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来福酒造の藤村俊文さんに聞く花酵母について【前編】

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こんにちは、日本酒指導師範&酒伝道師の空太郎です。

みなさんは「花酵母」をご存知ですか?

日本酒は麹がお米のでんぷんを糖に変え、その糖分を酵母が食べて、副産物としてアルコールを代謝することでできています。

酵母には一般的に日本醸造協会が提供する「きょうかい酵母」や各都道府県が開発した酵母を使うのが一般的ですが、それとは別に、いろいろな花の蜜に集まってきた野生酵母の中から清酒造りに適した酵母を選抜して使っている酒蔵があります。

この酵母のことを「花酵母」と呼んでいます。

花酵母のお酒とは?

近年では各地で花酵母が登場していますが、こうした流れをリードしているのは東京農業大学と農大を卒業したOB蔵です。10年以上前に第1号の花酵母を開発し、以後、着実に種類が増えています。

花酵母のお酒はその花の香りがするわけではありませんが、可憐な花々に棲みついていた酵母がおいしい日本酒を造るというのはロマンを感じますよね。

いまや、多くの酒蔵が花酵母のお酒を造っていますが、使っている種類が多く、蔵で造る日本酒のほとんどに花酵母を採用しているフロントランナーとも言えるのが、茨城県筑西市にある来福酒造さんです。

花酵母にまつわる色々なエピソードや、どのような基準で花酵母を使っているのかなどを、開発当初から参画していた蔵元社長の藤村俊文さんに伺いました。

ツルバラ、日日草、ベゴニア、マリーゴールド、ヒマワリ、タンポポ、サクラ、ツツジ、シャクナゲ、月下美人、アベリア、アジサイ。

現在、来福酒造が使っている花酵母です。東京農大から譲り受けた後は、蔵にある培養室で自家培養をして使っています。

来福酒造は酒米もたくさんの種類を使い分けていて、それぞれの相性を考えながら、花酵母と組み合わせて美酒を醸しています。

「どれにどの花酵母を使うかは必ずしも固定化していません。仕上がりを見て、来季はこう変えてみるかな、などとも考えたりもします」

と藤村さんは話しています。

今季(26BY)は久しぶりにアジサイの花酵母を大吟醸酒に使っています。

来福酒造の醸造規模は約1000石(一升びん換算で10万本)ほどですが、そのほとんどで花酵母が活躍しています。

間違いなく、もっともたくさんの花酵母を使う酒蔵です。

花酵母の研究開発

来福酒造の藤村さんが花酵母に傾斜したのは、開発の主人公である東京農業大学の中田久保(なかた・ひさやす)教授(現在は退官)の教え子だったからです。

酵母の研究を柱に据えていた中田先生の教室には酵母に関心を持った学生たちが集まりました。

夜な夜な議論をするなかで、

「最近の新酵母開発にはバイオ技術に頼る傾向が強すぎる。そもそも、昔の酵母は優秀な酒蔵に棲みついているものを探し出し、培養して全国の酒蔵に配布していた。天然(野生)の酵母にはまだ我々が知らない清酒造りに適したものが存在するのではないか。そういう酵母を探してみよう!」

と盛り上がりました。

1990年代後半のことです。

藤村さんは当時、すでに大学を卒業して会社勤めをしていましたが、大学時代の研究テーマが酵母でしたし、

普通酒主体の平凡で小さな酒蔵だった来福酒造を変えていくにはきょうかい酵母ではない特別な酵母が欲しい、

と考えていたので、中田先生の試みに先んじて加わったのです。

具体化するに当たって、糖分のあるところとして、果実、花の蜜、樹液が候補にあがりました。

樹液はあまり聞こえがよくない、果実だとワインのイメージになってしまう。

ということで対象はすんなり花の蜜に落ち着きました。

花(の蜜)に集まる酵母は無数にいて、その中でも雑食性の野生酵母は力が強くて幅を利かせているため、清酒酵母は少数派。そのまま簡単に選び取ることはできません。

そこで、清酒酵母だけが繁殖できる特殊な培地を使います。イーストサイジンという抗菌性物質で、これを培地に一定量加えると、清酒酵母以外の増殖を防げるのです。

技術は以前からあったのですが、あえて、野生の酵母群から清酒酵母を抽出するというニーズがなく、使われていませんでした。

それを中田教授の研究室では技術を磨き、清酒酵母の安定的な培養にこぎつけました。

もちろん、アルコールを作るだけではいいお酒にはなりません。副産物として出てくる香り、その他の有機物が清酒向きかどうかが重要です。

そこで、中田教授の研究室では複数(5種類前後)のフラスコでお酒を造り、そのなかから1番優秀な酵母を決めて、花酵母として確定させました。

第一号となるナデシコ花酵母は記号では「ND-4」と付けられていますが、これは4番目のフラスコで増殖させた清酒酵母を意味しています。

さらに、混乱を防ぐ意味で、1度ナデシコ花酵母を決めたら、ナデシコの花からは再度、酵母を採取することはしない、と取り決めました。

ただし、すべてが成功したわけではなく、次々といろいろな花を集めてきて、その1部が花酵母になったのです。当初は農大自身が花を集めて酵母を抽出していましたが、途中からは酒蔵が花を持ち込むスタイルに。

藤村さんも後輩を連れて、草原などで見かけた花を片っ端から摘んだり、花屋でお金を払って買ったりして、次々と大学に持ち込み、そのいくつかが日の目を見ました。

こうして、中田教授の教え子で蔵に戻っていた多くの酒蔵が花酵母を使い始めました。

2000年ごろからです。2003年6月には32蔵が参加して花酵母研究会が発足しました。研究会が紹介している花酵母は14種類。毎年夏には花酵母で醸したお酒を飲み比べしてもらうイベントも開いています。

では、10種類以上もの花酵母を、酒米やスペックとどう組み合わせているのでしょうか?

後編ではその内容についてレポートします!

 

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空太郎

日本酒指導師範(菊正宗認定)&酒伝道師です。1年365日、日本酒を飲んでいます。10人未満で丁寧にお酒を醸す銘酒小蔵がたくさん存在することが、日本酒の多様性と魅力を維持するのには欠かせないと思っています。そんな酒蔵の活動や、それを応援する酒販店や居酒屋の動きをお伝えしていきます。