東京・湯島「燗酒嘉肴 壺中(以下「壺中」)」の燗番・伊藤理絵です。お客様によく尋ねられます。「どのようなお酒が燗に向くのですか?」それは易しくもあり、難しい質問です。

なぜでしょう?

今回「vol.1」では、その答えを紐解きます。「vol.2」では、燗映えする純米酒のひとつ「辨天娘(太田酒造場/鳥取)」について触れ、「辨天娘@壺中」にて召し上がっていただいたラインナップを一挙にご紹介。こ〜んなに、味わいの違いがあるんです!

お燗に向く、向かないに定義はある?

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私の思う「燗に向く酒」。常温で嗅いだ時、セメダインのような匂いがしない。香りが華やかすぎない。まず、この点があげられます。もうひとつは、「醗酵させきっている」。つまり、アルコールを造る「酵母」が、”力いっぱい限界まで働いた”ということです。

「壺中」で提供する純米酒はすべて、この2点を満たしています。

辨天娘(べんてんむすめ)/鳥取
日置桜(ひおきざくら)/鳥取
竹鶴/広島
・睡龍(すいりゅう)/奈良
玉櫻(たまざくら)/島根
独楽蔵(こまぐら)/福岡
神亀(しんかめ)/埼玉
群馬泉/群馬
などです。

関東以南が目立ちますが、
羽前白梅(うぜんしらうめ)/山形
鯉川(こいかわ)/山形
もお薦め。地域性でなく、蔵の姿勢が求められます。

瓶の裏貼りに「お燗をして呑んでください」と書かれているのも目安のひとつ。ただ記載がなくても、お燗を楽しめる酒も多々あります。

醗酵させきった酒は、40度(ぬる燗)、50度(熱燗)はもちろん、それ以上の温度にしても、味が乱れたり、きつい匂いが立ちません。むしろ、味がまとまり旨味が引き出されます。これは、清酒のみならず濁り酒、さらには、速醸酛(そくじょうもと)または生酛(きもと)系、吟醸や大吟醸でも同じです。

60度前後、中には65〜70度程度に仕上げます。その後、温度が下がる中で、それぞれの味わいが楽しめる。これも燗に向く酒の特徴であり、燗の醍醐味とも言えます。

チロリで温めた酒を、常温の徳利や盃につぐと、一気に温度がさがります。「壺中」では、60度前後を基本に、仕上げた温度のままお客様に召し上がっていただくため、徳利も盃も温めますが、酒質や肴との兼ね合いで、最初の一口が50度前半が適当と判断した場合、その原理を応用することも。熱を加える過程の同じ温度帯と比べると、より旨味を感じるから不思議です。

「辨天娘」の蔵元、太田章太郎さんは、「“しっかりと醗酵させた酒“に該当する銘柄をあげることはできます。しかし、それはあくまでも私の感覚です。それだけで燗に向く酒を理解したと思ってもらいたくありません。燗酒は、頭で理解するより体で感じてほしい。そこで大切なのが、酒販店さんや飲食店さんです。お店の方に尋ねて、試して、を繰り返す中で次第に見えてくるものだと思います」とおっしゃっています。

お酒は環境によっても味わいが変わります。電灯や自然光があたる場所で保管したり、お燗の方法によって、不快感を伴う場合も。酒とお燗する温度とのバランスもあり、銘柄だけでは判断できません。そうした意味もあわせ、信頼できる”プロ“を見つける。これも重要です。(vol.2に続く)

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