銘酒「高清水」で知られる秋田酒類製造(以下、高清水)の2つの蔵「本社蔵」「御所野蔵」が、令和3酒造年度の全国新酒鑑評会にて、ともに金賞を受賞しました。
御所野蔵の加藤杜氏は18回連続20回目の受賞で、単独蔵の杜氏としての連続記録を更新。本社蔵の菊地杜氏は3回連続4回目で、高清水全体としては22回連続の受賞となりました。
そんな高い酒造技術を誇る「高清水」は、2021年11月、秋田県内限定の「AKITAKASHIMIZU」シリーズを新たに発表しました。
この第1弾として展開中の「秀麗無比(しゅうれいむひ)」は、「6号酵母」と「秋田流寒仕込み」という、高清水が創業から一度も絶やしていない酒造りの基本に立ち帰って造られたものです。
なぜ今、高清水は、原点回帰を意識した商品を発売したのでしょうか。「秀麗無比」シリーズに込められた想いを開発に携わったメンバーの話から紐解くとともに、商品の魅力に迫ります。
原点に立ち帰って見えたもの
「きっかけはコロナ禍でした」
そう振り返るのは「秀麗無比」の商品企画を担当した営業企画部の須永航さん。ここ数年、営業活動をしようにも県外に出られない日々が続き、地元・秋田県の消費者に向けた新しい商品の開発が求められていました。
日々もんもんと考える中でアイデアが浮かんだのは、2018年の東京出張を思い出したことがきっかけでした。当時、羽田空港に着くと、ロビーのテレビに高校野球の中継が流れていました。
「秋田県の金足農業高校が全国の強豪校相手に素晴らしい試合をしていて、とても誇らしい気持ちになったんですよ。その場で『私の地元なんです!』と大声で言いたくなるような(笑)。そのことを思い出した時、全国を相手に戦っていた金農ナインのように、高清水は全国の酒どころをうならせ、秋田県民に誇りを与えられているのかという自問自答が始まりました」
「地元を大事にしていることを改めて宣言したい」と考えた須永さんの頭に思い浮かんだのは、「秋田流寒仕込み」と「6号酵母」というキーワードです。
秋田流寒仕込みとは、秋田県の気候風土を活かし、寒冷の時期にじっくりと長期低温発酵させる醸造方法で、きれいな酒質でふくらみのある味わいを生み出します。6号酵母は、秋田市にある新政酒造のもろみから分離された酵母で、現在も日本醸造協会から頒布されている「きょうかい酵母」の中では最古のもの。おだやかで澄んだ香りが特徴です。
高清水と6号酵母の関係性を歴史的な観点からみてみると、新政酒造で6号酵母の育成に尽力した鶴田百治さんが、高清水の初代杜氏を務めたという時代背景があります。高清水には、新政酒造を発祥とする6号酵母への尊敬と、創業当時から6号酵母を守り続けてきた自負があるのです。
現在、社内でただひとり、生前の鶴田さんに会ったことがあるという専務取締役の古木吉孝さんも、「6号酵母は高清水の原点」と語ります。
「うちの『辛口』という商品は、あまり辛口らしくないと言われることがあります。口に含んだ時にまるみのある旨味が感じられるというか、味わいがしっかりしているんですよね。それも6号酵母だからこそ。他の酵母ではこの味が出せなかったということが、使い続ける理由でしょう」
「秀麗無比」は、そんな伝統の酒造りをより突き詰めたシリーズです。しぼりたてや無濾過原酒、アッサンブラージュ、山廃仕込みなど、さまざまな角度から、高清水の酒造りの原点を表現していきます。
シリーズのタイトルでもある「秀麗無比」は、地元の人々に馴染みが深い「秋田県民歌」の歌い出し、『〽秀麗無比なる 鳥海山よ 狂瀾吼え立つ(きょうらんほえたつ) 男鹿半島よ』から名付けられたもの。コロナ禍の逆境のなかで、あえて県内限定で販売することにしたのは、地元に対する愛情の表れです。
ふたりの杜氏が明かす「6号酵母」への想い
「秀麗無比」シリーズでは、約1年間をかけて4種類の日本酒が発売されます。本社蔵と御所野蔵のふたりの杜氏がコンセプトに沿った造りに挑みました。
2021年11月に発売した第1弾「純米しぼりたて」(通称:秀)は、御所野蔵を預かる杜氏・加藤均さんの手によるしぼりたての純米酒。吟醸酒に特化した御所野蔵では、あまり6号酵母を使用していないことから、加藤さんにとっても大きな挑戦となったそうです。
「久しぶりに6号酵母を使いましたが、昔と変わった印象を受けました。御所野蔵の特性を活かすときれいなお酒になりやすいため、深い味わいを出しながらバランスをとるのが大変でしたね。私は杜氏として晩年期に入ったと思っていましたが、6号酵母を改めて使ってみて、新たなイマジネーションをかきたてられましたよ」
味わいについては、「伝統的な6号酵母らしい純朴な印象に加えて、少しすっきりとした輪郭が感じられるお酒に仕上がった」と加藤さんは話します。
2022年2月に発売した第2弾「無濾過純米原酒」(通称:麗)は、高清水の看板商品「精撰辛口」などのレギュラー酒を手がける本社蔵の杜氏・菊地格さんによる無濾過の純米原酒。
高清水には、6号酵母を使用した「酒乃国純米」という商品がありますが、「麗」は同じ酵母でも、加水や熟成などの部分で異なるアプローチに挑戦しました。
「6号酵母独特の優しい香りはもちろん、ふくらみのある旨味の中に酸味が感じられるお酒に仕上がりました。本社蔵ではもっともよく使っている酵母ですが、もろみを搾った後の工程でより良い風味を残すことを意識して酒質を設計しました」
どちらも6号酵母はもとより、同じ米と水を使いながら異なる味わいに仕上がった「秀」と「麗」。「6号酵母の魅力に改めて気づいた」と両杜氏が口をそろえて話すように、造りの違いで表情が変わるおもしろさを実感したようです。
第3弾のテーマは、アッサンブラージュ
第1弾「秀」と第2弾「麗」は、どちらも高清水が誇りとする6号酵母の可能性を追求した日本酒となりました。
2022年5月に発売した第3弾「特別純米酒」(通称:無)で取り組んだのは、これまでの高清水であまり表に出てこなかったアッサンブラージュの手法。本社蔵と御所野蔵でそれぞれ造ったお酒をブレンドした1本です。
「日本酒のブレンドについてネガティブなイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、高清水にとっては、お酒の味わいを決定づける大切な技術。ブレンダーは、実は杜氏と肩を並べるくらいの大切な存在です」
そんな須永さんの言葉に後押しされ、この難しい試みを引き受けたのは、チーフブレンダーを務める沢畑秀実さんです。
高清水のレギュラー酒が変わらぬクオリティで流通するためには、沢畑さんのようなブレンダーの力が欠かせません。しかし本来、「調合」とは、ひとつの最適解を導き出すための技術。「個性を引き出し、表現として酒質をアッセンブル(組み立て)する機会は、実は初めてだった」と沢畑さんは話します。
「『無』のねらいを聞いた時、無になりました(笑)。ブレンドのために専用のお酒を造ることもできますが、今回は手元にあるもので仕上げなければならず、悩みましたね。ただ、商品化するお酒はほぼ毎日テイスティングしていますから、これがベースになるだろうというのは早い段階で見当がつき、あとはどのくらいの分量で合わせるかのバランスを試行錯誤していきました」
ブレンドの良し悪しを決める際の指標となったのが、"鯛の形"です。
初代杜氏・鶴田百治さんが理想のお酒の味わいについて語った言葉で、「口に含んでからの印象を表すと、鯛の姿を描いた曲線になる」というもの。ひと口飲めば、徐々に旨味が広がり、穏やかに収束しながら、最後に余韻を残す。そんなお酒のイメージを、沢畑さんも常に胸にとどめていたことでブレンドの方向性が定まりました。
「アッサンブラージュをする時にちょっと汚し役というか、『私もいますよ』と主張するお酒を加えることで、複雑さが生まれたと思います」
完成した日本酒を一足先に味わった須永さん曰く、「大曲の花火のような立体感があった」とのこと。大輪の花火を一気に打ち上げるのではなく、時間差でリズミカルに上がる花火のような味わいの変化は、アッサンブラージュならではかもしれません。
数々の難題に挑みながらも、「うちでもやっとコンセプトを生かした商品づくりができるようになりました」と、喜ばしい気持ちだったという沢畑さん。
加藤杜氏と菊地杜氏も、それぞれ「沢畑のブレンダーとしての力をいつもと違う方向に活かせることを期待したい」「今までにない取り組みで、出来栄えを楽しみにしています」と、仕上がりに注目しています。
秋田の地酒蔵としてのプライド
コロナ禍を経て、高清水が打ち出した「秀麗無比」シリーズは、一見、新たなチャレンジにも思えますが、これまで磨いてきた醸造技術に光を当てることで生まれた商品です。
2022年9月に発売予定の第4弾では、菊地杜氏が6号酵母を使った山廃仕込みに挑戦。これまでなかなか思うようにいかなかったという本社蔵での山廃仕込みを、試行錯誤の末に完成させました。
自分たちの地元にじっくりと向き合う高清水の酒造り。そこには、原点を忘れない謙虚さとおいしいお酒を造りたいという飽くなき向上心、そして、地元のファンへの愛がありました。
(取材・文:渡部あきこ/編集:SAKETIMES)
◎商品概要
- 商品名:AKITAKASHIMIZU 秀麗無比 特別純米酒
- 原料米:秋田県産米
- 精米歩合:60%
- アルコール度数:16.0度
- 価格:1,400円(720mL)
- 販売場所:秋田県内の酒販店や高清水のオンラインショップにて販売中 ※限定3,800本
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