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酒に寄りそう今夜の逸品 その5「田螺と葱のぬた」 -池波正太郎『鬼平犯科帳』より-

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今宵もまた、文学作品から酒肴のお膳立て。池波正太郎『鬼平犯科帳』から一品を再現し、雰囲気とともに酒を楽しみたいと思います。気になる料理を見つけましたが、近年では口にする機会があるかどうか。

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もとは名の知れた盗賊だが長谷川平蔵によって改心し、彼の密偵として働く舟形の宗平。同じく密偵で義理の親子のように同居している大滝の五郎蔵のために田螺(たにし)を手に入れ、喜々として献立を考えている場面です。

気になる料理の食材とは、田螺。昔は庶民が当たり前のように食べていたようで、池波作品では『剣客商売』などでもしばしば登場しています。

古来より昭和の頃まで、日本中どこの田んぼに棲んでいた田螺も、化学肥料や農薬の使用によってほとんど姿を消しました。若い人が田螺と聞いても何か分からないかもしれません。それを配慮してか池波先生も、作品の本文中に田螺の生態について記述を加えているほどです。

それにしても、料理ひとつで登場人物の人としての機微を表現する池波作品の妙技。いつもながら心惹かれます。

昔あった庶民の味、田螺を青ツブで再現

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酒肴を実際に作ってみようと、田螺を方々を探してみましたが、なかなか見つかりません。しかし、格好の代用品がありました。青ツブです(上画像)。田螺を食べたことのある人の話によると、どうやらこれが似ているとか。生息域は違えども見た目も似ているので信憑性もあります。

ともあれ、青ツブは煮付けやツボ焼き、バター焼きにして美味しい食材ですから、使うことに何のためらいもありません。貝ごと茹でたら中身を取り出します。料理には足(白い身の部分)だけを使います。ぬたとは味噌和え(酢味噌の場合も)のこと。葱を茹で調理した青ツブと和えてみました。

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かくして「田螺と葱のぬた」の再現が完成です。今回は酢味噌仕立てにしました。摘んでみれば身のこりっとした食感がたまりません。さらに酢味噌が引き出した足の旨味が口の中でふくよかに広がります。これはやみつきの味です。大滝の五郎蔵でなくとも好物になること必至。葱の風味もあいまってしみじみと味わい深い、これは良い酒肴となりそうです。

酢味噌のコクある肴に、濃醇な「酉与右衛 山廃純米」を

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選んだのは「酉与右衛(よえもん) 山廃純米酒 無濾過 自家田美山錦 五五%精米

その理由は、コクのある料理には濃醇な酒というセオリーから。また生酒の清涼感が酢味噌と合うのではないかという期待感から。しかし、これが意外にもおもしろい結果に。

生酒=清涼感という、口に含む前の先入観を一瞬で打ち消すほどの口当たり。ピリリとしていて、だけどふんわり。甘味と酸味、さまざまな雑味が現在進行形で混じり合おうとしている、口の中でそんな不思議な酉与右衛劇場が繰り広げられます。

頭の中で情報を整理しつつ、酒はとにかくフレッシュ。ですから酢味噌の香味とはごく自然に寄り添います。反対に、具材の旨味とは溶け合うというよりは、互いに相手を引き立て合う、そんな相性の良さが感じられました。

大滝の五郎蔵には申し訳ないが、痛快なほど旨い酒で「田螺と葱のぬた」、たっぷりと楽しませてもらいました。

(文/KOTA)

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KOTA(コタ)

旨い酒と肴に心の居場所を求める晩酌マニア。家では「呑むなら作るべし」と自作の肴に舌鼓。日々繰り返す「呑み過ぎ&反省」のジレンマから、不惑の呑兵衛になるべく利き唎酒師を取得。広告制作および物書き稼業の傍ら趣味で里神楽(獅子舞)も。

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