「天野酒蛍の宴」と豊臣秀吉が愛した銘酒・天野酒の歴史
5月29日に「天野酒 蛍の宴」に参加してきました。
大阪府河内長野市・西條合資会社にある天野酒の酒蔵で、毎年6月前後にこのイベントが開催されており、今年は5月27日から6月7日まで行われていました。
(西條合資会社HPより引用)
天野酒は金剛寺で造られていた僧坊酒。中世戦国末期に奈良の菩提酛と並び、近世から現代の日本酒の基礎となったお酒です。奈良の正暦寺には「日本清酒発祥之地」の石碑がありますが、中世においてその最大のライバルが金剛寺の天野酒でした。
戦国期から江戸前期にかけては、天野酒は贈答品として用いられていて、当時、河内の国の守護であった畠山政長は毎年のように将軍に天野酒を献上していたそうです。
織田信長の黒印状や豊臣秀吉の朱印状、徳川家康の花押礼状が残っていることからも、金剛寺の天野酒の戦国後期での商業的価値の高さがうかがえます。
織田信長 黒印状(天下布武印)
なぜ天野酒が天下の銘酒になれたのかを想像すると、南北朝時代より南朝方の天皇の御在所となるほどに金剛寺の財力が強かったこと、そして金剛寺が高野街道沿いにあり、堺の商人と密接な関係を持つことで、市場や酒造りをはじめとするさまざまな情報が入る環境だったことが大きいと考えられます。
天野山金剛寺(金剛寺HPより引用)
ただ、桃山時代末期の豊臣秀吉によって、最大の取引先である堺の水路が変更されたことや、豊臣家の大坂の陣で堺が焼き討ちにあったこともあり、時代の表舞台から姿を消していきました。
その後、1971年(昭和46年)に西條合資会社が天野酒の銘を復活させ、僧坊酒として豊臣秀吉が飲んだお酒が『御酒之日記』を参考にして再び造られるようになったのです。
日本酒テイスティングデータ | ||||
銘柄 | 天野酒 僧坊酒 | |||
香り | 華やかな香り(1~10) | 1 | 天野酒HPより画像引用 | |
爽やかな香り(1~10) | 1 | |||
穏やかな香り(1~10) | 7 | |||
ふくよかな香り(1~10) | 9 | |||
味わい | 甘味(1~10) | 9 | ||
酸味(1~10) | 7 | |||
苦味(1~10) | 5 | |||
旨味(1~10) | 5 | |||
テイスティング者コメント | 香り | 主体となる香り | 原料香主体、発酵食品を思わせる香りを含んだ | |
感じた香りの具体例 | 焼いた餅、バター、鼈甲飴、薄口しょうゆ、みそ、麹、黒糖、カラメル、檜、千切大根 | |||
味わい | 甘辛度 | 甘口 | ||
具体的に感じた 味わい | 芳醇でスッキリしたテクスチャー、ふくよかで厚みのある甘みが主体、後味のキレはよい、ふくらみがあり鼈甲飴を思わせる含み香 | |||
このお酒の特徴 | ふくよかで芳醇な味わいの醇酒 | |||
4タイプ分類 | 醇酒 | |||
飲用したい温度 | 20℃前後、50℃前後 | |||
温度設定のポイント | 常温で芳醇でなめらか、キレの良い味わいを引き出すか、燗にてふわりと甘くキレの良い味わいを引き出すか | |||
この日本酒に合わせてみたい食べ物 | 大阪寿司、箱寿司、鰤大根、肉じゃが、里芋の煮つけ、味噌煮込みうどん、伊達巻、う巻、明石焼き等 |
※このフォーマットはSSI日本酒香味評価総合データベース酒仙人のテイスティングフォーマットを参考にして、新たに作成したものです。
地域との連携でつくる酒蔵ツーリズム「天野酒蛍の宴」
毎年6月頃に開催される「天野酒 蛍の宴」は、地元の方を中心に土日はほぼ満席で、平日も多くのお客様が訪れ、今や河内長野を代表するイベントとなっています。
今年は予定よりも開催が早まりましたが、たくさん蛍が現れイベントを彩っていました。昨年・一昨年と比べても、今年の蛍はいっそう美しかったように思います。
毎年恒例の地元のミシュラン1つ星の「喜一」のお弁当とともに蛍を楽しめて、4,000円の参加費でお得に参加できるイベントとなっています。
飛び交う蛍(撮影:江口崇氏)
イベントでいただいた「喜一」のお弁当
当日は天野酒の夏季限定酒「天野酒クール」とともに食事をいただきました。
日本酒テイスティングデータ | ||||
銘柄 | 天野酒 クール | |||
香り | 華やかな香り(1~10) | 2 | 天野酒HPより画像引用 | |
爽やかな香り(1~10) | 3 | |||
穏やかな香り(1~10) | 2 | |||
ふくよかな香り(1~10) | 2 | |||
味わい | 甘味(1~10) | 3 | ||
酸味(1~10) | 3 | |||
苦味(1~10) | 4 | |||
旨味(1~10) | 3 | |||
テイスティング者コメント | 香り | 主体となる香り | 原料香主体、淡いハーブの香りと淡い柑橘系の香有り | |
感じた香りの具体例 | 炊いた白米、生クリーム、マシュマロ、スペアミント、甘夏、スウィーティー、ミネラル、瓜、水あめ | |||
味わい | 甘辛度 | やや甘口 | ||
具体的に感じた 味わい | なめらかで爽やかなテクスチャー、すっきり爽やかでキレの良い酸味と苦味が主体、後味はすっきりキレる、スペアミントや甘夏を思わせる含み香 | |||
このお酒の特徴 | すっきり爽やかでキレの良い爽酒 | |||
4タイプ分類 | 爽酒 | |||
飲用したい温度 | 10℃前後、38℃前後 | |||
温度設定のポイント | 良く冷やしてキレの良い味わいを引き出すか、ぬる燗にてふわりとキレの良い味わいを引き出すか | |||
この日本酒に合わせてみたい食べ物 | 出し巻き玉子、エビフライ、鮭の西京焼き、野菜の煮つけ、大根の煮つけ、きゅうりの浅漬け等 |
蛍は環境の変化にデリケートですが、河内長野市では地域全体でホタルの住める環境の維持に努めています。
酒蔵ツーリズムとは、このような“地域との連携”があってこそ魅力的なものとなり、ひいては日本酒が世界に通用する日本の産物になれるのではないかと思います。
(文/石黒建大)
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