこう話します。

「有機農法は、科学的な手を加えず、植物の本来の力を活かす農法。日本酒も、酵母や麹などの生き物が造ってくれるアルコールによって完成するので、本質は同じことですよね。生き物本来の力を最大限活かして完成した"健康な酒"は、私たちにとって良いことしかありません。だから、千代菊が有機米を原料とした酒造りに取り組んでいるのは自然なことで、これからも続けていきたいですね」

千代菊では、造りの現場において"伝統"と"革新"の両方を意識し、独自の手法を展開しています。それと同時に、"地元のための地酒"を貫くため、地元産米の使用にこだわり、一般の方も参加できるような企画で、地元に根付いた取り組みを形にしていました。

一貫した地元への想いと、それを体現する取り組み。それこそが、千代菊を"平凡の銘酒"と言わしめる所以なのかもしれません。

(取材・文/石根ゆりえ)

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