こんにちは、福井大学生でSAKETIMESライターの小林悠太です。

今回のテーマは、「小さな酒蔵で日本酒を造り続ける意味」です。

現在、日本酒はどこにいっても置いてあり、さまざまな形で売られていますよね。酒屋だけで売られているのではなく、スーパーやコンビニでも取り扱われています。また、飲食店だとファミレスにもあります。消費の多様化によって、いつでもどこでも手軽に日本酒を飲むことができるようになりましたね。

以前に比べ、販売や提供される場が広がり、商売しやすくなったのではないでしょうか。
酒蔵がお酒を造り、消費者に売るという行為は商売。商売とは、利益をあげる目的で物を売り買いすることです。経済的に考えれば、さまざまな場所で、数多く売るほうが良いのは当然のことだと思います。

ですが、人気が出て、売れ行きが好調になったにもかかわらず、あえて事業を拡大せずに日本酒を造る酒蔵があります。
そのような酒蔵は、どうして小規模なまま造り続けるのでしょうか。

今回は、私が日本酒を熱心に扱う酒屋の社長や、福井県の酒蔵の社長にうかがった話をもとに、小さな酒蔵で日本酒を造り続ける理由を3つにまとめてみました。

 大規模化を好まない酒蔵の3つのこだわり

1. 酒造りのこだわり

日本酒を造るには、たくさんの必要な工程があります。大まかに説明しますね。まず米をみがき、洗ったりして準備します。次に米を蒸して、麹(こうじ)と酒母(しゅぼ)をつくります(※酒母とは、酵母を蒸米に培養させたものです。酵母についてはこちらをご覧ください。>日本酒造りに不可欠な「酵母(こうぼ)」とは?)。その後、醪(もろみ)をつくり、発酵させ、日本酒を搾っていくのです。この後にまだまだ行うことがあります。と、文章では簡単に書きましたが、日本酒を造るのはとても大変です。

そして、どのようなお酒を造りたいかによって、必要な労力が変わってきます。その際、特に大きな違いとして、機械によって造るのか、それとも人の手によって造るのかということがあります。

昔ながらの製法を大切にしている場合は、手作業によって膨大な時間をかけなければいけません。また、データではなく、熟練した杜氏や蔵人の経験や勘によって作り進めて行きます。小さな酒蔵である場合は、量よりも特質のあるお酒を造る場合が多いです。
そのため、酒蔵全員の考えが一致しなければ、思い描く日本酒を造ることができません。

蔵人が多ければ、杜氏や蔵人同士の意思疎通が難しくなります。したがって、小さな酒蔵は酒づくりのアイデンティティー変えないようにするため、大規模経営の必要性が無いと考えるのだそうです。

 

2. 酒質の維持

高品質な日本酒を造るには、やはり手間がかかります。日本酒は生き物ですから、目指す味わいにするためには十分にお世話をしなければなりません。大規模な酒蔵だと、一度の酒造りで大量のタンクを仕込みます。そうしなければ、稼働率が悪くなってしまいますからね。ですがその場合、タンクひとつひとつに徹底した管理をすることは難しくなってしまうのだそう。

小さな酒蔵なら小仕込みであるため、隅々に目配りした酒を造ることができます。経済が主体にならず、ものづくりを最優先に考えられるため、酒蔵を大きくしたいと思わないようです。

 

3. 人の繋がり

日本酒は造ったら、売らなければ消費者に届きません。最後に飲んでもらってこそ、お酒の良さが伝わります。その販売を手伝ってくれるのが酒屋などの小売店です。大きな酒造は、日本酒を造る量が多いため、たくさんの場所で売られています。

しかし、小さな酒蔵だとさまざまなお店で売ることは不可能です。この逆境を強みにしなければなりません。
大規模な酒蔵の商品は、一般的な小売店でただ置いてあるだけです。ですが、何度も酒蔵に通って、親交の深い間柄になった酒屋さんに任すことで、日本酒そのものだけでなく、酒造りの背景にあるストーリーも託すことができます。

酒蔵が一生懸命造ったお酒の品質を細心の注意を払って管理し、どのようにして造られたのかを消費者に説明してくれる存在がいたら、怖いもの無しですよね。

酒蔵だけでなく、お酒を売ってくれる方々との繋がりを大切にできるのは小さな酒蔵の特権ではないでしょうか。

以上、3つの理由から小さな酒蔵で日本酒を造り続けるとのことです。

もちろん、大きな酒蔵と小さな酒蔵、優劣があるではありません。大きな酒蔵で造られたお酒もそれぞれのバックボーンを持って、私たち消費者の元に届いています。

今回は小さな酒蔵に注目してみましたが、ぜひ、みなさんも日本酒を飲むときにはこれらのことを考えながら飲んでみてください。より一層お酒を飲むことが楽しくなりますよ。

 

 

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