冬の繁忙期が終わり春を迎えると、多くの酒蔵では蔵人の休日もいくらか増えるもの。おいでおいでと潮風に呼ばれた気がしたので、晩酌の肴を釣りに行きました。

家族連れでにぎわう防波堤。狙うはアジ!

田舎の漁港にやってきました。6~7月の東北は、ほとんどの港にアジが回遊してくるので、8月くらいまではよく釣れるんです。土日になると、防波堤は家族連れで大にぎわい。

アジを釣るのに、竿や仕掛けにこだわる必要はありません。釣具屋に売っている一般的なセットでじゅうぶんでしょう。エサとして、コマセ(網に入れる集魚用のアミエビ)と付けエサ(針に直接付けるアミエビ)を用意するとよく釣れますよ。

オモリは下方に、網は上下好きな方にセット。アミエビが網からパラパラと落ちて、そこに集まってきたアジが針にかかるという仕組みですね。大型の魚は沖の方にいますが、小さなアジは岸壁のできるだけ近くでエサを待っているので、あまり遠くまで飛ばさずに防波堤の際で狙うのがポイント。

仕掛けをチャポンと投入し、リールを持って待っていると、ウキが沈みました。かかったかかった、よーし!と引き上げます。

釣れました!10cm弱のアジ。このサイズをたくさん釣って帰ります。ひとりあたり20匹も釣ればじゅうぶん大漁。クーラーボックスには氷を入れておき、新鮮さを保ちましょう。

消波ブロックの影に、ごちそうあり

アジは回遊魚なので、ほとんど釣れなくなってしまう時間があります。その間は別の魚を狙いましょう。

防波堤の際や消波ブロックの間がポイント。こういう場所にいる魚は「根魚」と総称されます。仕掛けには、ブラクリ針に塩サバがおすすめ。サバの匂いが根魚を誘い出すのです。

根魚はゴロタ場(岩がゴロゴロしている場所)に隠れていることも。滑って転んでしまう危険があるので、テトラポッドには上らない方がいいでしょう。防波堤の上からでもたくさん釣れますよ。

エサを掛けてブロックのスキマに落とすと、さっそく反応が!

と、思う間もなく下にグーンと引っ張られていきました。エサを食べるとすぐに奥底へ逃げ、エラやヒレを開いて釣られまいと踏ん張るのが根魚の特徴。負けないようにリールを巻きます。

一気に引き上げると、釣れました!

良いサイズのカサゴですね。根魚は大きくなるのに時間がかかるので、自分の手よりも小さいものはリリースしましょう。カサゴやクロソイなど、大きなものをいくつか持ち帰り、いよいよ晩酌の準備です。

新鮮なアジをたくさん食べるなら、南蛮漬けに

たくさんアジが釣れた日は、南蛮漬けが良いでしょう。暑い時期でも食欲をそそります。

1. アジの下ごしらえ。エラぶたに指をかけて内臓を取り去るだけでOK。ぜいこ(アジ特有の、尾にかけて付いている硬いうろこ)はそのままでも問題ありません。

2. 野菜も準備しておきましょう。タマネギとパプリカをスライスしておきます。

3. アジの水気を取り、片栗粉で薄化粧。厚くすると完成形がデロデロになってしまうので注意してください。

4. 油でカリッと揚げましょう。揚げ終えたら、皿に並べて野菜をのせます。

5. 三杯酢(めんつゆと酢を合わせると簡単にできますよ)をかければできあがり!アジがチリチリと音を立てているうちに食べるのがおすすめです。

根魚を余すところなく堪能

根魚の魅力は、捨てるところがまったくないこと。身は真っ白ながらも旨味と脂があり、肝はあん肝にも負けない美味さ。さらに、頭や骨からは良い出汁が。味噌汁に魚の脂が浮いてくるほどなんです。

三枚おろしの要領で内臓を取ります。肝は血合いを取って、胃袋の中身をきれいに出してから真水で洗いましょう。寄生虫がいないかチェックしてから、熱湯に数十秒通し氷水で締めます。これで肝と胃袋は完成。

釣りをする醍醐味のひとつが、珍味とも言える内臓を食べられることでしょう。切り身で売られている魚では、味わえません。

身は新鮮ならば刺身で、煮魚は定番ゆえに至高のおかずですね。鮮度が多少落ちている場合は、天ぷらやムニエルもおすすめです。

頭や骨はぶつ切りにして味噌汁へ。濃厚な出汁が期待できるので、湯通ししたら味噌を溶かすだけでかまいません。みじん切りにしたネギをのせても絶品です。

地魚には地酒。美味い!

美味しい魚料理が完成したので、心地良い疲れの残った一日をお酒で締めましょう。せっかくなので、釣りをしてきた地域のお酒を用意してみました。

今回選んだのは「天寿 精選カップ」(天寿酒造/秋田)と「由利正宗 精撰」(齋彌酒造店/秋田)。どちらもさまざまなコンテストで賞を勝ち取る銘酒蔵ですが、今日の晩酌は大吟醸クラスのお酒ではなく、地元の人がふだんから味わっている普通酒や本醸造酒をセレクト。

地元で飲んでもらうための味わいになっているので、きっと地魚に合うこと間違いなし。晩酌向きのお酒を、さっそくいただきます。

アジの南蛮漬けには「天寿 精選カップ」。カップ酒とは思えない別格の旨味が料理を引き立てます。余計な酸味がなく、南蛮漬けの酸味をまったく邪魔しません。むしろ、米の旨味が食欲をそそりますね。

カサゴやクロソイの旨味には「由利正宗 精撰」を。「由利正宗」という銘柄を聞いたことがない人でも「雪の茅舎(ゆきのぼうしゃ)」を知っている方はきっと多いでしょう。地元の若い世代が"茅舎さん"と呼ぶのに対し、40代を越えた秋田県民は"ゆりまさ"の愛称で親しんでいます。伝統に裏打ちされた味は、魚料理に合う力強さを持っていました。

根魚の旨味が口いっぱいに広がり、丸みがありながらも長く尾を引かない甘みが次の一箸を誘います。胃袋の湯引きはコリコリとしていて、噛んでいるとわずかに味が出てきました。淡白ながらも芳醇な味は、釣った人のみが感じられる味かもしれません。

もちろん肝も絶品。醤油で溶いて刺身と合わせるも良し、生姜をのせて食べるも良し、ご飯にのせて醤油を垂らして食べるも良し。そして、日本酒をいっしょに飲むとさらに良し!「天寿」「由利正宗」どちらとも好相性でした。

牡蠣の水揚げも始まり、夏の魚が本格的なシーズンを迎えようとしています。これから全国各地で、美味しそうな海の幸が目に留まることでしょう。美味い水産物に合わせたいのは、やっぱり日本酒!釣りに出かけたり、漁港の直売所や道の駅に寄ったりしたときは、地酒の購入もお忘れなく。

(文・イラスト/リンゴの魔術師)

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