飲食店や酒販店で見たり聞いたりする日本酒の用語を知ることで、さらに日本酒を楽しむことができるようになります。
今回は、日本酒の味わいに大きな影響を与える「酵母(こうぼ)」について解説します。
酒の歴史を変えた3つの「きょうかい酵母」
日本酒造りでは、米のでんぷんの糖化と、糖分をアルコールに変えるアルコール発酵が同時並行的に1つのタンクで行われます。いわゆる並行複発酵と呼ばれるものですね。
麹菌が分解した糖を、アルコールに変換するのが「酵母」と呼ばれる微生物です。また、酵母には酒の香りを決定づけるという大切な役目もあります。
酵母にはさまざまな種類があり、その特性によって日本酒以外のお酒(ビールやワイン)の醸造やパンの製造にも使われるものもありますが、日本酒の醸造に適した酵母は「清酒酵母」と呼ばれています。
日本酒を醸すのに必要な清酒酵母の存在が確認されたのは明治時代なってから。それまでは、どの酒蔵でも蔵の中に棲みついている酵母を培養して利用していたため、できあがる日本酒の酒質にはばらつきがありました。
そこで、国家予算の多くを占める酒税を安定的に確保したいと考えた明治政府は、優良な清酒酵母を探して純粋培養し全国の酒蔵に頒布することを始めます。これが「きょうかい酵母」の始まりです。
「きょうかい酵母」にはいくつか種類がありますが、そのなかでも代表的な3つの酵母を紹介します。
「きょうかい6号酵母」
秋田の銘酒「新政」を醸す、新政酒造から分離された酵母です。香りが穏やかで、すっきりとした淡麗な酒質によく合い、味に深みが出るといわれています。頒布開始は昭和10年(1935年)、現在も日本醸造協会から頒布されている酵母としては80年以上も続く最古のものです。
「きょうかい7号酵母」
長野県の宮坂醸造から分離された酵母です。「真澄」を醸造する蔵から発見されたため、「真澄酵母」という別名も持ちます。落ち着いた香りとバランスのとれた味わいで、クセがないため多くの蔵で採用されています。
「きょうかい9号酵母」
熊本県の銘酒「香露」を醸す、熊本県酒造研究所から分離された酵母です。「熊本酵母」とも呼ばれ、酸が少なく香りが高く、吟醸造りに適しています。"酒の神様"と称された野白金一(のじろきんいち)さんがこの酵母の発見に寄与していることが有名です。
よい酒ができる条件として「YK35」という言葉が広まりましたが、これは「山田錦(Y)を35%精米し、熊本酵母(K)を使って醸す」ということ。1990年代なかばまでは、鑑評会に出品されるお酒のほとんどにこの9号酵母を使っていたそうです。
このように「酵母」は、日本酒の味わいを大きく左右する存在です。日本酒にはさまざまな種類がありそれぞれに魅力がありますが、使われている酵母の特徴を知っておくと、日本酒選びの幅が広がりますね。
(文/SAKETIMES編集部)