年が明けて、酒造りが最盛期に入りました。蔵人にとって、このシーズンは稼ぎ時。とても忙しいため、休みの日がまるで宝物のように感じられます。そこで今回は、蔵人のささやかな楽しみである「休日」にクローズアップしてみましょう。

働くスタイルはさまざま!ひと月の休みは何日?

蔵人の仕事をカレンダー上で表現したイラスト

酒蔵の規模や雇用形態にもよりますが、ひと月の休みは3~6日が平均でしょう。カレンダーの赤い日が休みというよりは、酒造りのスケジュールに合わせて休日が決まる、シフト制が多いようですね。

酒母や醪は日々成分が動くので、分析や櫂入れ、暖気入れなどの操作が必要です。毎日のように仕込みを行う蔵であれば、精米や米研ぎが立て込むだけでなく、麹造りも休みなく行わなければなりません。

通年雇用の社員制で土日は休みという蔵もありますが、冬場にがっつり働く昔ながらのスタイルは多くの蔵に残っています。泊まり込みで働く蔵人にも数日の休みはあるものの、郷里に帰れるほどの長い休みはありません。つまり、正月休みはほとんど取れない場合が多いです。

そんな貴重な休日に、蔵人は何をしているのでしょうか。

休みにしかできないこと......家族サービスから買い物まで

酒蔵にある蔵人のスケジュール表

実際、わずかな休みの過ごし方は、役場や銀行へ行くことがほとんどでしょう。農業を兼務している蔵人は、農閑期である冬に会合が多く、3月の確定申告に向けて、役場や農協を行ったり来たり。地元の消防団やPTAなど、所属している団体が多いと、それだけやることも増えていきます。

「用事があるので、この日は休みたい」と、休日を指定できる場合もあります。自動車免許の更新や、歯医者などへの通院、家族を買い物に連れて行くのは休みの日でなければできません。

町へ出るときは、自分の買い物に併せて、蔵で必要な物品を買うことも多いです。ロープや軍手、電球、屋根の補修部品などを買い込みます。床屋へ行くのも休日。少し遠出をして、大きな町で昼ごはんを食べるだけでも、小旅行気分が味わえます。毎日、粕剥ぎをしたり麹の手入れをしたりしていると、屋外の青空が新鮮に思えるんです。

アクティブに遊ぶことも!

蔵人が休日に何して過ごすかを表したイラスト

スキーやスノーボードなど、ウィンタースポーツを楽しむ蔵人もいます。ハタハタ、ワカサギ、イカ、寒バヤの季節なので、釣りもいいですね。また、冬は狩猟シーズンでもあるため、カモなどを狙いに、朝早くから山や川に出かけることも。充実した休日ですが、ふだんから肉体労働をしているぶん、疲れはどっと出てしまいます。

そんな時は、温泉で疲れを取るのが一番。日々の疲れや、酒造りの厳しいスケジュールから解放されたような気分に浸ることができます。「昨日、何したの?」と、他の蔵人から聞かれた時に「温泉行ってきた!」なんて言うと、かなり羨ましがられるものです。

ゴロゴロするのも気持ちいいが、結局、家事に追われる休日

家でゴロゴロするのも、休みの日ならではですね。泊まり勤務が続いた時は、10日ぶりに家に帰ってくるなんてことも。ゴロゴロすると疲れは取れますが、なんとなく時間がもったいなく感じられるのも事実。ふとまわりを見れば、台所や部屋の汚れがなんだか気になる。蔵で洗い物を担当していると、特に水場の汚れが気になってしまうんです。掃除をしているうちに、冬の太陽は西に傾いていきます。そして夕方、ふと思うんです。「本当に今日は休みだったんだろうか」と。

ほかにも、予備自衛官の出向があるとか屋根の雪下ろしをしなければならないとか......体力が削られる休日も少なくありません。

一方で、身体の不調や親類の葬式など、外せない急用がある場合は、杜氏や親方が気を利かせて、まとまった休みを手配してくれます。だれかが抜けた穴は、他の蔵人が手伝って切り盛りするのです。「戻ったら、俺のぶんも手伝えよ!」という声を背中に、タイムカードを押して出かけます。戻ってくる時は、御礼のお菓子を忘れずに。

雪の積もる酒蔵の前の写真

長い酒造シーズンを乗り越えるポイントは休みの使い方でしょう。酒造期間中、町はクリスマスや年末年始で盛り上がり、冬休みを寝正月でゆっくりと過ごす人もいます。恨めしい気持ちになることもありますが、蔵人にとってはもっとも忙しい時期。黙々と仕事をこなすしかありません。長い酒造期の折り返し地点ですからね。乗り越えた先にある、雪解けの美酒を楽しみに待ちましょう。

(文/リンゴの魔術師)

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