鳥海山の麓で140年の歴史を紡ぐ酒蔵

明治7(1874)年、二代目・大井永吉氏が秋田県令より酒造免許を受け創業。銘柄は当初「玉乃井」「稲の花」など複数ありましたが、昭和初期に「天寿」のみに。「天寿」は、"百歳まで幸せに生きること"を意味しており、ラベルは2000年以上前に中国山東省泰山の崖に刻まれた金剛経から写したものだそう。呑み手への長寿の思いも込められているといいます。

秋田流長期低温発酵にこだわる

蔵のある由利本荘市矢島町は、東北きっての名山・鳥海山の登山口。米どころ秋田のなかでも、特に良質な米の生産地として知られてきました。鳥海山の伏流水と地元の子吉川水域で育まれた地元米を使った、秋田らしいまろやかな味わいが特徴です。

「天寿」の質を飛躍的に高めたのが、秋田流の低温長期発酵型の造りを確立した、初代秋田県醸造試験場長の花岡正庸氏。昭和18年から10年間、天寿酒造を指導しました。昭和28年に同蔵で倒れ、帰らぬ人になってしまいますが、今も天寿酒造では同氏の教えを受け継いだ酒造りにこだわっています。

地元契約栽培「天寿酒米研究会」の美山錦を使用

また天寿酒造は、米作りにも並々ならぬ意欲を持っています。昭和50年に代表取締役に就任した6代目・永吉氏が"酒造りは米作りから"と、「天寿酒米研究会」を発足。当時、蔵元単位での契約は全国初の取り組みでした。現在は農家27軒・25haの敷地で、酒造好適米「美山錦」の生産に取り組んでいます。

さらに無農薬米にも挑戦。同蔵の特定名称酒は、山田錦を使った出品用の大吟醸酒と、秋田県産の酒造好適米「秋田酒こまち」を使用した一部をのぞき、すべて「天寿酒米研究会」の美山錦を使用しています。

この純米大吟醸酒も、同研究会契約栽培の美山錦を100%使用した無濾過生原酒。精米歩合は50%。ND-4酵母と呼ばれる、なでしこの花から抽出した花酵母を使用しています。

香りは華やかで芳醇かつフルーティー。味わいは爽やかで、丸みやふくらみが感じられ、芳醇で上品な蜜を思わせる甘味を感じます。新酒の生酒ということもあって華やかさが目立ちますが、甘味と酸味が調和したビロードのような口当たり。気品あふれる味わいです。後口も心地良い余韻を残しながら穏やかに切れていきました。

肴と合わせるよりも、食前酒として、冷やしてワイングラスで呑むのが良いかもしれません。あえていうなら、ハードタイプのチーズに合うでしょうか。同スペックの火入れは2017年2月に開催された「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」大吟醸部門で「最高金賞」を受賞しています。

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