創業から今までの350余年、伝統的な生酛での酒造りを守ってきた菊正宗酒造。時代の移り変わりの中で、機械化された工程は多々ありますが、すべてを手作業でやってきた時代の酒造りの叡智は脈々と受け継がれています。そんなかつての造りの様子を、“残すべき文化”として今に伝えている施設があります。 菊正宗酒造の魅力に迫る特別連載の第8回では、酒造りの歴史を今に伝える「菊正宗酒造記念館」をご紹介します。

伝統的な酒造りの工程と歴史がまるっと学べる“酒造りの博物館”

菊正宗記念館が創立されたのは1960年のこと。1659年の創業時、神戸・御影に建てられた酒蔵を灘に移築し、酒造道具を保存・展示する施設として一般開放されました。企業がものづくりの歴史を後世に継承する「企業博物館」の先駆け的存在でもあります。

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菊正宗は酒蔵として国指定の重要有形民俗文化財(灘の酒造用具)を所有している唯一の企業であり、記念館にはかつて酒造りに使用されていた小道具類が566点(2016年7月時点)所蔵されています。2015年には述べ11万人以上の来場があり、うち海外からの訪問客は2万人以上にのぼったとのこと。外国人観光客からも人気を博していることが伺えます。

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館内の展示品はきれいに整理されていて、一通り回ることで伝統的な生酛の酒造りの工程が把握できるようになっています。さらに、団体で予約をすると、館内スタッフがガイドについて案内をしてくれます。

「菊正宗の当主の姓である“嘉納”は南北朝時代、後醍醐天皇にお酒を献上した際に賜った」「古くは“灘は男酒、伏見は女酒”と言われていて、菊正宗はこの男酒の本流を継いでいる」「昔は蒸した米をかき混ぜたり、運んだりするのが重労働だった」「山卸(やまおろし)は櫂(かい)で蒸米をすりつぶす作業、その時に使うのが半切桶(はんぎりおけ)で……」などなど、ガイドさんの丁寧な説明を聞いていると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。運が良ければ、丹波杜氏に代々受け継がれてきた「酛摺り唄(もとずりうた:山卸の作業中に歌う)」を、ガイドさんが生で披露してくれることも。

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酛場(もとば)。酵母を純粋に培養します

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麹室。断熱のために壁の中に藁が入っています

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会所場。蔵人たちの休憩の場所です

2階には映写室があり、酒造りの歴史や工程を伝えるビデオが上映されています。日本酒の基本的な造りを学ぶには、うってつけの施設です。

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館内には直売所も併設されていて、常時いくつかの商品の試飲が可能です。すべての商品紹介にはQRコードが付記されており、読み取ることで英語・中国語・韓国語の商品情報を閲覧できます。記念館でしか買えない限定セット品も取り扱っています。

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日本酒から、おつまみ、本、財布など様々な日本酒関連グッズを販売しています

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商品購入に迷ったらQRコードで情報をチェック

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試飲コーナー。3種類のお酒を試飲できます

種類豊富な日本酒はもちろんのこと、酒のアテとして相性の良いおつまみや、酒粕の購入も可能です。この他、酒を絞る布で作ったお財布などもあり、酒蔵が運営する記念館だからこそ購入できるものが数多く販売されています

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おつまみも豊富。日本酒と一緒に買って帰りたくなります

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酒袋からできたお財布。丈夫です

残さなければ失われるかもしれない、文化を引き継ぐ使命感

“酒造りの博物館”と言える、菊正宗酒造記念館。「これだけの資料が今に残っているのは、当時の社長の英断の賜物だ」と、菊正宗酒造記念館の名誉館長・村田祥さんは語ります。

「この記念館の元となっている旧酒蔵は、現在の酒蔵を新設する際に取り壊される予定でした。しかし、先代社長の『日本酒文化、菊正宗の酒造りの文化を後世に継いでいこう』という一声があって、記念館として残されることになったのです。移築をするにも、相当な費用がかかったと聞いています」

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実は、現在の記念館は当時の酒蔵のまま……というわけではありません。初代の記念館は、1995年に発生した阪神大震災で、残念ながら全壊してしまいました。その4年後に新たに建て替えられたのが、今の施設です。屋根は本瓦葺、外壁や辻塀は焼杉板張りを使用していて、トラディショナルな酒蔵の建築様式を再現しています。「採算は度外視」と笑う村田さんは、さらに言葉をつなぎます。

「もちろん、この記念館は純粋な観光資源としての役割も持っていますよ。けれども、やはり根っこは『酒造りの文化を末長く残したい』という強い思いで、運営しています。菊正宗は、灘の男酒の本流を継いでいます。その歴史を伝えていくことに、社会的な使命感を持っているんです。アクセスがいいわけではないから、ここを目的地として訪れる方は少ないと思いますが、近くに立ち寄った時にふらっと寄ってほしいですね。きっと、学びが多くて、安らかな時間を過ごしてもらえるはずです」

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長い歴史をもつ菊正宗だからこそ、大ボリュームの展示が可能で、酒造道具や話には圧倒されるばかり。日本の伝統的な酒造りの歴史がギュッと詰まった、菊正宗酒造記念館。新大阪からも1時間以内とアクセスもよく、近隣にも数多くの酒蔵があるためこのエリアを歩いているだけでも楽しめます。日本酒の古くから伝わる道具や造り方を学び、売店で最新の日本酒を試飲して帰ることができますから、日本酒好きなら、一度は足を運んでおきたいスポットですね。

(取材・文/西山武志)

<菊正宗酒造記念館>

  • 所在地:〒658-0026 神戸市東灘区魚崎西町1-9-1
  • 開館時間:午前9時30分~午後4時30分(団体のお客様はご予約下さい)
  • 休館日:年末年始(12月31日~1月3日 )
  • 入館無料
  • ホームページ:http://www.kikumasamune.co.jp/kinenkan/index.html

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